短編集(夢主固定)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
12月の始め、霧が深まる高台にて、恋人へと花村陽介は呟いた。
「何があっても、お前は無事でいてくれよ」
軽薄の仮面をかなぐり捨てて、陽介はいつになく真剣な目をしている。霧の中で隣に座る、恋人の姿を焼き付けるように見つめていた。
12月、陽介たちの属する特捜隊は、春から続く連続殺人事件の真犯人を追い詰めた。
しかし、順調にはいかない。悪びれもせず、真犯人は禍々しい異界へと閉じこもった。そこは強力な怪物たちが跋扈する危険地帯。無事に帰れる保証はない。そんな、仲間たちの前で見せない弱音が口をついたのだ。
戸惑いもせず、彼女は陽介に瞳を向ける。霧の中だというのに、彼女の瞳は濁りのない光を放っていた。
「お前さまが死ねば、私も死ぬ」
約束の話をしていたというのに、彼女は陽介への呪いの言葉を口にする。
陽介の命の終わり、彼女は道連れになるつもりなのだという。表情も、声も、すべて陽介をからかっている様子ではない。
「なに言ってんだよ」
反射的に、陽介は顔を歪める。陽介の胸は締め付けられたかのように苦しい。人が死ぬこと、その喪失を彼は嫌というほど知っていたから。たとえ自分がいなくなっても、彼女には生きてほしかった。
「呪いの話ではない。約束の話だ」
にわかに、彼女が宣言した。誓いを立てるときのような、厳格さを纏っている。そうして、陽介の頬にすべらかな手を添えて、幼子を相手にするように語りかける。
「お前さまが死ねば、私も死ぬよ。言い換えれば、お前さまが生きている間、私は死ぬことができない」
愛しいものだけに見せる慈しみの笑みで、彼女は続ける。約束の話は、愛の告白にも似た響きを持って厳かに陽介へと伝えられた。
「お前さまを、私が置いていくことはない。ということだ」
陽介は、人のいのちが唐突に消えてしまうと知っていた。彼女もそれを知っている。不条理は気まぐれだ。だというのに、確固たる意志で彼女は誓った。
「だから陽介。お前さまも死に急ぐまねはしてくれるな。私のいのちは、お前さまと共にある。そういう私でいさせておくれ」
彼女の腕が陽介を抱きすくめる。奪わせはしないと、守るように陽介の頭を抱えた。霧では隠せない温かさが確かにあった。その温もりにどうしようもなく、胸のつかえが溶けてゆく。
「無事でいてくれ」という願いは、「置いていかないで」という願いの裏返しであったから。
彼女は陽介と共にあると言ってくれた。ならば、陽介が本当に、彼女に告げなければいけないことは何なのか。もう、分かっている。
「絶対……また、ここに来ような」
絶対に、自分は無事に帰って来るのだと、陽介は彼女を通して自分に誓う。
「そうだな。高台の桜吹雪は見物なんだ」
一緒に来よう。と夢見るように、彼女は告げる。陽介は、まだ来ない季節に想いを馳せた。
その頃には、きっと霧は晴れているだろう。
「何があっても、お前は無事でいてくれよ」
軽薄の仮面をかなぐり捨てて、陽介はいつになく真剣な目をしている。霧の中で隣に座る、恋人の姿を焼き付けるように見つめていた。
12月、陽介たちの属する特捜隊は、春から続く連続殺人事件の真犯人を追い詰めた。
しかし、順調にはいかない。悪びれもせず、真犯人は禍々しい異界へと閉じこもった。そこは強力な怪物たちが跋扈する危険地帯。無事に帰れる保証はない。そんな、仲間たちの前で見せない弱音が口をついたのだ。
戸惑いもせず、彼女は陽介に瞳を向ける。霧の中だというのに、彼女の瞳は濁りのない光を放っていた。
「お前さまが死ねば、私も死ぬ」
約束の話をしていたというのに、彼女は陽介への呪いの言葉を口にする。
陽介の命の終わり、彼女は道連れになるつもりなのだという。表情も、声も、すべて陽介をからかっている様子ではない。
「なに言ってんだよ」
反射的に、陽介は顔を歪める。陽介の胸は締め付けられたかのように苦しい。人が死ぬこと、その喪失を彼は嫌というほど知っていたから。たとえ自分がいなくなっても、彼女には生きてほしかった。
「呪いの話ではない。約束の話だ」
にわかに、彼女が宣言した。誓いを立てるときのような、厳格さを纏っている。そうして、陽介の頬にすべらかな手を添えて、幼子を相手にするように語りかける。
「お前さまが死ねば、私も死ぬよ。言い換えれば、お前さまが生きている間、私は死ぬことができない」
愛しいものだけに見せる慈しみの笑みで、彼女は続ける。約束の話は、愛の告白にも似た響きを持って厳かに陽介へと伝えられた。
「お前さまを、私が置いていくことはない。ということだ」
陽介は、人のいのちが唐突に消えてしまうと知っていた。彼女もそれを知っている。不条理は気まぐれだ。だというのに、確固たる意志で彼女は誓った。
「だから陽介。お前さまも死に急ぐまねはしてくれるな。私のいのちは、お前さまと共にある。そういう私でいさせておくれ」
彼女の腕が陽介を抱きすくめる。奪わせはしないと、守るように陽介の頭を抱えた。霧では隠せない温かさが確かにあった。その温もりにどうしようもなく、胸のつかえが溶けてゆく。
「無事でいてくれ」という願いは、「置いていかないで」という願いの裏返しであったから。
彼女は陽介と共にあると言ってくれた。ならば、陽介が本当に、彼女に告げなければいけないことは何なのか。もう、分かっている。
「絶対……また、ここに来ような」
絶対に、自分は無事に帰って来るのだと、陽介は彼女を通して自分に誓う。
「そうだな。高台の桜吹雪は見物なんだ」
一緒に来よう。と夢見るように、彼女は告げる。陽介は、まだ来ない季節に想いを馳せた。
その頃には、きっと霧は晴れているだろう。