レコルト国
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
再び図書館内に入り、“記憶の本”の場所を探る。あくまで、見つからないように。
「なんか面白そうな本ないかなーー」
「そ、そうですね…」
「嘘くせぇ」
「どこがーー?」
「その顔がだよ」
「えー、満面の笑みなのにーー。
ほーら、黒たんも笑顔笑顔!じゃないと怪しまれちゃうでしょーー」
むにーーんと意外と伸びる黒鋼の頬は芝犬のようだった。しかし、いつも以上にファイが黒鋼にちょっかいを出す。それは盗みを誤魔化すカモフラージュなのか、また別の、何かなのか。黒鋼はやすい挑発にのり、すぐ切れて刀を振り回そうとするから、ただ面白いのかもしれないけれど。
「でも、まだ図書館が開いてる時間なのに、いいのかな…」
『夜は警備が厳しくなるだろうし、この時間帯なら歩き回ってもちょっとやそっとじゃバレないでしょ』
「まずいところに入っちゃっても、迷ったんですーとかって言えるしねーー」
ふわっと、私を視界に入れるファイ。それだけで嬉しくなってしまうが、どろどろはどうしても消えない。
モコナは小狼の頭の上で、何かを探すように神経をとがらせている。
「小狼、右行って」
「うん」
「次、左」
小狼が数歩、本棚の間を歩く。一見無作為にも見えるが、モコナの止まって、の声でみんなが行き止まりの前で足を止める。
「うん、この辺りが一番強い。
サクラの羽根の波動」
『う…』
ずきずきと、警報が鳴るように頭がいたい。きっと、ここにも〈本筋〉と関係のある記憶があるんだ。ふらりと本棚に手をついてもたれる。
その間にも、一同は壁について話していた。
「何もねぇぞ」
「壁よ、モコちゃん」
「でも、ここから感じる」
「ちょっといいーー?」
ファイが壁をペタペタと触った後、近くにあった本棚も、確認するように触れる。
「あーーー、これ魔法壁だよ。
黒っちこの本棚。こっちに動かしてー」
「あぁ?なんで俺が」
「お願いーーおとーさん。
しょうがないなぁ、かーさんの頼みなら」
モコナ、頼むから。頭痛がひどい時にその茶番しないで。誰が喋ってるのかわからない。
「おい小娘!そこどけ!」
『アイアイサー…』
もたれ掛かっていた本棚から退くと、黒鋼は体を使って本棚の位置をずらす。身の丈以上ある上に、本がぎっしり詰まってるのに。本当にゴリラなんじゃないか?
位置がずれたことによってか、ファイが言っていた魔法壁は霞のように晴れ、道ができた。
「この本棚とこの本棚で魔法壁を作ってたんだよー。だから、位置を動かすと魔法がズレて壁の向こうが現れる」
「凄いですファイさん!」
「んーーー、ちょっとでも魔法の勉強したことあるなら分かるよーー」
「……」
本当に、そうなんだろうか。
ファイの笑顔が、また薄い仮面のようなものになっていたことに気づいたのは、私と、おそらく黒鋼だけだった。
「けど、動かしたのが感知されたら、守衛機能とやらが来ちゃうかも」
「モコナ」
「うん、サクラの羽根こっちにあるよ」
モコナの言葉に、魔法壁の奥へと一行は進む。
コツーン、コツーンと足音しか響かない、まるで洞窟のような作りだ。まぁ、響くような靴は私が履いてるんだけど。
しかし、先ほどの頭痛はなんだったのか。今はそれほどでもなく、歩けるくらいには回復した。
「国宝だとか言ってた割には、入り口以外の仕掛けはなんもねぇのかよ」
「そんなワケないでしょーー。
ーーほら、さっそく」
ファイの言葉を合図にしたように、石像として飾られていた龍が動き出した。
小狼はサクラを背に隠し、矢面に立ち守る。三頭の龍が小狼に一斉に襲いかかるが、素早い蹴りや拳で壊していく。
私も、戦わないと。けれど、頭痛で足がおぼつかない。
「小狼君かっこいいー!ぴゅー!
…っと、メイリンちゃん!?」
『だ、…大丈夫よ。腕を離して。これじゃ、ファイが動きにくいでしょ』
「…あぁ。無理、しないで」
「小娘は動かず姫といろ!!
というか、ちっとはおまえも手ぇ出せ!!」
「…やーー、小狼君と黒様が対応してくれれば、オレとメイリンちゃんは大丈夫かなーっと」
悪びれることなく、ファイはぴゅーぴゅーといつもと違う口笛を奏でる。
しかし、石像の龍は際限なく動き出した、遂には私たちを囲んだ。
「わーー、ピンチっぽーーーい」
『…っ!!』
何頭もの龍が一斉に襲いかかってくる。その間を、小狼はサクラの手を引き走る。
私達も攻撃を避けつつ、対抗せず避けては足を早める。
「まぁ、相手するより逃げちゃった方が早いよねぇ。キリがないっぽいしー」
ファイの言っていることを半分くらいしか理解できない頭で、無意識下で攻撃を避ける。
息が上がり、酸素を脳に送るので精一杯だ。
目の前に、水の波紋のような、淡い光を放つ所があった。
「サクラの羽根!近付いてるよ!!」
モコナを信じ、みんなでそこに飛び込むと、あたりは砂漠で、目の前には大きな遺跡、と呼ぶにふさわしいものがあった。いつの間にか頭痛は何処かへ消え、見覚えのあるそれにどこだったか、と考察する前に、小狼から答えが飛び出す。
「ここ…、玖楼国の遺跡!?」
「玖楼国って、小狼とサクラがいた国だよね?」
「えぇ…」
「玖楼国に戻ってきたのか?」
「モコナ、移動してないよ」
「これは“記憶”だよ。“記憶の本”の中にある記憶。あの本は、サクラちゃんの羽根の力で出来てる。だから、本を守る為の仕掛けもサクラちゃんの記憶で出来てるんだよー」
記憶、記憶。きっと、この砂漠に足を踏み入れた時に頭痛がなくなったのも、サクラの記憶の中に入ったからだろうと、検討がついた。
「ファイ凄い!よくわかったね!」
「これも魔法の一種だからねぇ。ちょっと勉強してれば、ね」
とりあえず、羽根の力が強い、とモコナが指し示す遺跡の元へ歩いていくことに。
雪とはまた違うが、砂漠も足を取られてあまり進まない。サクラと小狼が先頭を歩き、ファイと黒鋼と、私は後ろを歩いていた。
黒鋼はファイを、いつもと違う雰囲気で睨みつける。なにか、解くように。
「なんか言いたいことありそうな感じだねぇ、黒りんた」
「………さっきの壁といい、ちょっと魔法をかじったくらいで分かっちまうことがまもりになるはずがねぇだろ。仕掛けを見破るには、仕掛けた以上の力がいる。それも魔法とやらは使っちゃいねぇみてぇだしな」
確かに、黒鋼の言う通りだ。私や黒鋼なんかは魔法にまるで精通していないから知識はないが、この国が通常の、しかも魔術を学問的側面から見ている国であるならば、ちょっとやそっと魔法ができる人に見破られるような守りで国宝を守るはずがない。法律にまで定めているのだから、尚更だろう。
けれど、ファイは一貫して否と、言う。
「買いかぶりすぎだよぅ」
「……嘘くせぇ」
ガサガサとぶっきらぼうに黒鋼は先へ進む。これ以上ファイに問うても暖簾に腕押し。本当のことは話してくれないと、分かっているのだろう。
「…メイリンちゃんも、いいたいことはそんな感じかなぁ?それとも、また別?」
『大体、同じようなものよ。
むしろ、ファイが私に聞きたいことでもあるんじゃないの?』
思わず冷たくなってしまう声に、自分でも驚く。さっきからずっとこうだ。どうしてか、心と声の温度が一致しない。私は、どうしてしまったんだろう…。
居づらくなってしまい、私も先の3人を追いかけるように、ファイを置いてスタスタと歩いていく。
「…君に何を聞いても、“知っている”だけで、オレの心は理解できないよ…」
オレにも、もう分からないんだから、と重く沈んだファイの呟きは、砂塵に混じってなくなった。
(曇り空のサファイア)