レコルト国
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「玖楼国ってのは、お前と姫がいた国だな」
「はい。けど、玖楼国では見たことない風体の武器でした。近隣国のものでもありません。すぐ、神官様に次元の魔女の下へ送って頂いたから詳しくは分からないんですが、ひょっとしたら異世界から来た者達だったのかもしれません」
小狼はきっと、異世界からの刺客・カイルを思い出している。敵も私たちと同じように異世界を渡れるのだ。彼ならそれが可能である。
「だから、黒鋼さんのお母さんの祷場に現れたのも…」
「…なるほど。他の世界から現れたなら、日本国で探せる訳ねぇわな。
つまり、このまま世界を渡っていきゃあ、あの刀の奴に会えるかも知れねぇってことか」
黒鋼の剣幕はさらに深々と、まるで獣のように刻まれた。
私は、本来ならここで知ってることを全て話すべきなんだろうか。けれど、今の私が知っていることなんて、ものすごい魔術師の飛王・リードが私たちにちょっかいをかけていて、黒鋼のお母様の殺害やサクラの羽根を散らばらせた、ということだけ。あとは、靄がかかったように思い出せない。
そんなあやふやな事を言っても、きっと混乱させてしまうだけだと、そっと口を噤んだ。
「これで尚更きにする事ぁねぇな」
「え?」
「おまえが俺の過去を見たから、あの刀の飾りに気付いた。俺にとっても役に立った。
だから…」
「……優しいんですね、黒鋼さんは」
「あぁ!?なんだそりゃ」
『っぷ、あはは!そうなの、小狼。
黒鋼ってば時々顔に似合わず優しいのよ』
「んだと小娘!!」
「そうですね。本当に優しい人は、それを言ったらはぐらかすって、父さんが言ってました」
「ガキも気持ち悪い事言うな!」
さっきの空気と一変して、いつもの雰囲気が流れる。そうだ、私はこの人達を守りたいと思った。こんなゆっくりとわいわい楽しくいられる時を、守りたいと。
だから、〈前のわたし〉の記憶や、言えないもどかしさは、今は置いておこう。私は夏休みの宿題は、一つずつ終わらせるタイプなのだ。
そうしていると、医務室の扉をノックする音が聞こえた。小狼がそれに気づいて返事をすると、扉から先ほど出て行ったファイとモコナとサクラがひょこっと顔を出した。
「お話終わったーーー?」
「はい」
「サクラの羽根について、情報しいれてきたんだ!」
「小狼君、大丈夫ー?」
「はい、ありがとうございます」
3人とも小狼の容態がしんぱいだったようで、モコナはファイの肩から小狼のベッドへぴょんぴょんと飛び跳ねると、突然きゅるるる〜〜と可愛らしい乾いた音を奏でる。
「モコナ、おなかすいたー。なんかせつない…」
可愛らしい音は、サクラからも鳴り、当の本人は顔を赤らめていた。
「そろそろお腹空く時間だもん、仕方ないよーー」
『この世界に来てから何も食べてないものね』
「うぅ…」
「すみません、おれが起きなかったから」
「大丈夫ー!でも、オレもおなかすいたし、話はさっき見つけてきた所でしよー」
「わーーい♡♡」
「見つけてきた所?」
ーーーーーーーー
一行は一度、図書館を出て、とあるカフェにやってきた。お天気もいいからテラスにしよーーとゆるゆるとしたファイの提案に乗り、みんなでお外のテラスで食事をとることに。
ここは魔法の国、というのもあって給仕は全て魔法で行われているようだ。
『うわぁー…』
「ポットが浮いてる…。す、すごいね、メイリンちゃん」
『思わず見ちゃうわね…!』
2人とも魔法なんて使えないからか、空飛ぶポットですら物珍しくて、サクラと小さく笑い合う。テーブルに置かれたサンドイッチやスコーンは、どれも美味しそうだ。
ファイは紅茶のようなもののカップを持ち上げていて、そんな姿でさえも様になる。
じっと見すぎていたのか、ぱちりと綺麗な青色と目があった。が、やんわりと微笑まれ、さっと目をそらされた。
その事実に、私はある事を確信する。
ファイは、やはり〈わたし〉の過去を見たのだ。あの陰惨な、暗くてドロドロとした、私ですら触れるのを戸惑う過去を。
ファイは逸らした目線を、誤魔化すように小狼に先ほど聞いた情報を話し始める。
「いろんな人に聞いてみたら、さっき小狼君が持ってた本、“記憶の本”って呼ばれてるんだってー」
「“記憶の本”?」
「そう、手にした者の記憶を写し取って、次に開いた者にそれを見せる本」
『記憶を、見せる…』
それは黒鋼と小狼のように、そして私が開いた本をファイがめくった時のように。なんだか、鉛のように重いものが心に投げ込まれた気分だ。けれど、今は羽根に専念すると決めたんだ。私は、その気持ちをスコーンと紅茶で流し込む。
小狼も先ほど、見てしまった黒鋼の過去を思い出したのか、辛い表情が写っていたが、それと同時に黒鋼の「見たからと言って、俺の昔の傷を抱え込むことはない」という言葉も思い出したのか、誤魔化すように笑った。
強いな、小狼は。私はこの子達に、何がしてあげられるだろうか。
「でねーー、さっき小狼君が持ってた本のマークが」
モコナの口から、ポスターほどの大きさの紙が出てくる。
テーブルに広げて見せて貰えば、確かに覚えがあるマークだった。
「図書館で複写してもらったの」
「これって…」
「サクラの羽根についてるのによく似てるよね」
「でもモコナは…」
「うん!モコナ、めきょってならなかった」
「あの図書館にあったのは、複本なんだって」
「なんだそりゃ」
「元になった本を写したものだそうです」
『本屋さんに売ってるみたいに、印刷した…、いやこの場合魔法で写された第二、第三の本ってことね』
あの本は、真っ白だった。印刷するような文も呪文も書いていない。それの複本ということであれば、何かしらの魔法で写したのだろう。
「で、原本ってのがあるらしいんだよ。
それが、これ」
「サクラ姫の羽根!」
ぺらりと、もう一枚の紙をファイがめくるとサクラの羽根が表紙に保管されるように飾られた、標本のようなものだった。
小狼が声を荒げる。
「どこにあるんですか!?」
「ん、それも調べてきたよー」
「中央図書館だそうです」
「それは、さっきの図書館とは…」
「別の所なの」
「この国で一番大きい図書館でね、ちょっと大変な感じなんだよーー」
さっきのより大きな図書館なんて、あるのか。今も昔も、香港でも日本であっても先ほどより大きな図書館は中々行ったことがないので、こんな状況でも少し見てみたい、という興味が湧いてきた。
「大変って、遠いんですか?」
「乗り物に乗って、移動しなきゃいけないんですって」
「何日もかかるんですか?」
「そんな事はないみたいなんだけどー」
「だったら何が大変なんだよ」
痺れを切らした黒鋼が問う。
「なんかね、貴重な本ばっかりある図書館でーー」
「盗もうとするのとかもいるんだって。だから、悪いひとが悪いことしないように、すごい番犬さんがいるんだって」
『番犬…』
なぜか頭の中に出てきたのは、黄色いぬいぐるみみたいな、関西弁で喋る封印の獣だった。
(カフェ・ド・フェルマータ)