ハナモモ
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週末土曜日、学園最寄りの駅に10時、あの人から取り付けられた約束だった。
嘘みたいな、約束だった。しかし、その嘘も燦々と降り注ぐ日差しが現実味を与えてくる。
あの後、サクラ達に相談したらデートで着ていく服から何までアドバイスを頂いた。
デートしよう♡なんて急に言いだすものだから急ピッチで準備した。別に楽しみだから、とかではない。断じて。
服も、大人っぽく膝丈のレモン柄の青いリボンのワンピースに、同じ色のリボンが付いたカンカン帽だし。(ひまわり監修)
靴はあんまりヒールない方がいいよって言うから三センチくらい踵がある、夏らしい水色のサンダルだし(サクラ監修)。
メイクも色付きリップくらいだった私だが、初夏っぽくツヤ感があるようにって二人が教えてくれたものだ。絶対私より楽しんでるぞ、あの二人。
そんないかにも楽しみですって格好で、駅前の日陰で待っている。正直恥ずかしくて、帰りたい…。
耳元では、気持ちを鼓舞するように最近ハマっているどこぞのバンドが歌っているアニメのopが流れている。
ゔっ、魂に訴えかける、最大の癒し…。
「おはよーー、何聞いてるのー?」
『ぴゃっ!!!??』
ぬぅっと突然現れたファイ先生は、私の右耳からイヤホンを抜いて自分の耳元に当てている。咄嗟にケータイの音楽アプリを消してしまった。過剰防衛、隠れオタがやってはいけない行為だ。
「あ、消えちゃったー」
『ファイ先生!脅かさないでくださいっ!』
「あーー、ごめんねー」
『……あと、10分遅刻です』
「それもごめんねーー。メイリンちゃんがオレの為にオシャレして、オレとのデートの待ち合わせしてるところ眺めてたくてー。
本当は一時間前から居たんだけど、出るに出れなくなっちゃってーー」
『なっ!?!』
何してるんだこの教師!!
本当に馬鹿じゃないのか!?居たんなら出てて来なさいよ!!変なところで、そんなに長い時間待つなよ!!!熱中症になるぞ!?
『っていうか、別にあなたの為じゃないし!』
「えーー、でもお店のウィンドーで前髪確認したり、シワになってないかワンピースの裾引っ張ってみたりすっごい可愛かったよ?」
『もうっ!馬鹿!忘れてください!』
「それは無理かも〜」
へらーと差し出されたスマホには、何やら動画が映し出されていて、そこには見知った格好をした、見知った女の子が…。
『って私か!!
消しなさい!消して、くださいよ!!』
「オレの宝物なので無理でーーす」
『ふざけないでっ!すぐに消しなさいっ!!』
「えぇーーー、消して欲しいの?」
こくこくと頷くと、ファイ先生は私の右手を取って、手の甲にそっと口付けを落とす。
「じゃあ、オレに別の宝物ちょーだい?」
『っ!!?』
「ーーいだいっ!?
あ、あの、メイリンちゃん、急な裏拳はさすがに痛い」
『だ、だ、だ、だって、今ちゅって、ちゅって…!!!』
顔から火が出そうなほど熱い。どきどきと胸が早鐘を鳴らす。こんな事で、この人を調子付かせちゃダメなのは分かってるのに…!!
「嫌だった?」
『い、嫌とか、分からないです…』
学校で会う時と違う服、違う雰囲気、だけど距離感はちょっとだけ詰められてるみたいな。
そんな事を急にされたら分からなくなる。手の甲がまだ、少しジンと熱い。
「………」
『……胸押さえてどうしたんです?』
「と、とんでもない狙撃がね、思わぬ方向から来た的なね…」
『そ、狙撃?』
「あ、いやぁ、何でもない…。それより、動画の代わりになるオレへの宝物考えててねーて事でしゅっぱーーつ!」
『え、ちょ、っと待って!!』
有無を言わせず私の手を引っ張る楽しげな先生。まだ少しだけ早い胸が何を意味してるのか、私はまだ知ろうとしない。
「(オレのちょっとしたイタズラであんなに真っ赤になるなんて、もう何かしらの攻撃だよねぇ)」
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
目的地を聞いてもへらへらとはぐらかされては、電車で30分ほど。会話もなにもないかと思えば、黒鋼先生の話やサクラ達の話で道中盛り上がってしまった。話し上手の聞き上手め。
「さぁて、メイリンちゃんにはここで目を瞑ってもらいまーーす」
『…別にいいですけど、えっちな事しないでくださいね』
「今後了承を得てやる事はやるので、今はそんなズルしませーーん」
『今後も絶対了承しませんけどね!』
いいからいいから、と電車に揺られながら目を瞑るよう急かされて、仕方なく瞼をゆっくり閉じた。
〈次は、○○駅、○○駅に止まります〉
「メイリンちゃん、次で降りるけど手だけはまた繋がせてね。降りる時危ないからー」
『ん、分かりました』
何だろ…。デート、が始まってまだそんなに経ってないのに、どんどん私の許容範囲ががばがばになっていく気がする。
目を瞑りながらエスコートをされるように手を引かれ、数分。なんだか冷んやりした室内?を通った気がする。賑わっていた駅も通り過ぎて、静かな場所に入ったような。
内心、ヒール高いの履かなくてよかったと思う中、上からファイ先生の緩やかな声が降り注いだ。
「ーーーいいよ、目をあけて」
『はい、』
素直に目を開けると、薄暗い中、目の前にはくらげがふわふわと漂っていた。
驚きのあまりぱちぱちと目を開いては閉じていると、吹き出したような笑い声が静かな場所に響く。
「あははっ、驚いてるね」
『…そ、そりゃ驚きますよっ。電車の中だったのが目をあけたらくらげがいるんだもの!』
「その顔が見れたってことは、成功かな?」
少し屈んで私の顔を覗き込むファイ先生に、不意にどき、と胸が弾んだ。な、なんて顔でこっちを見るの?
今日の私の心臓は、ちょっとおかしい。
いつもは只の変態宇宙人ストーカーにしか見えないのに、こんな笑顔で、綺麗に笑うんだって思うと、またとくんとくんと心臓が早くなる。
「メイリンちゃんこういうの好きかなーって思ったんだけどー」
『………嫌い、じゃない』
ならよかったよーと間延びした声が、空気に溶ける。一面くらげの水槽で、その中に紫や青いライトがゆらゆらと揺らめいていて、幻想的だ。まるで海の底にいるみたい。
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