レコルト国
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見渡す限り、本、本、本、本、本。
知識欲が形を成したような印象を受けるほど、本の山だ。
「この国は魔術を色んな側面から研究してるらしくて、魔術に関する本がたくさんあるんだってー。勿論、歴史とかに関してもね」
「この国の図書館なんだって!近隣国でも一番大きいらしいよ!」
『小狼は歴史とか、好きなのよね』
「本も大好きだよね!」
「はい!あ、でも、読めるでしょうか?」
「確かめてみればーーーー?」
「はい!」
小狼がわくわくした様相で本棚へ駆け寄り、一冊手に取る。どうやら解読できたようで夢中になって読んでいる。サクラは小狼のそばで、ずっと優しい笑顔を浮かべていた。
なんだかこっちまでほのぼのしてくる。
「小狼夢中ーーー♡」
「はーー、できれば買ってあげたいねぇ、お父さん」
「いい加減そのネタから離れろ!」
「でもお金ないもんねぇ」
『思ったよりカツカツよねー』
この国は魔術が特化した国だ。それ故に、科学の発達したピッフル国のものはあまり関心を示されず、服や金などもあまり大きく価値はないようだ。5人分の衣服を買うので精一杯で、宿などもどうしよう、といったレベル。
「これも、売っちゃダメだしねーー」
『それはダメでしょーよ』
ファイの頭に乗っていたモコナが口から緋炎や蒼氷をべろんと出して収納能力を見せびらかしていた。あの中にダイドウジさんに作ってもらった衣装も入っている。
「あれ?」
「どうした?」
「いえ、この本。背表紙に何も書いてなくて…」
『どれ?』
小狼が指差す本を、無造作に黒鋼が抜き取りぱらぱらと捲るが、本の中も何も書いていないようだ。読めないじゃなく、書いていない。なんだか、胸がざわざわする。これも、私が忘れさせられた一部、なんだろうか…?
何も書いていないと、黒鋼が小狼に本を渡すと、小狼も確認するため、本をぱらりと開く。その瞬間、何も書かれていないはずの本に対して、小狼が動くことを忘れてしまったようにじっと本を見つめる。
「なんだ?」
『……小狼は、夢中になると周りが見えなくなることがあるみたいだし、私たちは他を探しましょう。何か、羽根の手がかりがあるかも…』
そんなこと微塵も思っていないけれど、そうすべきだと、脳が反応して、口が勝手に動く。黒鋼は、よく分からん、という表情を見せて違う本棚へと向かう。
私も、胸騒ぎしながら、別の本棚へと踵を返す。
小狼へのざわざわとする気持ちを隠すように、ぼーっと本棚を眺めながら歩く。速度はゆっくり、背表紙を見ても読めないけれど。
ふと、目に付く本があり、思わず手に取る。
『…“ある少女は
なんとも微妙に厨二病なタイトルの本だ。パラパラと中身を見るが、中はまたもや真っ白。インク1つのシミも、日焼けした後もないような、真っ白な紙の束だ。
不思議な本だなぁ、と後ろまでぱらぱらと捲ると、最後に1つだけ文が書いてあった。
『“どうか幸せに、なれますように”…』
「なにか情報あったーーー?」
『きゃっ!』
後ろから投げかけられた声によって、私は手に持っていた本を落としてしまった。
声の主である、ファイは申し訳なさそうにへらりと笑い、落とした本を拾ってくれる。
『あ、ありがと…』
「いえいえーー。メイリンちゃん、この本読めたのー?」
『あ、え、そうね。あんまり、というかほぼ字なんて書いてなかったけれど』
ファイは、ぱらぱらとページをめくる。
その音を聞きながら、ふと、疑問に思う。なぜ、私が読める本があったのだろうか。
しかも、自然と読んでいたが、タイトルと最後に書いていた文字は、日本語だった。いや、正確にいうと、ひらがな、カタカタ、漢字を使った構成の文だった。日本独特の、入り混じった3つの文字体が組み合わさった文。なぜ日本語?私の母国語である中国語や広東語じゃなくて?
なんだか、胸騒ぎがする。小狼の時とは別の。虫食いの、〈本筋〉であるところの記憶を刺激されている感覚とは、また別の胸騒ぎ。
私の気持ちとは、想いとはうらはらに、ファイはどんどんページをめくる。まるで読み物のように。そこには魅力的な文章が詰まっている、本のように。
『ーーーーファイ、読んじゃダメ!!
それ以上見ないで!!!』
本を持つ手を振り払おうとして、私の指先が触れる。その瞬間、何かが脳内へ注がれた。
いや、注がれたというのは正しくない。戻ってきた、というのが正しい感覚だった。
映像が、再生される。
ーーーーーーーー
ぼこぼごと水の中のような音が鼓膜を反響する。その中で映し出されるのは、私がたまに夢で見る、あの懐かしい匂いのする〈前のわたし〉の記憶だった。
朝の朝食の風景。
学校への道のり。
授業の映像。
そして、トイレでの…×××と×××。
あれ?ここだけモザイクだ。よく分からない。
そのあと家へ帰って親からの××に耐えて、あの子達の世界へ憧れ、眠りにつく。
わたしの世界。わたしの全て。汚水と、暴力で、陰惨な、薄暗く、濁った、いらない世界。
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「メイリン?」
『……あ、れ、?』
モコナの声に、意識が浮上する。
わたしは、私は、今何をしていた?
視界にファイが入る。それだけで安心するが、彼の表情はいつものへらへらした笑顔じゃなく、どこか戸惑いに目を見張っていた。
---手元には、あの本はなかった。
「メイリンもファイも、どうしたのー?」
「…なんでもないよー」
『え、えぇ。そうだ、小狼は何か見つけたかしら?』
あの戸惑いを一瞬で閉まって、ファイはいつも通りの嘘くさい笑顔だった。
何も見ていない、と信じたい。嫌われたくない、と何故か強く思った。
それと同時に、あの映像がなんだったのか。あれが、あの暗く淀んだ映像が、〈前のわたし〉の記憶なの?
…あなたに、何があったの?私は、これを解き明かしてもいいの?
『……誰か、教えてよ…』
(迷子のレゾンデートル)