序、西方の地で【修正済み】
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美しい太古の西方の地に、美しい種族が暮らしていた。エルフ族は絶大な力を誇り、その永遠の命の魔力は今とは比べ物にならないほど強いものだった。エルフとは、凛々しく気高く近づき難い雰囲気の種族だが、珍しく例外も存在した。
一人のエルフが、木に登って海を眺めている。髪はゆるやかで長く、白銀に近いその美しさは雪のようだった。肌は透き通るように白く、唇は紅をさしたように紅い。耳はエルフ特有のとがった形をしているが、その瞳には好奇の色が溢れていた。そして、その視線ははるか海の彼方へと向けられている。
ふと、彼女が耳をすましてみると、遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。彼女はすぐに召使いが自分を探しに来たということを悟った。
「────エルミラエル様ぁ!!!エルミラエル様ぁ!!どちらにいらっしゃるのですか?」
「ここよ!メリドゥ。何か用?」
メリドゥと呼ばれたエルフの召使いは呆れた顔で返事をした。
「姫様!アウレ様からの使いでマイアールの方がお見えなのに、お忘れですか?」
「興味ないもの。帰ってから教えてちょうだい」
彼女は口を尖らせると、そのまま再び海の方を眺め始めた。哀れな召使いは再度ため息をつくと、肩をすくめて戻っていった。
アウレ、ひいてはヴァラールは上級精霊であり、あらゆるものを守護しようと勤める者のことだ。しかし彼女には知識も知恵にも力にもとんと興味をそそらない。彼女が唯一興味を持つことはこの海の向こう、中つ国だけだった。アイヌアたちによって創られたこの大地は美しい。だが、永遠という時の流れが息苦しさを彼女に押し付けていた。
────いつか、絶対中つ国に行ってやる
彼女はぐっとこぶしを握りしめると、水平線の彼方を睨みつけた。
すると、一つの生き物の姿が彼女の目を捉えた。だがここからはよく見えない。もっと見たいと身体を乗り出すと、それは木の間に座っているリスの姿だった。その何とも言えない愛らしい動物の名前は、サルマンというリスだった。技巧者といった意味合いの通り、このリスは賢いものでエルフが太古に教えたと言われる言葉を理解できるというのだ。彼女はエルフ語でささやくと、枝に手を伸ばした。
その時だった。彼女は突然強い風に煽られてバランスを崩し、木から真っ逆さまに落ち始めた。走馬灯とは、こういうことか。スローモーションで地面に近づく中で、彼女は死を覚悟した。
だが、地面は彼女を打ちのめさなかった。逆に地面から浮いているのだ。
「え??私、浮いてる??」
「浮いておるもなにも、私の魔法のお陰であろうに。この愚か者が」
「いたっ………」
どうなっているのか知ろうとした瞬間、背後から威厳のある透き通った声が聞こえてきたと思うと、彼女は地面に尻もちをついた。よくよく考えてみるとかなり無礼なことを言われたことに気づいた彼女は、声の主の方向を向いて怒りを顕にした。
「私に向かってなんという口をきくのですか!私はエアルウェンの娘、ガラドリエルの妹なのですよ!姫なのですからね!」
「そうか。ならばそなたの姉上様とは大違いなことだ」
「なっ………」
バカにしたような口調で手を差し伸べる男は、見上げるだけで首が痛む長身ですらっとしており、気難しげなに眉をひそめている、美しい白髪を持つ男だった。たくわえている髭はやや灰色がかっており、その口元はへの字に曲がっている。顔には深いしわが刻まれており、かなりの老人だった。いかにも偏屈そうなこの男の手を振り払ったエルミラエルは立ち上がるや否や、片手でしっしと彼を追い払うような仕草をした。
「用がないならお帰りなさい、不思議な力をお使いになるお方。道に迷ったなら、我が配下をお送りしましょう」
「その必要は無い、おてんば姫」
「何ですって?」
少し姫らしく威厳を持って彼女はそう言ったが、すぐにこの男のペースに巻き込まれる。彼女は慌てて振り向くと、男を見た。
「お主の父親から呼ばれたのじゃ。アウレ様からの報告もある」
「な……………あ、あなた、一体誰なの?」
勝ち誇ったように笑う男が気に入らなかったため、彼女は敗北を認めたくはなかった。だが、父親の客人なら尋ねざるを得ない。男は鼻で笑うと、こう名乗った。
「────我が名はクルニーア。マイアールのうちの一人で、ヴァラールであるアウレ様の配下」
エルミラエルは息を飲んだ。目の前の偏屈そうな男が、あのアウレの配下の精霊だったからだ。
その後二人は並んで歩きだしたが、その間に言葉は一つも交わされることは無いのだった。
これが、クルニーア────後のサルマンと偉大なる山の下の王の永遠の婚約者、蒼の姫ことネルファンディアの母、エルミラエルの出会いなのだった。
一人のエルフが、木に登って海を眺めている。髪はゆるやかで長く、白銀に近いその美しさは雪のようだった。肌は透き通るように白く、唇は紅をさしたように紅い。耳はエルフ特有のとがった形をしているが、その瞳には好奇の色が溢れていた。そして、その視線ははるか海の彼方へと向けられている。
ふと、彼女が耳をすましてみると、遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。彼女はすぐに召使いが自分を探しに来たということを悟った。
「────エルミラエル様ぁ!!!エルミラエル様ぁ!!どちらにいらっしゃるのですか?」
「ここよ!メリドゥ。何か用?」
メリドゥと呼ばれたエルフの召使いは呆れた顔で返事をした。
「姫様!アウレ様からの使いでマイアールの方がお見えなのに、お忘れですか?」
「興味ないもの。帰ってから教えてちょうだい」
彼女は口を尖らせると、そのまま再び海の方を眺め始めた。哀れな召使いは再度ため息をつくと、肩をすくめて戻っていった。
アウレ、ひいてはヴァラールは上級精霊であり、あらゆるものを守護しようと勤める者のことだ。しかし彼女には知識も知恵にも力にもとんと興味をそそらない。彼女が唯一興味を持つことはこの海の向こう、中つ国だけだった。アイヌアたちによって創られたこの大地は美しい。だが、永遠という時の流れが息苦しさを彼女に押し付けていた。
────いつか、絶対中つ国に行ってやる
彼女はぐっとこぶしを握りしめると、水平線の彼方を睨みつけた。
すると、一つの生き物の姿が彼女の目を捉えた。だがここからはよく見えない。もっと見たいと身体を乗り出すと、それは木の間に座っているリスの姿だった。その何とも言えない愛らしい動物の名前は、サルマンというリスだった。技巧者といった意味合いの通り、このリスは賢いものでエルフが太古に教えたと言われる言葉を理解できるというのだ。彼女はエルフ語でささやくと、枝に手を伸ばした。
その時だった。彼女は突然強い風に煽られてバランスを崩し、木から真っ逆さまに落ち始めた。走馬灯とは、こういうことか。スローモーションで地面に近づく中で、彼女は死を覚悟した。
だが、地面は彼女を打ちのめさなかった。逆に地面から浮いているのだ。
「え??私、浮いてる??」
「浮いておるもなにも、私の魔法のお陰であろうに。この愚か者が」
「いたっ………」
どうなっているのか知ろうとした瞬間、背後から威厳のある透き通った声が聞こえてきたと思うと、彼女は地面に尻もちをついた。よくよく考えてみるとかなり無礼なことを言われたことに気づいた彼女は、声の主の方向を向いて怒りを顕にした。
「私に向かってなんという口をきくのですか!私はエアルウェンの娘、ガラドリエルの妹なのですよ!姫なのですからね!」
「そうか。ならばそなたの姉上様とは大違いなことだ」
「なっ………」
バカにしたような口調で手を差し伸べる男は、見上げるだけで首が痛む長身ですらっとしており、気難しげなに眉をひそめている、美しい白髪を持つ男だった。たくわえている髭はやや灰色がかっており、その口元はへの字に曲がっている。顔には深いしわが刻まれており、かなりの老人だった。いかにも偏屈そうなこの男の手を振り払ったエルミラエルは立ち上がるや否や、片手でしっしと彼を追い払うような仕草をした。
「用がないならお帰りなさい、不思議な力をお使いになるお方。道に迷ったなら、我が配下をお送りしましょう」
「その必要は無い、おてんば姫」
「何ですって?」
少し姫らしく威厳を持って彼女はそう言ったが、すぐにこの男のペースに巻き込まれる。彼女は慌てて振り向くと、男を見た。
「お主の父親から呼ばれたのじゃ。アウレ様からの報告もある」
「な……………あ、あなた、一体誰なの?」
勝ち誇ったように笑う男が気に入らなかったため、彼女は敗北を認めたくはなかった。だが、父親の客人なら尋ねざるを得ない。男は鼻で笑うと、こう名乗った。
「────我が名はクルニーア。マイアールのうちの一人で、ヴァラールであるアウレ様の配下」
エルミラエルは息を飲んだ。目の前の偏屈そうな男が、あのアウレの配下の精霊だったからだ。
その後二人は並んで歩きだしたが、その間に言葉は一つも交わされることは無いのだった。
これが、クルニーア────後のサルマンと偉大なる山の下の王の永遠の婚約者、蒼の姫ことネルファンディアの母、エルミラエルの出会いなのだった。