短編集(夢主固定)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ヨースケ、横クマ!」
暗闇の中、クマが力いっぱいさけんだ。緊張を走らせた花村の脇腹めがけて、鋭利なフォークにも似た角が迫る。敵を認識した私は奥歯を噛んだ。即座に敵の背後を取るべく地面を蹴る。カブトムシ型のシャドウ——金剛蟲だ。通常の探索ならば、物理攻撃への耐性を除けば対処は容易である。
そう、通常の探索ならば。
特捜隊 が潜入したストリップ劇場は、誘拐の被害者——『久慈川りせ』のシャドウによって生み出されたダンジョンである。
ある階に到達すると、城主である彼女は照れ笑いとともに照明を消した。目が焼けるスポットライトから、一寸先の闇へ。シャドウにとっては奇襲に事欠かず、私たちは不覚をとりやすい。蟻地獄のダンスフロア。
そして、先頭を任されていた花村が不意打ちを受けたのである。
肉迫する金剛蟲に対して、ペルソナを召喚したのでは間に合わない。花村の武器は短剣だ。カブトムシの巨体を受け止める耐久力はない。
花村はとっさに身体を翻す。身軽さを生かし、金剛蟲の囮となる回避作戦。
しかし、金剛蟲は反応が素早かった。強引に軌道をねじり、鋭利な角を花村めがけて斜めに振り上げた。
防御に交差した花村の前腕に赤い線がはしる。飛散した血が暗闇に色を無くし、限りなく黒に近い赤となって落ちる。
「────ッ!!」
花村の顔が苦痛で歪む。
瞬間、私の脳内が怒りで沸く。憎悪にも似て黒く染まった血流が体中を駆け巡った。大切な人を害された怒りが、脳内の余計な情報をはらい去る。
花村が手持ちのデンデン太鼓を放った。閃光にひるんだ金剛蟲の動きがわずかに鈍る。それでも闘牛士に挑む獰猛な獣のごとく、金剛蟲は頭部を振りかぶった。
金剛蟲の勇気と賢さを称え、あるいは花村への蛮行を制するために、私がとるべき行動は一つ。
「串刺せ、氷槍」
ペルソナ召喚は花村が稼いだ時間で間に合った。
金剛蟲の喉元、その真下の地面から氷の槍が突き上げる。頭部を振り下ろした反動で金剛蟲は深々と氷柱に刺さった。串刺しの獲物は、肉のごとく解体するまで。
「──────フゥッ!」
私は跳躍し、氷の刃を振るう。斬撃が氷を通じて魔法攻撃に変化する。
金剛蟲の首がごとりと落ちた。怒りが成せた的確な芸当。
しかし油断はできない。シャドウは黒いもやとして霧散しない限り、攻撃を仕掛けてくることがある。着地後、私は背後に花村をかばう。氷の斧槍——私の背丈ほどの真っすぐな棒に氷の刃を付けたもの——を構えて、金剛蟲の最後を見届けた。
「相変わらず、変幻自在の氷だな」
感心する花村の声に、私は雷に打たれたように振り向いた。しゃがみこむ花村の下に雪子とリーダーが駆けつけ、回復魔法をかけている。
良かった、ちゃんと花村の傷は治っていっている。
「おまえさま!」
わたしは花村の下へ駆け寄り、片膝をついた。思ったよりも傷が広い。回復魔法を持たない私は、痛みをこらえる彼の背中を何度もさすっている。
彼の無事に安堵したのは一瞬。花村を守れなかった自分が不甲斐ない。
金剛蟲に向けていた黒々とした怒りが自分にむかってくるように、自責の念が沸いてくる。
傷を沈鬱に見つめる私に、花村がおどけて話しかけた。
「かるいかるい、こんなのオトコノコからしたら勲章だっての」
私の仕草から不安を感じ取った彼が、慰めてくれているのだろう。
……正直、花村の身体を傷つけて得られる栄誉など滅ぶべきだと思うのだが、彼が身体を張ったからこそ助けられた人がいる。
今回だって、花村が囮を引き受けてくれたからほかの仲間に被害が及ばなかったのだ。花村は傷つくことなど百も承知。その覚悟と、成し遂げた結果に泥を塗るようなことを、誰がしていいというのだろう。
だからこそ、私ができることは、花村の受けた傷を労わることに限る。私は表情を引き締めた。
「怪我をさせて、すまない。そして、ありがとう、花村。おまえさまが先陣を切ってくれるから、その動きを活かして私も立ち回れる」
花村はぽかんと口をあけたあと、はにかむ。
「うん。だからさ、あんま、自分を責めるなよな」
花村は、傷を受けた腕を私の目の前に示す。跡が残ることなく、傷はきれいに消えている。もう大丈夫だと、言葉にはせずに花村はからりと笑った。
無くなった傷を見て、私は一本取られた気分になった。
過去に不甲斐なさや自責の念を覚えるよりも、私にはやるべきことがあるはずだ。
私は陽介の背中を一つ撫でた。
立ち上がり、他のメンバーと話していたリーダーの下へ向かう。
「リーダー、時間を少しもらいたい。フロアを進むにあたってメンバーの隊列を考えたいのだが」
過去に傷を受けた事実は消すことはできない。けれど、かつて経験を生かして同じ過ちを未来に繰り返さないことならば、できるはずだ。
リーダーも、私の提案と同じことを考えていたらしい。仲間の安全を考えて行動できる特捜隊のリーダーはやはり頼もしい人物だ。
隊列を防御に適した形に見直し、特捜隊 は暗闇に包まれたダンスフロアを突破した。
暗闇の中、クマが力いっぱいさけんだ。緊張を走らせた花村の脇腹めがけて、鋭利なフォークにも似た角が迫る。敵を認識した私は奥歯を噛んだ。即座に敵の背後を取るべく地面を蹴る。カブトムシ型のシャドウ——金剛蟲だ。通常の探索ならば、物理攻撃への耐性を除けば対処は容易である。
そう、通常の探索ならば。
ある階に到達すると、城主である彼女は照れ笑いとともに照明を消した。目が焼けるスポットライトから、一寸先の闇へ。シャドウにとっては奇襲に事欠かず、私たちは不覚をとりやすい。蟻地獄のダンスフロア。
そして、先頭を任されていた花村が不意打ちを受けたのである。
肉迫する金剛蟲に対して、ペルソナを召喚したのでは間に合わない。花村の武器は短剣だ。カブトムシの巨体を受け止める耐久力はない。
花村はとっさに身体を翻す。身軽さを生かし、金剛蟲の囮となる回避作戦。
しかし、金剛蟲は反応が素早かった。強引に軌道をねじり、鋭利な角を花村めがけて斜めに振り上げた。
防御に交差した花村の前腕に赤い線がはしる。飛散した血が暗闇に色を無くし、限りなく黒に近い赤となって落ちる。
「────ッ!!」
花村の顔が苦痛で歪む。
瞬間、私の脳内が怒りで沸く。憎悪にも似て黒く染まった血流が体中を駆け巡った。大切な人を害された怒りが、脳内の余計な情報をはらい去る。
花村が手持ちのデンデン太鼓を放った。閃光にひるんだ金剛蟲の動きがわずかに鈍る。それでも闘牛士に挑む獰猛な獣のごとく、金剛蟲は頭部を振りかぶった。
金剛蟲の勇気と賢さを称え、あるいは花村への蛮行を制するために、私がとるべき行動は一つ。
「串刺せ、氷槍」
ペルソナ召喚は花村が稼いだ時間で間に合った。
金剛蟲の喉元、その真下の地面から氷の槍が突き上げる。頭部を振り下ろした反動で金剛蟲は深々と氷柱に刺さった。串刺しの獲物は、肉のごとく解体するまで。
「──────フゥッ!」
私は跳躍し、氷の刃を振るう。斬撃が氷を通じて魔法攻撃に変化する。
金剛蟲の首がごとりと落ちた。怒りが成せた的確な芸当。
しかし油断はできない。シャドウは黒いもやとして霧散しない限り、攻撃を仕掛けてくることがある。着地後、私は背後に花村をかばう。氷の斧槍——私の背丈ほどの真っすぐな棒に氷の刃を付けたもの——を構えて、金剛蟲の最後を見届けた。
「相変わらず、変幻自在の氷だな」
感心する花村の声に、私は雷に打たれたように振り向いた。しゃがみこむ花村の下に雪子とリーダーが駆けつけ、回復魔法をかけている。
良かった、ちゃんと花村の傷は治っていっている。
「おまえさま!」
わたしは花村の下へ駆け寄り、片膝をついた。思ったよりも傷が広い。回復魔法を持たない私は、痛みをこらえる彼の背中を何度もさすっている。
彼の無事に安堵したのは一瞬。花村を守れなかった自分が不甲斐ない。
金剛蟲に向けていた黒々とした怒りが自分にむかってくるように、自責の念が沸いてくる。
傷を沈鬱に見つめる私に、花村がおどけて話しかけた。
「かるいかるい、こんなのオトコノコからしたら勲章だっての」
私の仕草から不安を感じ取った彼が、慰めてくれているのだろう。
……正直、花村の身体を傷つけて得られる栄誉など滅ぶべきだと思うのだが、彼が身体を張ったからこそ助けられた人がいる。
今回だって、花村が囮を引き受けてくれたからほかの仲間に被害が及ばなかったのだ。花村は傷つくことなど百も承知。その覚悟と、成し遂げた結果に泥を塗るようなことを、誰がしていいというのだろう。
だからこそ、私ができることは、花村の受けた傷を労わることに限る。私は表情を引き締めた。
「怪我をさせて、すまない。そして、ありがとう、花村。おまえさまが先陣を切ってくれるから、その動きを活かして私も立ち回れる」
花村はぽかんと口をあけたあと、はにかむ。
「うん。だからさ、あんま、自分を責めるなよな」
花村は、傷を受けた腕を私の目の前に示す。跡が残ることなく、傷はきれいに消えている。もう大丈夫だと、言葉にはせずに花村はからりと笑った。
無くなった傷を見て、私は一本取られた気分になった。
過去に不甲斐なさや自責の念を覚えるよりも、私にはやるべきことがあるはずだ。
私は陽介の背中を一つ撫でた。
立ち上がり、他のメンバーと話していたリーダーの下へ向かう。
「リーダー、時間を少しもらいたい。フロアを進むにあたってメンバーの隊列を考えたいのだが」
過去に傷を受けた事実は消すことはできない。けれど、かつて経験を生かして同じ過ちを未来に繰り返さないことならば、できるはずだ。
リーダーも、私の提案と同じことを考えていたらしい。仲間の安全を考えて行動できる特捜隊のリーダーはやはり頼もしい人物だ。
隊列を防御に適した形に見直し、