レコルト国
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吐き出されるように次の世界へ降り立った私達。地面は煉瓦造りで、花壇には色とりどりの見た事ない花が咲いている。
次はどんな世界なのか、もう覚えていない記憶をうすぼんやりと眺めていると、後ろからどさりと何かが落ちる音がした。
一斉に振り向くと、そこには小狼がぐったりと倒れている。珍しいこともあるものだ。
「小狼くん!」
「今回は小狼君かーー」
『昨日の2日酔いと、移動酔いかしら?』
とりあえずここじゃ人目につくかもしれない、と黒鋼に小狼を運ばせて、公園の端にあったあまり人気のないベンチに横にさせた。
小狼の寝顔は苦しそうで、夢見が悪いようだ。
「小狼くん…」
『大丈夫よ、そのうち目が覚めるわ』
「んーーでもいつ目覚めるか分からないよねー。小狼君、昨日結構飲んでたしー」
「そうだね!とても愉快だった!」
「お前らが飲ませてたんだろ!!」
『ハイハイ。
じゃあやっぱり手分けした方が良さそうね』
いつものように、探索とお留守番。できれば服も調達したい所だろう。先程あたりをパッと見渡したが、この格好は流石に浮く。
誰をどうしようかと、思案していると、サクラがおずおずと手を挙げた。
「わたし、残ってもいい…?」
『いいけど、…小狼がそんなに心配?』
ふんわりと問いかけると、顔を少し赤くしてこくこくと頷く。最近これが素直に可愛いと思えて、笑ってしまう。
そうと決まれば、組み分けは自ずと分かれる。
『よし、じゃあ私達で探索調達に行ってくるわ』
「そうだねーーー。サクラちゃん、小狼君のことお願いねー」
「っはい!」
「ほぉら黒ぴっぴ行くよーーー」
「押すな!うぜぇ!」
『煩いわよ、黒いのと白いの』
黒鋼を先頭に情報収集と衣服の調達に出る。
向かうは大通りだ。
ーーーーーー
人は、本当に悩むと固まってしまうらしい。
どちらがいいか、どれが優勢か、どちらを選ぶとどうなるのか。過去で統計を取り、今の気分を鑑みて、そして未来の自分を想定する。それは人が後悔したくないと思う種族であるからだと、思う。
しかし、何かを選ぶ、というのは、同時に何かを捨てる、ということだ。
選ばなかった方を捨てる。その覚悟がある者のみ、答えを出せる。しかし、残念なことに、人生は選択の連続である。
「うだうだ言ってねぇで早く選べ!!」
『だ、だって!この国の服、めちゃくちゃ可愛いから!!』
手に持っているのは、フリフリひらひらの可愛い服。このレコルト国の女性は大抵こう言った服らしい。最近あまりなかったけれど、正直どタイプだ。服だけでなく靴や小物まで可愛い。
分かっていない黒鋼は放っておいて、私はまた手元にある色の違うワンピースを眺めて、脳内で会議を開く。
ターコイズは私の髪と相まって暗く感じるだろう。だからと言ってパステルは可愛すぎて似合わない。となると、残るはワインレッドか、ブラウンなのだが。
「んーー、オレ的にはメイリンちゃん、赤は着てるところよく見るから、こっちのブラウンかなー?なんかチョコレートみたいで可愛いしーー」
『…そうね、他の意見も参考にしてみようかしら。試着してくるわ!』
「はーい、いってらっしゃーーい」
なんだか上手く扱われたような気がするが、そんなことより試着をしよう。
首まで詰まっている襟のボタンを留めて、付属のブローチを付ける。中にパニエを履いたらふんわりと広がるスカートが、フランス人形のようで素敵。それに先程ファイが言ってた通り、ドレープがまるでチョコレートみたいで可愛い。適度に短くて、動きやすさも満点だ。これに同系色の帽子と、ソックス、靴と合わせよう。決まった。
試着室から出ると、ファイは相変わらずへらへらと似合うよーなんて言っていて、黒鋼は襟の詰まった服は苦手だと、またぶすっとしていた。
サクラと小狼の服も買い、そのまま街行く人に話を聞いてみる。
ーーーーーー
「それにしてもメイリンちゃんの咄嗟の嘘、凄かったよねー」
「「私たち迷子になっちゃってーー、ここはどういう街で、何が有名ですかぁ?」っておじ様に上目遣いで聞いてたねーー!メイリンのタ・ラ・シ〜〜♡」
『人聞きの悪いこと言わないで。
女は笑顔と嘘と涙が武器なのよ!そしてオシャレは鎧!武器も武装も、数が多くて困ることはあまりないでしょ?』
しかし、道行くおじさんに話を聞いていたら(モコナが真似したのでだいたい合ってる)、何故か逆ナンだと間違われて連れていかれそうになり、拳で解決しようかとも思ったが、自分で声をかけたことに変わりはなかったので悩んでいると、黒鋼が腕尽くで止めてくれてなんとか落ち着いた。
その後、しばらく不機嫌(に見える)なファイからの眼差しが冷たく、必死に話しかけたのも、思い出と呼ぶほど古くない記憶だ。
そんな与太話をしながらサクラたちが待つ公園のベンチへ向かう。
遠目にベンチが見え、声をかけようとするが、目に入った光景がそれに待ったをかける。
「きゃーー!小狼とサクラ、お手て繋ぎながらおでこくっつけてるよー!ラブだよラブーー!!」
『モ、モコナ!今は邪魔しちゃダメよ!』
「可愛いねぇーー、あれオレもしてほしいなーーー。ねー、メイリンちゃーーん」
『し、しません!ひ、ゃ、顔近づけるな!』
「こっちもラブだーー!ラブラブだーー!」
モコナの声に気づいた小狼とサクラがびっくりして飛び跳ねている。顔を真っ赤にして弁解するサクラがまた可愛らしい。
「いや、あの!」
「小狼くんが怖い夢見たって…!!あの、あの、だから!」
「おまじないしてたのー?」
こくこくと二人して頷く小狼とサクラ。尚も顔が真っ赤で焦っている。
「でもラブかった♡
ラブはいいねぇ〜〜♡」
『小狼達で遊ばないのっ』
ほわほわしたなんとも緩い雰囲気に耐えかねたのか、小狼は探索はどうだったのか尋ねる。それにファイが今までとはまた違っていると答える。それもそうだ。煉瓦造りの道に、綺麗な外観の街。なかなか見れない代物だ。それに、また別の意味でも。
「服はねー、こんな感じー」
「ジェイド国と少し似てますね」
「でも女の人はドレスじゃなくて、メイリンみたいなフリフリとかだったよ」
『ジェイド国より寒くないし、動きやすいわよ』
「取り敢えず、オレ達の服と、メイリンちゃんのピッフルでのお給料で、小狼君とサクラちゃんの分の服も調達してきましたーー」
「お給料、ですか?」
『えぇ、ドラゴンフライの宣伝とかショーとか出てもらったからって、ダイドウジさんが金塊とか宝石で支払ってくれたのよ』
今思うと、私たちが異世界の者だと、旅をしていると事前に知っていたから、ああいった支払い方法だったのだろう。お陰で換金なども楽だった。
ファイ達の衣服は売ってしまったが、私の衣装はどうしても手放し難く、わがままを言ってモコナに保管してもらった。小狼とサクラはありがとうございます、とお礼を言いう。親しき仲にも礼儀ありだ。
「それで、羽根の気配は?」
「まだ分からないの。っていうか、この国不思議パワーいっぱいなんだもん」
「「不思議パワー?」」
「モコナが歩いてても全く問題のない国。でもってーー、小狼君にとっては凄く良い国かもーー」
「おれですか?」
『そうね、良い国。というか、喜ばしい国だと思うわ』
「ねー、黒様」
「ふん」
閑話休題。
サクラと小狼がこの国の服に着替えて、聞き込んだ話をまとめて、ファイが説明している。この国は小狼にとっては良い国だが、ファイにとっては勝手がわかる国、なのだろう。
「この国にはね、魔術があるんだってー。ちゃんと学校になってて、みんな勉強してるみたい」
道すがら説明しているため、頭の上には空飛ぶ箒で登校している学生や、馬に蝶々の羽が生えた馬車が公道を走っている。それが物珍しいことではなく、この国にとって“普通”のことなのだろう。
「ああいうのもいるから、モコナもちゃんとお外に出られるねーー」
「うんっ!ジェイド国の時は、黒鋼の服の中で窮屈だったよー」
『あれはあれで愉快だったわよ、見ている方は』
「って白まんじゅう!言いながら潜んな!」
黒鋼とモコナが愉快にコントを繰り広げていると、どうやら目的地に着いたようだ。
国が率先して作ったであろう絢爛さと、とても大きな建物が見えた。サクラ達はまだ“小狼にとって良い国”の意味がわからないのだろう。しかし、その建物に一歩足を踏み入れると、二人ともその意味をしっかりと理解したようだ。
「こ、ここは…」
視界の端から端まで、上から下まで、本が陳列されている光景が、飛び込んでくる。話に聞いてはいたけれど、想像以上だ。
小狼達も、この本の数に圧倒されているらしく、口を広げて目を輝かせている。
(不思議ワールド)