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亡国カタルシス

5.






世界帝府から各国へ通達があった。
国の者が世界帝の統治を認め、その忠誠の証として所有している銃を献上すれば、国の存続と民の保身は約束されるという。
その旨が記された誓約書には、世界帝直筆のサイン。同意する国の者は所定欄にサインをし、帝府に電報を送れとのことだった。そうすれば、後日迎えの兵を送らせるという。
「俺は世界帝に従う」
サインを記した誓約書を見せて、ルートヴィッヒはそう言った。
「はあ?」ギルベルトは、その誓約書を奪い取る。世界帝のサインの上に、弟の几帳面な字が浮かんでいる。「こんな紙っぺら一枚で、あの独裁者に膝を折る気かよ」
「本田とローデリヒも、既に同意した」
「外堀を埋めやがったな」好ましからざる報告だ。「やるじゃねぇか」
「銃を差し出せば、民の保身が約束される。苦しい生活を強いられるかもしれないが、生き残る道は確保される。悪い話ではないと思うが」
「俺は断る」連名のサインを求められたギルベルトは、誓約書を弟へ突き返す。
「兄さん。聞き分けてくれ」
兄を説得することが一番の難関だと、この弟は気づいていたのだろう。先手をとって周囲に働きかけ、ギルベルトよりも先に友を引き摺り込んだのは、その為だ。
「気に入らねぇんだよ。世界帝の統治も、お前のこのやり方も」
「貴方のつまらない見栄で、民を路頭に迷わせる気か?」
「おい」ギルベルトの赤い瞳は、鋭く弟を睨みつける。「誰に向かって口きいてやがる」
息をすることも憚られるような沈黙。
この瞬間から、兄弟間には決定的な溝が、そして分厚い壁が築かれていた。
「……分かった」
聞き分けたのは、ルートヴィッヒの方だった。連名のサインを諦めた彼は、西ドイツとして、世界帝の統治を受け入れることに決めたらしい。
兄の睨むような視線から目を逸らし、弟は低くぼそりと呟く。
「所詮俺たちは、ヴェストとオストか」
一つになど、なれはしない。






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