阪神共和国
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あの後小狼とゴーグルリーダーさんはいくつか話した後クールに去って行った。会話自体はあまり聞こえなかったが、恐らく「フッ、面白ェ女…」みたいなことになったんだろう、まったく人騒がせだ。
『小狼大丈夫?』
「すごかったねー、さっきのは小狼君が出したのかなー?」
「今のも巧断か?」
「…よく、分からないんです。でも急に熱くなって…」
小狼は狼の形をした炎の巧断が出て来たことに唖然としていたけれど、ふと我に返って、自分の庇った少年を確認する。
「大丈夫ですか!? 怪我ないですか?」
学生服の少年は涙目になりながらもこくこく頷くと、小狼はもう一人の中国衣装の少年にも安否を確かめようとした。けれど中国衣装の少年は小狼に一礼をするとすぅっと消えてしまった。べ、べつに知ってたけど?ただ人一人があぁもふわっと消えたりすると体がびっくりする…。
「消えた!?」
「あー、あの子も巧断なんだー」
「巧断ってのはなんでもアリだな」
「…そういえばうちの巧断みたいののはどこ行ったかなぁ」
「あ、モコナ!」
『言われてみれば居ないわね』
「あーー、大方その辺で踏み潰されてんじゃねぇのか?まんじゅうみたいに…」
「いやー、違うみたいだよー」
ファイがいち早く見つけたようで、モコナがいる方向を指差していた。人差し指が向いてる方向には複数の女の子に取り囲まれてちやほやされているモコナの姿が。白くてもふもふのプリティボディーでモテモテですか、阪神共和国平和だな。
「で、モコナはどこにいたのー?」
「黒鋼の上にいた、そしたら落とされた」
『つまり黒鋼のせいじゃない』
「んだと小娘!!」
『昨日から気になってたけど、その小娘とかガキって呼ぶのやめてよね!』
「うるせぇ」
「あ、そう!さっきモコナこんなふうになってたのにーー!だれも気付いてくれなかったー!」
モコナお得意の顔芸、“めきょっ”を披露する。それはつまり、記憶の羽根が近くにあったということ。けれど、あの大衆からという条件では探すのは厳しそうだとファイは言った。なにせ街の人もゴーグル集団も帽子集団も、とそこから探すとなれば至難の技だろう。
「でも、近くの誰かが持ってるって分かっただけでもよかったです。また何か分かったら教えてくれ」
「モコナどーんとがんばる!」
さっきの学生服の少年が気を持ち直したのか、小狼にお礼を言ってきた。名前は斎藤正義君というらしい。
「あ、あの!何かお礼させてください!」
「いや、おれはなにもしてないし」
「でもでも!」
同属なのだろうか、正義君も小狼もどちらも一歩もひかない。すると、またもやモコナの一声が綺麗に割って入った。
「お昼ご飯食べたい!おいしいとこで!!」
「はいっ!」
「えっ?」
即決する正義君もどうかと思うけれど、一行は正義君御用達のお好み焼き屋さんへ向かった。
*
ジューーと音を立てて香ばしい匂いを醸し出す目の前の物体に、男三人は物珍しそうな視線を向けた。
「これって…」
「僕、ここのお好み焼きが一番好きだから!」
「これ、おこのみやきって言うんだー。メイリンちゃん知ってたー?」
『知ってるけど。どうしてイチイチ私に聞くのよ』
「どうしてかなーー?」
「お好み焼きは阪神共和国の主食だし、知らないってことは…外国から来たんですか?」
「んーー、外といえば外かなぁ」
ファイと正義君の会話がとても噛み合ってない。ほら正義君の頭の上にはてなマーク出てるじゃない。けれど、誤魔化し上手なファイはさらりと話をすり替える。
「いつもあの人達はあそこで暴れたりするのー?」
「あれはナワバリ争いなんです。
チームを組んで、自分たちの巧断の強さを競ってるんです」
「で強い方が場所の権利を得る、と」
『迷惑な話ね。ナワバリ争いなんて、犬猫じゃないんだから』
「人が多い場所で戦ったら、他の人に迷惑ですよね…」
「そうだよねぇ。現に正義君危なかったもんねぇ」
けれど、言い辛そうに正義君は弁解した。
「悪いチームもあるんですけど、良いチームもあるんです! 自分のナワバリの不良とかが暴れないように見回ってくれたり、悪いことする奴をやっつけてくれたり」
「自警団みたいなものですね」
「さっきのチームはどうなのかなぁ?」
「帽子かぶってたほうは悪い奴らなんです! でも、あのゴーグルかけてた方は違うんです!
他のチームとの戦いの時、ちょっと建物が壊れたりするんで大人の人は怒るけど、それ以外は悪いこと絶対しないし、カッコいいんです!
特にあのリーダーの笙悟さんの巧断は特級で、強くて大きくてみんな憧れてて!」
さっきまでオドオドしていた正義君が熱弁するくらいすごい人なのは分かった。
私たちがそんな正義君をぼーっと見ていたのに気が付いたのか、正義君は顔を赤らめてすっと着席した。
「憧れの人なんだねぇー」
「は、はい! でも小狼君にも憧れます!」
「え?」
「特級の巧断が憑いてるなんて、すごいから」
「それ、何ですか?」
「巧断の“等級”です」
正義君によると、巧断は五つのランクに分かれていたらしい。下から、四級、三級、二級、一級ときて、一番上が特級。つまりあの浅黄笙悟は一番上の所謂強い人らしい。
「小狼君もそうです。
強い巧断、特に特級の巧断は本当に心が強い人にしか憑かないんです。巧断は自分の心で操るもの。強い巧断を操れるのは強い証拠だから、…憧れます」
正義君はその言葉とは打って変わって、小さな、多分小狼ぐらいにしか聞こえないような声で四級である自分を卑下した。
「でも、一体いつ小狼君に巧断が憑いたんだろうねぇ」
「そういえば、昨日夢をみたんです」
そんな話をしてた側で、黒鋼はコテを持ってうずうずしていた。さっきから喋ってないなとは思ってたけど、この人本当に興味あるなしがはっきりしてるなぁ。
小狼の言葉をまるっと無視、というか、お好み焼きに気を取られすぎて聞こえていないであろう黒鋼は、我慢できなかったのか、そろーっとお好み焼きをひっくり返そうとしていた。
そこへ、大きな怒声ともとれる声が店に響いた。
「待ったーーーー!!!」
目を向けると、そこには前いた世界での木之本さんのお兄さんと、審判者月の依り代が。
分かりやすく言うと、〈木之本桃矢〉と〈月城雪兎〉がアルバイトしていたのだ。私にとってはもう驚くことではない。というか、こんなところでバイトしてるのはむしろこの人達にとってはデフォルトだろう。
しかし、小狼は違ったようで。
「王様!?と、神官様!?」
私的にはそっちの方がしっくりこないよ、小狼。
(説明と、違和感と)