レコルト国
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ガタンゴトンと揺れる車内に、感嘆の声が二つ上がる。
「うわーー!お空飛んでるー」
『本当…、銀河鉄道みたいね。宇宙でも夜でもないけど』
けれど、某アニメを思い出すような黒塗りのレトロな汽車が空を飛んでいるのだ。ふわっとしか知らないアニメであってもテンションが上がるのがオタクの性らしい。
窓から見える景色が綺麗に移り変わる。
向かいの窓際に座っているサクラも珍しのかずっと外を見ている。
ちなみに、座り順は、私、ファイ、黒鋼で、向かいにはサクラと小狼。モコナは私の腕の中にいたりファイの肩に乗ったりと行ったり来たりしている。
『窓開けたら気持ちいいんだろうな…』
「……。そうだ、座席も色々あるらしいんだけど、おかねあんまりないからー」
「ごめねんねぇ、おとーさん甲斐性がなくてーーその上飲んだくれでー」
今のはどこをモコナが喋って、どこを本物のファイが喋ったのか。セリフや声が似過ぎていて、よそ見しているとわからない状態だ。
すると、私の帽子の上にぴょこんとモコナが飛び移る。
「ファイおかーさんが留守の間、私がお家のこともおとーさんのお世話もするわ!」
『おや、なんの茶番が始まったのかしら?』
モコナはぴょこんとサクラの帽子に飛び移って、また声色を変える。
「お酒ばっかり飲んでて全然働かないけど、お父さんはいいひとよ!ファイかーさん!」
「わたしの声…」
「ファイかーさん!
おれ、父さんの分まで働くよ!黒鋼とーさんの分まで!!」
小狼のような声色で茶番を繰り広げていた為、なぜか小狼が冷や汗をかいていた。
そこまで背負いこむ必要ないのよ、小狼。馬鹿にはバカさせといて。
小狼の頭の上に乗っていたモコナを、大きな手が鷲掴む。…まぁ、言わずもがな黒鋼なんだけど。鬼の形相でモコナを睨む黒鋼の顔面は、さしもの私も夢に出てきそうなほどだったのに、モコナは呑気にきゃー!とたのしい悲鳴をあげていた。楽しそうか。
『はぁ、馬鹿ばっかね…』
しかし、これが私の守りたいものなんだろう。この旅には辛いことが待っているのを分かっていながら、ずっとこうあって欲しいとすら、思う。自分勝手だ。
カタタン、カタタンと列車の速度がゆっくりになるにつれて、なんだか胸がざわざわする。また、記憶のピースがあるのだろうか。
ぼーっとゆっくり流れる景色を眺めながら、そう思う。
「……」
ファイがこちらを見ていることも、知らずに。
ーーーーーー
「ここかよ」
「ビブリオって都市らしいよー黒ぽん」
『今喋ったの、黒鋼じゃなくてモコナよね?』
茶番もそこそこに、列車を降りて目に留まったのは、サクラの羽根が標本のように飾られた“記憶の本”の保管場所。中央図書館だった。その風態は、先ほどいった図書館よりメルヘンチックで、“魔法の国の
「感じる。微かだけど、サクラの羽根の感じ」
「……」
やっぱり、あるんだ。羽根が。
小狼を先頭に、中央図書館の扉へ向かう途中の階段で、大きな風に襲われた。
そこから二頭の羽を生やしたライオンのような大きな大きな獣、いや番犬というのが正しいそれが現れた。番犬は、威嚇のように唸りを上げる。一触即発のような雰囲気だったが、それを裂くようにファイが明るい声を上げる。
「さー、中に入ろっかー」
「そう!本借りなきゃねーー!
借りるだけー借りるだけー♪」
モコナとファイの言葉で、私達は番犬の足元の隙間を縫うように、階段を上る。
番犬を過ぎたところで、ホッと一息つく。
『…ふぅ、黒鋼が怒ってる時より怖い顔してたわね』
「いちいちうるせぇぞ!
つか、あれが番犬とやらか」
「やーなんか怖かったねぇ」
「なんだか怒ってたような…」
「わかっちゃったんじゃないかな」
モコナの一言に、小狼とサクラがはっとする。自分たちが羽根を取りに来たのだと、バレてしまったのか、と。
「黒鋼が悪いヒトだって♡
顔だけで」
「顔かぁ」
その一言にぶちんと堪忍袋の緒が切れた黒鋼は、お茶目な一言を放ってぴょんぴょんと飛び跳ねるモコナを追いかけていった。
「はい、図書館では静かにねーー」
『追い出されるわよお馬鹿達』
「「あ…」」
お馬鹿たちは放っておいて、中に入る。
中は絢爛豪華、というよりも石像などが置いてあって厳格な感じがした。空中には、貸し出した本を元の位置に戻す為の魔法具が翼を生やして飛んでいた。
小狼は受付のお姉さんに、記憶の本について聞いてみている。あわよくば貸し出ししてもらおうという算段だったようだ。
しかし、受付のお姉さんから返ってきた返事はノーだった。
「貸し出し禁止!?」
「記憶の本の原本はレコルト国の国宝書に指定されていますので。この中央図書館から持ち出すことは出来ません」
「困ったねぇ」
「はい…」
『…………』
小狼の後ろで、ファイがサクラに話しかけている。こそこそと、小声で話すために、顔を近づけて。なぜかその光景を見るだけで、胸が締め付けられる。虫食いの記憶が呼び起こされる前の、ざわざわとはまた別の。どろどろとした、嫌な感情。嫌な子になったような。ぎゅっと胸元で拳を握り、どろどろした感情ごと飲み込む。駄目だ、余計なことを考えるな。
「では、閲覧させてください」
「それも出来ません。」
「え!?」
「“記憶の本”には、強い魔力があります。過去に国外へ持ち出そうとした者も、何人もいました。入り口の番犬をはじめとする中央図書館の
「ということで、レコルト記・三千四年より“記憶の本”は閲覧禁止です。
勿論、複本はありますので、そちらをどうぞ」
優しげな受付のお姉さんがそう告げると、小狼は惜しそうに礼を言った。
色々難題が飛び交う。
中庭で一度作戦会議をする。館内ですることではないのと、少し外の空気に触れたかったので好都合だ。鳥が羽を広げ、自由に空を駆けている。中央に設置された噴水からも水の流れる音がして、落ち着く。
しかし、サクラの羽根が置かれている現状を鑑みると、どうやら落ち着いてもいられないようだ。
「見せてもらうことも出来ないなんて…」
「困ったねぇ」
『……』
「どうするの?小狼」
「それでも、取り戻します」
「どうやって?」
黒鋼の問いに、皆の視線が小狼へ集まる。
「盗みます」
堂々とした窃盗宣言に、黒鋼、モコナ、ファイは何故か好印象だった。が、私はあのいい子強い子優しい子の小狼が非行に走ったようで、思わず目眩がした。
(月明かりを浴びるスティール)