後の時代の書物には、メルコールはシルマリルを欲したと記されている。だが、彼自身の口から公に語られたのは、後にも先にも『どんな宝石よりも美しく、私の心を安らげてくれるもの』という言葉だけらしい。
　サムは頭を抱えた。果たして本当に、それが真実だったのか。ヴァラールである彼が、たかだか宝石のためだけに戦を起こすだろうか。
　完全に煮詰まったサムは、部屋から出て外の空気を吸い込んだ。ガラドリエルの手紙を持って訪れてから数ヶ月ほど滞在しているガンダルフは、パイプを燻らせながら、じっと目を閉じている。メリーとピピンは、途中まで読み終わった手紙に目を落としながら、ある疑問を投げ掛けた。
「あの、ガンダルフ。メルコールは欲しいものを手に入れることが出来たの？」
「あと少しじゃった。もうあと少しのところだった。じゃが、思いもよらない人物のせいで、その望みは叶わなかった」
「それは、誰？」
「それは……お主らもよく知っておる男じゃよ」
　ガンダルフはそこまで言うと、再び目を閉じた。メリーとピピンは顔を見合わせて、肩をすくめるのだった。