ピッフル国
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ちゅんちゅんと囀る鳥の声に、意識は夢の中からぷかりと浮かび上がった。
けれど、まだもう少しだけともう一度意識を混濁した中へ落ちていこうと企んでいると、それを遮るようにガガガガガガ!!と隣の部屋から高々に響く機械音。
…頭が痛くなり、目が覚めてしまった。
眠りを妨げられたことと、ただでさえうるさい音、それと何故かガンガンとひどい頭痛に私の機嫌は直角90度である。斜めどころの話じゃない。急転直下だ。
人がせっかく気持ちよく眠っていたのに、と一言物申してやろう。フラつく足を何とか運ぶと、そこはサクラの部屋だった。部屋の前まで来ると音もそれなりに大きくなって、耳を塞ぎたくなる。いつの間にか寄っていた眉間のシワがさらに濃くなる。
ガチャリと扉を開けると、部屋は一面布だらけで、ダイドウさんとサクラが、ミシンを囲んであーだこーだと思案顔だった。
『……な、何やってるの…?』
「あ、メイリンちゃんおはよう!もしかして、起こしちゃった?」
「おはようございます、メイリンさん」
『…お、おはよう。まぁ、それはもういいっていうか、それよりこれ何?』
大きなミシンと、マネキン?のようなもの、あとは、大量の布に、絵が書いてある紙。
それらがサクラの部屋のいたるところに散らばっており、何が何だか分からない状態だ。
「あ、あのね、次元の魔女さんへの、ホワイトデーのお返しなんだけど、知世ちゃんに相談したらお洋服はどうだろうって」
「年上の女性で、すごく綺麗な方だとお伺いしましたので」
『あーーだからか…』
全て納得してしまった。
ふと、視界の端にビーズや装飾系の石が入ったケースが映ったので、ある事を思いついた。
『ダイドウジさん、私も素材と場所、借りていいかしら?』
ーーーーーーー
『「出来たーー!!」』
サクラの作業と私の作業が終わったのは、同時だったようだ。二人してくすりと笑い、階段を駆け下りる。
すると、リビングには酒瓶やケータリングを食い散らかしたあとや、何人か倒れていたりと、酷い有様だった。思わず唖然である。
しかし、私も昨日のどんちゃん騒ぎの途中までは覚えているが、その後からはさっぱり覚えていないということは、少しお酒を飲んでしまったらしいというのが、今の見解である。まぁ、作業中も頭痛がひどかったのでそりゃそうだが。
ファイ達が見当たらないので、おそらくテラスだろう。モコナに用がある為、ガチャリとトレーラーの扉を開くと、案の定、グダグダの顔が数名、外に勢ぞろいだ。
サクラは本当に花が咲いたように笑っている。
「モコちゃん!魔女さんとお話し出来る?」
『あの魔女に用があるのよ。あれ出せる?』
「侑子?できるよーー!」
小狼の頭に乗っていたモコナが、通例通り、額の石から魔女の姿を映し出した。
ここだとプロジェクションマッピングだとかホログラムくらいで通るからやりやすい。
映し出された魔女は着替え中だったようで、いつもよりラフな格好だ。
〈あら、モコナ〉
「侑子、おでかけなの?」
〈これからちょっとね。どうかした?〉
「サクラとメイリンがね、ご用があるんだって」
〈貴方達が?〉
『えぇ』
「お礼できました!」
ばっと開いた布は、シックな黒の洋服だった。そう、彼女は朝からダイドウジさんに手伝ってもらって洋服を作っていたらしいのだ。その後に見せるのもなんだが、私は手に持っていたものを見せた。
〈サクラ姫は洋服で、メイリンは…ミサンガかしら?〉
『えぇ、私もダイドウジさんにお願いしてね、黒のミサンガに蝶々のチャームもつけてみたの。って、サクラの後じゃ味気ないだろうけど』
〈いいえ、ミサンガの意味を知ってこれを選んだのでしょう?…ありがとう〉
サクラの服と私のミサンガをモコナを通して魔女の手に渡す。すると、珍しい穏やかな顔で笑っていた。
〈確かに頂いたわ。サクラ姫と、メイリンの分だけね。まぁ、素敵な贈り物に免じて各自の服の預かり代も差し引いてあげる。必要になったらいいなさい〉
『…服返すのは別料金ってことね』
〈そういう事〜♡
でも、フォンダンショコラのお礼、残り3人分忘れないように〉
さぁっと自分勝手に通話を終わらせた魔女。まぁ、それだけ返せたならいいか。
しかし、呆然と立っていた小狼は、冷や汗が止まらないようだ。
「さっすが侑子♡」
「ぜってー礼なんかしねぇぞ!」
「うーーん、オレ何にしよー」
「お、おれも…」
三者三様である。取り立ての苦難はまだ続く事だろう。鼻で笑ってやろう。
ホワイトデーのお返しが済んだところで、モコナはふわりと大きな翼を出した。そろそろらしい。
「次の世界にいくのー?」
『って、家そのままで!?』
私の疑問などもはや聞いておらず、モコナの下にはいつもの魔法陣が出ていた。本当に出発らしい。
「有難う!」
「知世ちゃん、また会えるよね」
「えぇ、この国にはまだ次元を超える設備はありませんが、我が社が必ず作ってみせますわ。だからきっと、貴方達にまたお会いできます」
きゅっとサクラの手を握りしめたダイドウジさんは固く決意していた。本当にピッフル・プリンセス社なら作ってしまいそうだ。
寂しく思いながらも、その光景を目に焼き付けていると、ファイにそっと手を握られた。
「メイリンちゃんとのデート、やっぱりまた今度になっちゃったねー」
『…そうね、またいつでも行けばいいわよ』
誰かと楽しい約束をするなんて、いつ以来だろうか。そう思うと、心が温かくなってしまう。
『じゃあね、ダイドウジさん』
「今度は共犯者でも、クライアントでもなく、貴女をメイリンちゃんと呼んでもいいですか?」
振り返った私に、ダイドウジさんが微笑む。
あぁ、懐かしい愛おし感覚だ。その気持ちをありったけ込めて、私は笑う。
『当たり前よ!』
大勢の人に見守られながら、私達はピッフル国を後にした。
(また、今度)