サンストーンのあなた
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花畑を縦断するあぜ道を、二人は並びあって歩いていく。陽介と瑞月は手をつないでいた。どうして二人が手をつないでいるのかというと、陽介は瑞月が突然倒れるリスクを考慮したのだ。
「わたしはもう大丈夫だ。支えがなくとも、帰還できる」
回復を受けた瑞月は、元の調子を取り戻した。しかし、先程倒れかけた人間を『はいそうですか』と放っておくなど陽介はできなかったため、説得したのである。
「さっき、倒れかけておいて信頼性ゼロなんだよ。ほれ、おとなしく手を上げろ」
「それだと、私が連行される罪人のようではないか」
「俺を心配させたという罪状で強制連行だ。なんだったら、全身拘束でおぶって連行っつー権限も俺にはあるんだぜ?」
「!? だ、だめだっ。花村の負担になる上に、おまえさまの両手が塞がってしまう!」
「なら俺の両手を塞がない選択肢は一つな。ほれ」
悪い顔をして差し出された陽介の手を、瑞月は視線をさまよわせて——おずおずと取った。そうして二人は教会を後にしたのだ。
2人の行く先には、清々しい青空と宝石を散らしたように鮮やかな花畑が広がっている。その風景を、瑞月は落ち着いた様子で眺めていた。その唇はゆるりと弧を描き、頬が淡く色づいていた。
「おまえさま、ありがとう。話を聞いてくれたおかげで、落ち着いた」
「いーっていって。俺でいいなら話だって聞くしさ。何なら胸だって貸してやるぜ24時間貸出可能ってな!」
陽介の発言を聞いた瑞月が目を開いた。そして、ことさらに優しい視線を陽介に向ける。陽介は首をかしげる。今の発言は『そこまではいい』とツッコませるためのセリフである。
「24時間……。それは、おまえさまが私の情けない姿を見ても、そばにいたいと、そう思ってくれていると取っていいだろうか」
「え!? あ、えっと……それは、その……」
図星を突く瑞月に、陽介は言葉に詰まった。おどけて隠したつもりであったが、瑞月の指摘は陽介の本心だった。
瑞月が悲しむのなら自分がそばにいたい。瑞月は強かなようで、本当は脆い少女だ。脆いからこそ生まれる感情の数々が、彼女を突き動かして強く見せているに過ぎない。
挙動がぎこちなくなった陽介に、瑞月は穏やかに笑みを深めた。繋がれた陽介の片手を、瑞月は恭 しく眼前に掲げる。完全に固まった陽介に、彼女は厳かに告げた。
「私も、そばにいよう。そうである、努力をしよう。奈落に落ちゆくときでさえ、私に笑いかけてくれた。震える私の背中を撫でてくれた……心から優しいおまえさまを、失わせることなど決してさせない」
いつの間にか、瑞月は凛と背を伸ばして、陽介の下へ跪いていた。
そうして、瑞月は陽介の手の甲へ唇を寄せる。柔らかな人肌の温度に、陽介は瞳を見開く。長い——敬愛と忠誠を誓う騎士の儀式に似た——口づけの末に、瑞月はゆっくりと、陽介の手を放した。
2人の手はいまだ繋がったままだ。固く結ばれた糸のごとく。
陽介と瑞月の目が合った。降り積もった雪を押し上げて、綻んだ花のように瑞月は笑う。
「だからどうか、おまえさまを脅かす何かがあるのなら、迷わず私を呼んでおくれ。必ずや、おまえさまの声を聞き届け——花村を、迎えに参ります」
どうっと、風が吹いた。宝石のような花弁が舞い上がり、まるで祝福の紙吹雪のように、光を弾いて2人の頭上へと降り注ぐ。
「は、はは」
瑞月はすぐさま立ち上がった。対して、陽介は恥ずかしさやら照れやらで身体の内側が沸き立って仕方ない。だというのに、たしかに嬉しくて、瑞月の手を解くなんてできなかった。耳まで紅潮させて湯気を吹き出す陽介に、瑞月は目を丸くして口元を抑える。
「なんと! 花村、熱が出ているではないか! こうしてはいられない。膝裏、失礼する」
「へ?」
お前のせいなんだけど。というツッコミは、唐突に感じた浮遊感にかき消された。瑞月の端麗な顔が陽介のすぐ近くにあり、なおかつ背中と膝裏を何かで支えられている。一拍遅れて、陽介は全てを理解した。
陽介は瑞月にお姫様抱っこされている。
「ちょぉぉおおおおおおおおお!! おまっ、おまっ、何を」
「花村。暴れないでくれ。私が取り落として、おまえさまが怪我を負ったら一大事だ」
「一大事は今このジョーキョーだよッ!? なんで俺がおひ、お姫様だっこされてんの!?」
喚く陽介に対して、瑞月は心底不思議だというように首を傾げた。そして、当然の事実を読み上げる冷静な口調で陽介に告げる。
「背負われたなら、肺が圧迫されて息苦しいだろう?」
「俺はお前の顔が近くて息できないっ。そもそも赤くなってんのはお前がキ、キ、キスするからだろーが!」
好きな子の——端麗な瑞月の顔立ちが触れるほどに近い。陽介の手に口づけた、桜色の唇がすぐ近くにあって、陽介はドギマギと顔を覆った。対して、瑞月の声はクラッカーのように喜びで弾ける。
「なんと、私の口づけに照れて赤面してくれたというのか! 純真だ、愛しいかな花村! そして、身体への異常ではなくて安心したとも。健康で何より!」
「だったら降ろしてくれ失神しそうなんだよおまえの言う純真ボーイはさ!」
「断る! 実は、おまえさまをこうして抱き上げたいと思っていたのだ。鳴上には許して私に許さないとは、非常に良くない! 案ずるな、花村が気を失ったならば、きちんと保健室まで送り届けよう」
「アレは合成写真だっつうの!! つーかなんで知ってる!? つーか、降ろしてぇぇええええええええ!!!」
陽介の抗議など無視して、瑞月は陽介を胸に抱いたままゆっくりと回った。くるりくるりと、彼女はステップを踏む。それは見る者がいたのなら、喜びの舞にも見えただろう。
瑞月が起こした風により、花びらがゆるやかに渦を巻き、2人の周りを貴石のきらめきをもって舞い落ちる。
けれど瑞月にとっては、腕に抱えた人が何よりも輝ける宝石であった。繊細な光彩を放つ愛しい人を、絶対に離さないと、一際強く抱きかかえて、瑞月は目を細めた。
「わたしはもう大丈夫だ。支えがなくとも、帰還できる」
回復を受けた瑞月は、元の調子を取り戻した。しかし、先程倒れかけた人間を『はいそうですか』と放っておくなど陽介はできなかったため、説得したのである。
「さっき、倒れかけておいて信頼性ゼロなんだよ。ほれ、おとなしく手を上げろ」
「それだと、私が連行される罪人のようではないか」
「俺を心配させたという罪状で強制連行だ。なんだったら、全身拘束でおぶって連行っつー権限も俺にはあるんだぜ?」
「!? だ、だめだっ。花村の負担になる上に、おまえさまの両手が塞がってしまう!」
「なら俺の両手を塞がない選択肢は一つな。ほれ」
悪い顔をして差し出された陽介の手を、瑞月は視線をさまよわせて——おずおずと取った。そうして二人は教会を後にしたのだ。
2人の行く先には、清々しい青空と宝石を散らしたように鮮やかな花畑が広がっている。その風景を、瑞月は落ち着いた様子で眺めていた。その唇はゆるりと弧を描き、頬が淡く色づいていた。
「おまえさま、ありがとう。話を聞いてくれたおかげで、落ち着いた」
「いーっていって。俺でいいなら話だって聞くしさ。何なら胸だって貸してやるぜ24時間貸出可能ってな!」
陽介の発言を聞いた瑞月が目を開いた。そして、ことさらに優しい視線を陽介に向ける。陽介は首をかしげる。今の発言は『そこまではいい』とツッコませるためのセリフである。
「24時間……。それは、おまえさまが私の情けない姿を見ても、そばにいたいと、そう思ってくれていると取っていいだろうか」
「え!? あ、えっと……それは、その……」
図星を突く瑞月に、陽介は言葉に詰まった。おどけて隠したつもりであったが、瑞月の指摘は陽介の本心だった。
瑞月が悲しむのなら自分がそばにいたい。瑞月は強かなようで、本当は脆い少女だ。脆いからこそ生まれる感情の数々が、彼女を突き動かして強く見せているに過ぎない。
挙動がぎこちなくなった陽介に、瑞月は穏やかに笑みを深めた。繋がれた陽介の片手を、瑞月は
「私も、そばにいよう。そうである、努力をしよう。奈落に落ちゆくときでさえ、私に笑いかけてくれた。震える私の背中を撫でてくれた……心から優しいおまえさまを、失わせることなど決してさせない」
いつの間にか、瑞月は凛と背を伸ばして、陽介の下へ跪いていた。
そうして、瑞月は陽介の手の甲へ唇を寄せる。柔らかな人肌の温度に、陽介は瞳を見開く。長い——敬愛と忠誠を誓う騎士の儀式に似た——口づけの末に、瑞月はゆっくりと、陽介の手を放した。
2人の手はいまだ繋がったままだ。固く結ばれた糸のごとく。
陽介と瑞月の目が合った。降り積もった雪を押し上げて、綻んだ花のように瑞月は笑う。
「だからどうか、おまえさまを脅かす何かがあるのなら、迷わず私を呼んでおくれ。必ずや、おまえさまの声を聞き届け——花村を、迎えに参ります」
どうっと、風が吹いた。宝石のような花弁が舞い上がり、まるで祝福の紙吹雪のように、光を弾いて2人の頭上へと降り注ぐ。
「は、はは」
瑞月はすぐさま立ち上がった。対して、陽介は恥ずかしさやら照れやらで身体の内側が沸き立って仕方ない。だというのに、たしかに嬉しくて、瑞月の手を解くなんてできなかった。耳まで紅潮させて湯気を吹き出す陽介に、瑞月は目を丸くして口元を抑える。
「なんと! 花村、熱が出ているではないか! こうしてはいられない。膝裏、失礼する」
「へ?」
お前のせいなんだけど。というツッコミは、唐突に感じた浮遊感にかき消された。瑞月の端麗な顔が陽介のすぐ近くにあり、なおかつ背中と膝裏を何かで支えられている。一拍遅れて、陽介は全てを理解した。
陽介は瑞月にお姫様抱っこされている。
「ちょぉぉおおおおおおおおお!! おまっ、おまっ、何を」
「花村。暴れないでくれ。私が取り落として、おまえさまが怪我を負ったら一大事だ」
「一大事は今このジョーキョーだよッ!? なんで俺がおひ、お姫様だっこされてんの!?」
喚く陽介に対して、瑞月は心底不思議だというように首を傾げた。そして、当然の事実を読み上げる冷静な口調で陽介に告げる。
「背負われたなら、肺が圧迫されて息苦しいだろう?」
「俺はお前の顔が近くて息できないっ。そもそも赤くなってんのはお前がキ、キ、キスするからだろーが!」
好きな子の——端麗な瑞月の顔立ちが触れるほどに近い。陽介の手に口づけた、桜色の唇がすぐ近くにあって、陽介はドギマギと顔を覆った。対して、瑞月の声はクラッカーのように喜びで弾ける。
「なんと、私の口づけに照れて赤面してくれたというのか! 純真だ、愛しいかな花村! そして、身体への異常ではなくて安心したとも。健康で何より!」
「だったら降ろしてくれ失神しそうなんだよおまえの言う純真ボーイはさ!」
「断る! 実は、おまえさまをこうして抱き上げたいと思っていたのだ。鳴上には許して私に許さないとは、非常に良くない! 案ずるな、花村が気を失ったならば、きちんと保健室まで送り届けよう」
「アレは合成写真だっつうの!! つーかなんで知ってる!? つーか、降ろしてぇぇええええええええ!!!」
陽介の抗議など無視して、瑞月は陽介を胸に抱いたままゆっくりと回った。くるりくるりと、彼女はステップを踏む。それは見る者がいたのなら、喜びの舞にも見えただろう。
瑞月が起こした風により、花びらがゆるやかに渦を巻き、2人の周りを貴石のきらめきをもって舞い落ちる。
けれど瑞月にとっては、腕に抱えた人が何よりも輝ける宝石であった。繊細な光彩を放つ愛しい人を、絶対に離さないと、一際強く抱きかかえて、瑞月は目を細めた。