酔いどれ騒動
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『今夜、陽介の部屋で待っていてくれないか?陽介には内緒で』
というのが、昼頃に鳴上から受け取ったメールであった。
私は首をかしげる。恋人である花村陽介は本日、彼の親友兼相棒である鳴上悠と2人だけで飲みに向かう予定のはずだ。
つまり私は、鳴上と飲んだ後の陽介たちと、陽介の部屋で合流する運びとなるのだろう。
3人で会うならば、話す時間もない不可解なタイミングである。それを指定する鳴上の提案は奇妙であった。
彼のメールの意図はなにか?私は様々な可能性を思案する。
宅飲みの誘い?ならば、陽介に私の来訪を隠す必要などない。
介抱の人手が必要?しかし、これまでだって陽介と鳴上が飲みに行く機会はあったが、深刻に体調を崩したという話は聞いていない。
なぜ、鳴上は私を陽介の部屋に呼び出すのか。
頭の中は疑問でいっぱいだが、私は『承知した』と鳴上に連絡を入れる。鳴上が呼び出すのなら、何か意味があるのだろう。
大学の用事を終えたのち、私は合鍵を使って陽介の部屋を訪問した。
そして訪れた夜、私は全ての理由を知った。
玄関口、鳴上の肩に担がれた陽介に、私はびっくりして駆け寄った。関節が外れてしまうのではないかというほど、陽介はグデングデンになっている。明らかに飲みすぎていた。
「陽介!? おまえさま、大丈夫なのかっ?」
すぐさま私は懐に入り込み、陽介を支える。アルコールの甘い匂いが漂った。酒精がまわっているのか、陽介の身体は火が出そうなほどに熱い。
私は鳴上に羨ましさを覚えた。私と飲むときでさえ、骨が抜かれるほど酷くは酔わないというのに。よほど鳴上との飲みが楽しくて、陽介はお酒が進んでしまったのだと見える。いったい、彼らは何を肴に過ごしていたというのだろうか。
見上げれば、陽介と視線が合わさった。ぼやけていた陽介の瞳に私の姿がはっきりと映し出される。それから陽介はにへらと笑った。
「えへ、うへへ……。ゆーう、おれ夢見てんのかなぁ。目の前にせかいいちかわいいカノジョがいる」
「何を言って…………………ほわっつ!?」
意味を解した私の血液が沸き立つ。陽介は鳴上の肩からするりと腕を外すと、おもむろに私の身体を抱き込んだ。不意打ちを受けた私の身体は、雪が熱に溶かされるように膝からゆっくりと崩れていく。
「あ…………」
好きな人に、抱きしめられている。眼前の事実に、歓喜と恐れ多さと鳴上に見られている恥ずかしさが喉に詰まって、私は声を失くしてしまう。陽介の熱に当てられて、顔を覆い隠す手までが赤く色づいている。
「陽介、夢じゃない。目の前にいるのは本物の彼女だ。あと、靴を脱げ」
「そーか、ほんもんかぁ。だからすげーかぁいいのかぁ。なっとくなっとく」
鳴上に従って、陽介は靴を脱いだ。そこまではいい。しかし、外履きを脱いで部屋へと上がれるようになった陽介は、あろうことか私への密着を強めてきた。嬉しいけれども、拘束されては酔った陽介を介抱できない。
鳴上に無言で助けを求めるが、穏やかに微笑むだけだ。どうやら彼は成り行きを見守るつもりらしい。いたたまれない状況を打破するために、私は陽介の胸板をやんわりと押した。
「よ、陽介、いったん離れて」
「なんで? おまえは俺にこうされるの、イヤ?」
「い、嫌なわけがないだろう!?」
私は即答する。捨てられる子犬の哀れを滲ませた上目遣いの陽介を、私がひどく扱えるわけがない。私は内心で嬉しい悲鳴を上げた。お酒に酔った陽介がこんなにも甘えたがりだとは知らなかったのだ。
遠慮がちでカッコつけたがりな陽介は、普段あまり甘えてこない。ゆえに、堂々と肌を摺り寄せて甘えてくる陽介のいじらしさは一塩である。
返答を聞き届けた陽介は、私の身体に火照った身体を摺り寄せた。しばらくすると、うわ言のようにかわいいかわいいと呟いて、陽介は顔を上げる。酔いとは違う赤みに頬を染めて、陽介はまた、にへらと笑った。
「そっか。ホッペすげーあかいぞ、おまえ。かわいいな」
「頬が赤いのは、おまえさまも同じでは?」
「ちがう。お前はかわいーの!」
陽介は子供のように、むーっと頬を膨らませる。あざとい。あざといがすぎる、陽介。
不意に私の頬を陽介が両手でやんわりと挟んだ。アルコールの甘い匂いに身体から力が抜けて、否応なしに陽介と私は向き合う。熱に浮かされていたはずの陽介の瞳には、真摯な光が射している。
「つきあってから何年も経つのにずーっとかわいいし、けんかしても全然嫌いにならねーし、むしろ一緒にいるほどもっともっと好きになってくし………………ほんと、すき」
もはや何度目か分からない抱擁が私を襲う。私の身体が熱さにのぼせているのは、彼から吹き込まれたアルコールのせいだけではない。彼に覆われた正面と背後に回った腕が、余すことなく彼の熱を伝えて離さないのだから。
陽介の肩口に埋まった私と、成り行きを見守っていた鳴上の視線が合った。彼はニマニマと口の端を弾ませている。
「陽介のやつ、俺と飲むといつもこんな調子なんだ。君のことばっかり話すようになって、へべれけになる」
だから、本人に会わせてみたらどうなるかなって。
鳴上は悪びれもせずに告げると、「あとは2人で」と玄関ドアから姿を消す。かくして、酔っ払いと私だけが一つの部屋に残されたのである。
しかし、私は鳴上を責める気にはなれなかった。なぜならば、陽介が酔った理由を鳴上は教えくれたから。同時に、ひどく酔っ払った陽介のそばにいた鳴上に抱いた羨ましさもほどけていった。
鳴上によれば、陽介は私の話ばかりをして、酔いを深めたのだという。
彼が私の前でひどく酔えるはずもないのだ。酔った陽介は私のことばかりを話し、私を前にすれば驚くほど甘えたがりになってしまうのだから。
恋人の知られざる一面に、私は心が躍った。
私を抱きしめる陽介の髪に、私は指を差し入れる。普段は恥ずかしがるというのに、酔っている陽介は、素直にしなやかな癖のある髪を絡めてきた。くふふと、温かい笑い声が漏れ出して、私の手のひらをくすぐる。
「んふふ、あいしてる」
本心から幸せそうに呟く陽介に、私の中で愛おしさが爆発した。陽介の膝裏と背中に手を添え、よいせっと彼を持ち上げる。腕の中を占める、陽介の体温と重さに私の心は満たされた。そうっと陽介の赤くなった耳朶へと唇を寄せて、私はある言葉を忍ばせる。
「私も、愛しているからな。陽介」
「うへへ、おれもー!」
陽介は片手を宙に突き出して、子供のような仕草で賛同する。お酒は大人の飲み物だというのに、すっかり彼は甘え盛りの子供へと戻ってしまったらしい。
私は陽介の額に軽く口づけた。今夜は子供のようにあたたかい陽介の身体を抱きしめて、彼が眠りに落ちるのを見守ろう。子守唄を歌って、しなやかな髪を梳いて。そうして眠った彼の隣で、私も共に眠るのだ。
幸せそうに、にへらと笑った陽介を抱えて、私は鼻歌まじりに廊下をゆっくりと歩き始めた。
翌日、すべてを覚えていた陽介が悶絶し、しばらくお酒と疎遠になるのはまた別の話。
というのが、昼頃に鳴上から受け取ったメールであった。
私は首をかしげる。恋人である花村陽介は本日、彼の親友兼相棒である鳴上悠と2人だけで飲みに向かう予定のはずだ。
つまり私は、鳴上と飲んだ後の陽介たちと、陽介の部屋で合流する運びとなるのだろう。
3人で会うならば、話す時間もない不可解なタイミングである。それを指定する鳴上の提案は奇妙であった。
彼のメールの意図はなにか?私は様々な可能性を思案する。
宅飲みの誘い?ならば、陽介に私の来訪を隠す必要などない。
介抱の人手が必要?しかし、これまでだって陽介と鳴上が飲みに行く機会はあったが、深刻に体調を崩したという話は聞いていない。
なぜ、鳴上は私を陽介の部屋に呼び出すのか。
頭の中は疑問でいっぱいだが、私は『承知した』と鳴上に連絡を入れる。鳴上が呼び出すのなら、何か意味があるのだろう。
大学の用事を終えたのち、私は合鍵を使って陽介の部屋を訪問した。
そして訪れた夜、私は全ての理由を知った。
玄関口、鳴上の肩に担がれた陽介に、私はびっくりして駆け寄った。関節が外れてしまうのではないかというほど、陽介はグデングデンになっている。明らかに飲みすぎていた。
「陽介!? おまえさま、大丈夫なのかっ?」
すぐさま私は懐に入り込み、陽介を支える。アルコールの甘い匂いが漂った。酒精がまわっているのか、陽介の身体は火が出そうなほどに熱い。
私は鳴上に羨ましさを覚えた。私と飲むときでさえ、骨が抜かれるほど酷くは酔わないというのに。よほど鳴上との飲みが楽しくて、陽介はお酒が進んでしまったのだと見える。いったい、彼らは何を肴に過ごしていたというのだろうか。
見上げれば、陽介と視線が合わさった。ぼやけていた陽介の瞳に私の姿がはっきりと映し出される。それから陽介はにへらと笑った。
「えへ、うへへ……。ゆーう、おれ夢見てんのかなぁ。目の前にせかいいちかわいいカノジョがいる」
「何を言って…………………ほわっつ!?」
意味を解した私の血液が沸き立つ。陽介は鳴上の肩からするりと腕を外すと、おもむろに私の身体を抱き込んだ。不意打ちを受けた私の身体は、雪が熱に溶かされるように膝からゆっくりと崩れていく。
「あ…………」
好きな人に、抱きしめられている。眼前の事実に、歓喜と恐れ多さと鳴上に見られている恥ずかしさが喉に詰まって、私は声を失くしてしまう。陽介の熱に当てられて、顔を覆い隠す手までが赤く色づいている。
「陽介、夢じゃない。目の前にいるのは本物の彼女だ。あと、靴を脱げ」
「そーか、ほんもんかぁ。だからすげーかぁいいのかぁ。なっとくなっとく」
鳴上に従って、陽介は靴を脱いだ。そこまではいい。しかし、外履きを脱いで部屋へと上がれるようになった陽介は、あろうことか私への密着を強めてきた。嬉しいけれども、拘束されては酔った陽介を介抱できない。
鳴上に無言で助けを求めるが、穏やかに微笑むだけだ。どうやら彼は成り行きを見守るつもりらしい。いたたまれない状況を打破するために、私は陽介の胸板をやんわりと押した。
「よ、陽介、いったん離れて」
「なんで? おまえは俺にこうされるの、イヤ?」
「い、嫌なわけがないだろう!?」
私は即答する。捨てられる子犬の哀れを滲ませた上目遣いの陽介を、私がひどく扱えるわけがない。私は内心で嬉しい悲鳴を上げた。お酒に酔った陽介がこんなにも甘えたがりだとは知らなかったのだ。
遠慮がちでカッコつけたがりな陽介は、普段あまり甘えてこない。ゆえに、堂々と肌を摺り寄せて甘えてくる陽介のいじらしさは一塩である。
返答を聞き届けた陽介は、私の身体に火照った身体を摺り寄せた。しばらくすると、うわ言のようにかわいいかわいいと呟いて、陽介は顔を上げる。酔いとは違う赤みに頬を染めて、陽介はまた、にへらと笑った。
「そっか。ホッペすげーあかいぞ、おまえ。かわいいな」
「頬が赤いのは、おまえさまも同じでは?」
「ちがう。お前はかわいーの!」
陽介は子供のように、むーっと頬を膨らませる。あざとい。あざといがすぎる、陽介。
不意に私の頬を陽介が両手でやんわりと挟んだ。アルコールの甘い匂いに身体から力が抜けて、否応なしに陽介と私は向き合う。熱に浮かされていたはずの陽介の瞳には、真摯な光が射している。
「つきあってから何年も経つのにずーっとかわいいし、けんかしても全然嫌いにならねーし、むしろ一緒にいるほどもっともっと好きになってくし………………ほんと、すき」
もはや何度目か分からない抱擁が私を襲う。私の身体が熱さにのぼせているのは、彼から吹き込まれたアルコールのせいだけではない。彼に覆われた正面と背後に回った腕が、余すことなく彼の熱を伝えて離さないのだから。
陽介の肩口に埋まった私と、成り行きを見守っていた鳴上の視線が合った。彼はニマニマと口の端を弾ませている。
「陽介のやつ、俺と飲むといつもこんな調子なんだ。君のことばっかり話すようになって、へべれけになる」
だから、本人に会わせてみたらどうなるかなって。
鳴上は悪びれもせずに告げると、「あとは2人で」と玄関ドアから姿を消す。かくして、酔っ払いと私だけが一つの部屋に残されたのである。
しかし、私は鳴上を責める気にはなれなかった。なぜならば、陽介が酔った理由を鳴上は教えくれたから。同時に、ひどく酔っ払った陽介のそばにいた鳴上に抱いた羨ましさもほどけていった。
鳴上によれば、陽介は私の話ばかりをして、酔いを深めたのだという。
彼が私の前でひどく酔えるはずもないのだ。酔った陽介は私のことばかりを話し、私を前にすれば驚くほど甘えたがりになってしまうのだから。
恋人の知られざる一面に、私は心が躍った。
私を抱きしめる陽介の髪に、私は指を差し入れる。普段は恥ずかしがるというのに、酔っている陽介は、素直にしなやかな癖のある髪を絡めてきた。くふふと、温かい笑い声が漏れ出して、私の手のひらをくすぐる。
「んふふ、あいしてる」
本心から幸せそうに呟く陽介に、私の中で愛おしさが爆発した。陽介の膝裏と背中に手を添え、よいせっと彼を持ち上げる。腕の中を占める、陽介の体温と重さに私の心は満たされた。そうっと陽介の赤くなった耳朶へと唇を寄せて、私はある言葉を忍ばせる。
「私も、愛しているからな。陽介」
「うへへ、おれもー!」
陽介は片手を宙に突き出して、子供のような仕草で賛同する。お酒は大人の飲み物だというのに、すっかり彼は甘え盛りの子供へと戻ってしまったらしい。
私は陽介の額に軽く口づけた。今夜は子供のようにあたたかい陽介の身体を抱きしめて、彼が眠りに落ちるのを見守ろう。子守唄を歌って、しなやかな髪を梳いて。そうして眠った彼の隣で、私も共に眠るのだ。
幸せそうに、にへらと笑った陽介を抱えて、私は鼻歌まじりに廊下をゆっくりと歩き始めた。
翌日、すべてを覚えていた陽介が悶絶し、しばらくお酒と疎遠になるのはまた別の話。