ハナモモ
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少し汗ばむような暖かさになってきた五月。
持久走をするにはまだ早いと思う。
はぁ、はぁと苦しくなりながらも、必死に呼吸をする音が脳に響く。
肺が熱くなり、喉なんてカラカラ。足もよろけていつ転ぶか分からない状態で。
なのに何故こんなに必死に走っているのか。それは体育の授業でも、遅刻しそうでもなくて。
「あははーーーメイリンちゃん足速いね〜〜」
『…っはぁっ、こっちに、来るなーーー!!』
わたしの後ろから聞こえるのほほんとした声。そこには白衣のポケットに手を突っ込み満面の笑みでスキップでもしてるのか?と疑うほど息が上がってない男。
昨日転校した学校の教師らしい。名前はファイ先生。学園内でも人気の高いイケメン、らしい。
後ろに気を取られて足が絡まり、がくんと前へ倒れてしまいそうになる。こける!と思い、反射的に手を前へ出したが、何故か後ろから引っ張られ、重心はいつの間にか後ろへ。
「あっぶなーーい。ギリギリセーフだねぇ」
『……』
抱きかかえられるような体勢で。至近距離に糸みたいに綺麗な金色の髪と、サファイアブルーのキラキラした瞳が私と目線が重なり、愛おしいものを見るように細くなった。
…本当になんなんだ、この人。
△▼△▼△▼△▼△▼△
放課後、私はついに限界が来て、隣のクラスにいるいとこの小狼と小龍を訪ねることにした。しかし、小狼は部活が早めに始まるとかでもう教室にはおらず、小龍が一人帰る準備をしていたのでガバッと捕獲に成功した。
『小龍〜〜〜〜ヘルプミーー』
「無理だ、諦めろ。」
『…って!!幼馴染のいとこがこうやって助けを求めてやってきたのに!
非情か!血も涙もないのか!!』
「温情を求めているなら、おれじゃなくて小狼に言え。話くらいは聞いてくれるだろ」
『小狼はいい子過ぎて愚痴れないので駄目でーーす!そうなると、同じクラスのサクラもひまわりも駄目でーーーす!!』
小龍は私の話を放棄して、即座に本に目を移す。なんだよいとこが助けてって言ってんのに!ストーカー被害にあってるのに!
私は思い悩んだ末に撃沈して、机に顔を突っ伏して唸っている。
「……はぁ、普通のストーカーくらい、おまえなら自分でなんとかできるだろう」
『普通じゃないの!宇宙人なの!!
話も力も通じないの!!!』
小さい頃から小狼や小龍と武術を習い約十数年。大の大人複数でも余裕で倒せるはずなのに…!!突然殴るのはいけないことだけれど、鬱陶しすぎて思わず足が出た時、軽々と避けられたのだ。まぐれかと思ってもう一発入れるつもりで鳩尾を狙ってもスレスレで避けられてしまった。
きゃーーメイリンちゃんこわーーい!と言われたのは思い出したくない。イライラするから。
「それは少し興味がある。どんな奴だった?」
『………あれ』
「え、」
私が指差した方向を、小龍は素直に目を向ける。すると物陰に隠れたふわふわの金髪をえへーーーと揺らしている渦中の人物がそこにいた。手をひらひらと振りながら。
小龍、ドン引きって顔に書いてるよ。
『ここ一週間、私の口からあの人の話題が出るとだいたい近くにいるのよ。ね、宇宙人でしょ?』
「い、一週間って、それ苺鈴が転校してきてすぐじゃ…」
『そーよ!だから困ってるって言ったじゃない!!』
なんの話を聞いていたんだよ!ってくらい、私の中では振り出しに戻っている。
小龍の机でジタバタしていると、金髪のふわふわはいつの間にか私の後ろに立っていた。
「オレもお話に混ぜてほしいなぁーーー」
『寄るな変態!!』
「うわぁーーお口悪ーい。あ、小龍君こんにちはーー」
「こんにちは。
ファイ先生、どうして苺鈴なんかを追いかけてるんですか?」
その質問には、様々な意味が込められているように思えた。純粋な疑問だったり、疑念だったり、幼馴染への心配も含んでいた。
けれど、言い方。小龍、言い方がひどい。
……しかし私も気になるところではある。
「えぇーーー??
えーっとねぇ、一目惚れしちゃったからーー」
「………」
『………』
きゃーー!言っちゃったーなんて宣っている奴は、もう放っておこう。おそらく言語が違う。きっと本当に宇宙人か何かなんだよ、うん。
「もし、それが本当だとして」
「ホントだよー」
「…教師と生徒の恋愛は駄目なのでは?」
『まずストーカーが駄目よ!!』
「大丈夫、うちは自由恋愛主義よ!!」
放課後の教室、という隔離された空間に突如第四の声が響き渡る。とても自信に満ちた、謎の宣言をする声が。
そちらを向くと、(喋らなければ)黒髪美人の堀鍔学園の理事長兼古典の教師である壱原侑子大先生がどどん!と立っていた。
「わー、侑子先生こんちにはー」
「こ、こんにちは」
『…こんにちは』
「はい、こんにちは。
…というわけで、あたしがOKしたんだから大丈夫よ、ファイ先生!ガンガン攻めちゃいなさい!」
「はーーい!」
『ちょ、大丈夫な要素一つもないんですけど!?なんでオッケー!!?』
「だってー、面白いからっ♡」
きゃはっ、と顔に似合わず茶目っ気たっぷりのウィンクをお見舞いされる。
マジかこの理事長。なんでこんな性格なのに、ここまで大きい学園都市維持できてんの?神は二物を与えないというけれど、この教師二人には、もう少し与えても良かったんじゃないでしょうか。良心とか、常識とか。
イェーーイ!とハイタッチをかます教師二人に頭痛がする。小龍はもう諦めたのか、淡々と読書をしている。
転校してから一週間。
楽しい学園生活が、学校公認のストーカーに付きまとわれるハメになりました。