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マスターちゃんとホクサイくん

【被験体はキミとボク】



「マスター」
ブルーアイスケーブの中で、ボクの声はよく響いた。聞こえない筈はないのだが、彼女は返事をしなかった。きっと、氷が透過する青い光に見惚れているのだ。その美しい青色が彼女を魅了するのは無理もないけれど、今だけは少し気に食わない。
「ボクちゃんのお嫁さんになってよ」
「えっ?」白い息を吐きながら、彼女はびっくりした顔で振り向く。
厚い氷に覆われたこの場所は、赤い光を通さない。全ての赤を断絶したこの世界が、ボクの味方だ。
今なら言える。
だってここには、ボクの愛するものしかない。


結婚じっけんしよう」


しまった。
台詞を間違えた。
「実験?」彼女は可笑しそうに笑い出す。「さっきのは、『被験体になって』って意味だったの?」
結婚という名の実験。
彼女の言うことも、あながち間違いではないかもしれない。
「ボクと結婚してくれる?」
今度は、ちゃんと伝えられた。
「喜んで」そう言った彼女の頰が朱に染まる。
「私を被験体に選んでくれて、ありがとう」
青だけを透過する氷の世界に落ちた赤。
この場限りの、喜ばしい赤色だ。





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