サンストーンのあなた
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「もう誓っているッッッ!! 伏せろッ!!」
教会の壁越しでも鼓膜に突き刺さるような、鋭い一喝だった。轟音が大気を揺らす。謎の声に、陽介は反射的に頭を抱えうずくまった。ドドドドッと柔らかいものに何かが突き刺さる。
顔を上げた先で、いくつもの氷の杭が神父の身体に突き立っていた。氷を操り、教会の壁を破壊する豪快な戦い方をする人間を、陽介は一人しか知らない。
「この氷……、まさか……!」
「あぁ、間違いねー、とびっきりの援軍だ!」
悠と共に、陽介は教会の入り口側へと振り向いた。噴煙に混じって、凛々しい立ち姿が明るみに出る。彼女は倒れた扉の上で構えていた。
険しかった表情が、悠と陽介を見つめた瞬間、慈愛に溢れた微笑みに変わる。しかし瞬時に、異貌の神父を刃の視線で睨みつけた。丈の長いマウンテンパーカーが、さながら騎士のマントのように翻る。前に堂々と歩み出た彼女は言い放った。
「ゆえに、私の花婿殿・花村とその親友・鳴上を返してもらおうかッ!」
「は、はなむこぉ!?」
瑞月いわく、花婿殿——花村陽介は間抜けな声を上げた。感動の再開が台無しであるが、そんなことなど関係なしに、瑞月は陽介へと駆け寄る。斧槍を持つ反対の手で、制服越しに陽介の肩を、腕を、掌でなぞった。瑞月は愁眉を寄せる。
「おまえさま、怪我は?」
「え、ない……け、ど——!?」
言いながら、陽介は息を止めた。突然、瑞月が陽介に身を寄せてきたのである。彼女は陽介の肩口に顔をうずめた。同時に、労わりのこもった手つきで陽介の髪を撫でる。
「花村が、無事でよかった」
心からの安堵が滲む、言葉だった。陽介の体温と鼓動を肌で確かめるように、寒さに震える動物が温もりに惹かれるように、彼女は陽介の肩口に身体を擦り寄せる。彼女の柔らかなぬくもりに、陽介の身体から凝りが取り去られていく。
多分、陽介は怖かったのだ。相棒を信頼していないわけではない。けれど、悍ましい姿の怪物と対峙して、生死の予想がつかない戦いを凌 がなければならない状況が、本能的に怖くて、心細かった。
だから、瑞月の姿が脳裏に浮かんだ。心の中で名前を呼んだ。
「本当に、良かった。おまえさまが私を呼んだ気がしたから、なにか悪い予感に駆られて、急ぎ馳せ参じた」
届いたのか、と陽介は心の中で呟く。あんな情けない声は、届くことなどないと思っていた。瑞月は陽介に微笑む。雪解けを告げる春の風のような、慈しみに溢れた微笑だ。ひたむきな愛情に、陽介の心に温かさが灯る。
「届いたとも。聞き届けたとも。別に情けなくなどない。敵わない敵を前に、助けを求めるのは適切な行動だ。それに、何も言わずに、突然居なくなるより、助けを求めてくれた方が私は嬉しい」
「あれ、なんで俺の心の声知ってんの?」
「本音がダダモレだったぞ、陽介。『ごめんな、瀬名』とか、『届いたのか』とか」
「うわおぉぉおおおおおおおおお!! 悠にまで聞こえてたのかよ!地獄耳ッ」
「お褒めいただき光栄だ。でも、さすがに教会越しに察知してみせた瀬名には及ばないかな」
悠が呆れてため息をついた。恥ずかしさに頭を抱える陽介と、「落ち着けおまえさま」と背中をさする瑞月を視界に収めた悠は、懐かしい写真を眺めたように表情を和らげる。
「さて、あのシャドウを足止めしないと。花婿殿とその親友を取り返すんだろ?」
「もちろん。鳴上は私の大切な友人であり、花村のかけがえのない親友ではあるが、花村の伴侶の座は譲れないのでな」
「なーんで俺が、略奪婚のヒロイン的なポジになってんの?」
「花村はヒロインではない。私の花婿殿だ。他の誰かに渡すものか」
「もっ、もういーってそのネタ! そもそも、まだ付き合ってもいねーし」
「いずれ、手順を踏んで伴侶になるのだから問題ないだろう?」
「はいはい、瀬名は陽介を揶揄わない。陽介茹ってるから」
「鳴上。からかいではなく、私の本心なのだが」
「余っ計に照れるわ!!」
殺伐とした雰囲気が、いつの間にか会話の応酬が絶えない愉快な雰囲気に変わっていた。しかし、ゾゾゾゾッと何かが地を擦る音に3人は緊張を漲らせる。神父のシャドウが復活しようとしていた。
『やっと繋がった……! 聞こえますかっ、こちら山岸。回復支援を開始します。結城くんたちの到着、あと3分ですっ!』
風花の通信に、3人の面持ちが明るくなる。増援があと少しで来るのだ。勝機が見えてきた。
悠が刀を構えなおす。瑞月も斧槍の切っ先を神父へと向けた。陽介は苦無をジャグリングの要領で放り投げ、取り落とさずにつかみ取る。オレンジのヘッドフォンを耳にかけた。軽快で鋭いビートにテンションがアガる。3人の士気はこれ以上ないほど高まっていた。
異貌の神父がゆらりと上体を起こす。氷の杭が抜け落ちて、損壊部は塞がっていた。討伐までの道は長い。だとしても——
『病めるトキモー? Huu! 健やかなるトキモー? Hoo! 神ノー御許へー? YOU・SHALL・DIE!!」
「ならば、貴様を神の御許へ送ってくれよう! そして彼らへの狼藉、永遠に悔いるがいい!」
「あいにく俺ら仏教徒なんだわ!」
「陽介、瀬名、行くぞ!」
「ああ、相棒!」「承知!」
青いカードが一斉に爆ぜた。燐光に包まれて3体のペルソナが現れる。理たちが到着する前に、少しでも敵の情報を集め——出来るだけ体力を削る、3人のすべきこと。イザナギが大太刀を振るい、瑞月のペルソナが氷弾で砲撃する。ジライヤが補助魔法を発動した。
——この3人ならば、負ける気がしない。
教会の壁越しでも鼓膜に突き刺さるような、鋭い一喝だった。轟音が大気を揺らす。謎の声に、陽介は反射的に頭を抱えうずくまった。ドドドドッと柔らかいものに何かが突き刺さる。
顔を上げた先で、いくつもの氷の杭が神父の身体に突き立っていた。氷を操り、教会の壁を破壊する豪快な戦い方をする人間を、陽介は一人しか知らない。
「この氷……、まさか……!」
「あぁ、間違いねー、とびっきりの援軍だ!」
悠と共に、陽介は教会の入り口側へと振り向いた。噴煙に混じって、凛々しい立ち姿が明るみに出る。彼女は倒れた扉の上で構えていた。
険しかった表情が、悠と陽介を見つめた瞬間、慈愛に溢れた微笑みに変わる。しかし瞬時に、異貌の神父を刃の視線で睨みつけた。丈の長いマウンテンパーカーが、さながら騎士のマントのように翻る。前に堂々と歩み出た彼女は言い放った。
「ゆえに、私の花婿殿・花村とその親友・鳴上を返してもらおうかッ!」
「は、はなむこぉ!?」
瑞月いわく、花婿殿——花村陽介は間抜けな声を上げた。感動の再開が台無しであるが、そんなことなど関係なしに、瑞月は陽介へと駆け寄る。斧槍を持つ反対の手で、制服越しに陽介の肩を、腕を、掌でなぞった。瑞月は愁眉を寄せる。
「おまえさま、怪我は?」
「え、ない……け、ど——!?」
言いながら、陽介は息を止めた。突然、瑞月が陽介に身を寄せてきたのである。彼女は陽介の肩口に顔をうずめた。同時に、労わりのこもった手つきで陽介の髪を撫でる。
「花村が、無事でよかった」
心からの安堵が滲む、言葉だった。陽介の体温と鼓動を肌で確かめるように、寒さに震える動物が温もりに惹かれるように、彼女は陽介の肩口に身体を擦り寄せる。彼女の柔らかなぬくもりに、陽介の身体から凝りが取り去られていく。
多分、陽介は怖かったのだ。相棒を信頼していないわけではない。けれど、悍ましい姿の怪物と対峙して、生死の予想がつかない戦いを
だから、瑞月の姿が脳裏に浮かんだ。心の中で名前を呼んだ。
「本当に、良かった。おまえさまが私を呼んだ気がしたから、なにか悪い予感に駆られて、急ぎ馳せ参じた」
届いたのか、と陽介は心の中で呟く。あんな情けない声は、届くことなどないと思っていた。瑞月は陽介に微笑む。雪解けを告げる春の風のような、慈しみに溢れた微笑だ。ひたむきな愛情に、陽介の心に温かさが灯る。
「届いたとも。聞き届けたとも。別に情けなくなどない。敵わない敵を前に、助けを求めるのは適切な行動だ。それに、何も言わずに、突然居なくなるより、助けを求めてくれた方が私は嬉しい」
「あれ、なんで俺の心の声知ってんの?」
「本音がダダモレだったぞ、陽介。『ごめんな、瀬名』とか、『届いたのか』とか」
「うわおぉぉおおおおおおおおお!! 悠にまで聞こえてたのかよ!地獄耳ッ」
「お褒めいただき光栄だ。でも、さすがに教会越しに察知してみせた瀬名には及ばないかな」
悠が呆れてため息をついた。恥ずかしさに頭を抱える陽介と、「落ち着けおまえさま」と背中をさする瑞月を視界に収めた悠は、懐かしい写真を眺めたように表情を和らげる。
「さて、あのシャドウを足止めしないと。花婿殿とその親友を取り返すんだろ?」
「もちろん。鳴上は私の大切な友人であり、花村のかけがえのない親友ではあるが、花村の伴侶の座は譲れないのでな」
「なーんで俺が、略奪婚のヒロイン的なポジになってんの?」
「花村はヒロインではない。私の花婿殿だ。他の誰かに渡すものか」
「もっ、もういーってそのネタ! そもそも、まだ付き合ってもいねーし」
「いずれ、手順を踏んで伴侶になるのだから問題ないだろう?」
「はいはい、瀬名は陽介を揶揄わない。陽介茹ってるから」
「鳴上。からかいではなく、私の本心なのだが」
「余っ計に照れるわ!!」
殺伐とした雰囲気が、いつの間にか会話の応酬が絶えない愉快な雰囲気に変わっていた。しかし、ゾゾゾゾッと何かが地を擦る音に3人は緊張を漲らせる。神父のシャドウが復活しようとしていた。
『やっと繋がった……! 聞こえますかっ、こちら山岸。回復支援を開始します。結城くんたちの到着、あと3分ですっ!』
風花の通信に、3人の面持ちが明るくなる。増援があと少しで来るのだ。勝機が見えてきた。
悠が刀を構えなおす。瑞月も斧槍の切っ先を神父へと向けた。陽介は苦無をジャグリングの要領で放り投げ、取り落とさずにつかみ取る。オレンジのヘッドフォンを耳にかけた。軽快で鋭いビートにテンションがアガる。3人の士気はこれ以上ないほど高まっていた。
異貌の神父がゆらりと上体を起こす。氷の杭が抜け落ちて、損壊部は塞がっていた。討伐までの道は長い。だとしても——
『病めるトキモー? Huu! 健やかなるトキモー? Hoo! 神ノー御許へー? YOU・SHALL・DIE!!」
「ならば、貴様を神の御許へ送ってくれよう! そして彼らへの狼藉、永遠に悔いるがいい!」
「あいにく俺ら仏教徒なんだわ!」
「陽介、瀬名、行くぞ!」
「ああ、相棒!」「承知!」
青いカードが一斉に爆ぜた。燐光に包まれて3体のペルソナが現れる。理たちが到着する前に、少しでも敵の情報を集め——出来るだけ体力を削る、3人のすべきこと。イザナギが大太刀を振るい、瑞月のペルソナが氷弾で砲撃する。ジライヤが補助魔法を発動した。
——この3人ならば、負ける気がしない。