ピッフル国
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
互いの知識のすり合わせが終わり、話もひと段落ついた頃、ふとサクラが目を覚ました。
「知世ちゃん…」
「サクラちゃん!!
目が覚めました?ご気分は?」
ダイドウジさんがすぐ様駆け寄り、サクラの体調を確認する。
先ほど小狼から聞いた話によると、トロフィーの羽根はダイドウジさんにお礼をしてから羽根を戻したいと言っていたらしい。本人にとって、不本意な眠りだったのか、サクラはいつもより早く目を覚ました。
「平気だよ。ねぇ、聞いてもいい?」
「……はい」
「知世ちゃんはわざとわたし達を勝たせようとしてくれたの?」
「いいえ!確かに仕掛けはしましたが、決してサクラちゃんや皆様を有利にしようとしたからではありませんわ。
貴方達はきっと勝つと、信じていましたから」
柔らか笑みを浮かべ、ダイドウジさんは先ほどとは別の角度の本音を話してくれた。
それに安心したのか、サクラはありがとうと呟き、またそっと瞼を閉じた。
「さてーー、サクラちゃんは優勝したし、モコナの秘密技のお陰で羽根も戻ったし、せっかくだからさーー、ここでもう一回パーティーしない?」
「モコナパーティー大好きー!」
こう言う時のファイは頼もしいくらいに愉快だ。浅黄さんや残さんはケータイで仲間を呼んだりケータリングを準備しだした。なんとも早い。そして情報社会を垣間見た。
「小狼君もー、今日くらいはどうーー?
飲酒解禁って感じで」
「飲もうよーサクラの初勝利だよー♡」
「で、でもまだ姫は眠ってて…」
『そうよ、面倒くさい事この上ないんだからやめなさい』
「えーー!でも初勝利だよー?モコナも頑張ったんだよー?メイリンも飲もうよー。それに起きたらサクラも飲むよ!てか、モコナが混入する!」
『混入するな!』
「いいから酒よこせ」
『あんたは一人で飲もうとしない!』
なんだか四月一日くんの気持ちが分かったような…。あの子は横暴酒豪魔女と酒呑み黒饅頭にさぞかし苦労してるんだろうなぁ。あと、百目鬼くんだっけ?そこら辺はやはり曖昧だ。
なにはともあれ、無事色々が終了し、今日くらいはどんちゃん騒ぎを許そうと思う。
残さんのケータリングや、浅黄さんのお仲間がやって来て皆で2回目の乾杯をする。
私はまだ脂っこいものや味の濃いものは難しいみたいで、ジンジャエールを一杯。
サクラの寝顔を見ながら、というのも中々オツなものである。
すると、浅黄さんのお仲間さんにわらわらと囲まれて、レース前のショーが良かったとか、ファンですって人も居て、変な気分だ。
その中には阪神共和国でお世話になった正義くんに良く似た子も、頬を赤らめて話しかけて来てくれた。
嬉しくなってお話ししていると、ついつい喉が渇き、もう一杯と飲み物をぐいっと飲む。飲んでいるのがジンジャエールというのが嘘みたいに楽しい。
「やっぱりメイリンさん可愛いなぁー!」
「お、おれ!あのCMの曲、ずっとリピートしてるんです!透明感があって、でもちょっと切なくてっ…」
「CDとか出さないんスか?」
『あの曲そんなに気に入ってくれたんだぁ。私の曲じゃないからCDとかは難しいけど、やっぱり好きなものを好きって言われると嬉しいなぁ、うれしいなぁ…』
えへへへ〜とついつい頬が緩んでしまう。部屋が暑いのか、頬が熱くなってるのがわかる。体温を下げるために、と何杯目か分からないジュースを飲もうと手を出すと、いつの間にか近くにいたファイにその手をやんわりと握られ、目的のジュースが取れない。
『…ファイ?ジュース飲みたいんだけど』
「だーーめ。メイリンちゃんまだ病み上がりだし、顔赤いし、それに……ちょっとお酒の匂いする」
首元に顔を近づけられ、すんすんと匂いを嗅がれる。くすぐったくて、思わず変な声が漏れた。心のそこがむずむずする。さっきとは別の、むずむずだってことしか分からない。
『ファイ、やめっ…て。みんな見てる…』
「んーーー、そーだねぇ。
じゃあオレ、メイリンちゃんお部屋に連れて行くから、皆さんのゆっくり飲んでてくださいねーー」
ひょい、と体を持ち上げられ、何度目かのお姫様抱っこされる。段々羞恥心が薄れていく自分が怖い。
『…私より先に、サクラを運んであげたらいいのに』
「サクラちゃんはどーせ黒ぴーが運ぶでしょー。オレはメイリンちゃん担当だからー」
『……なら、いいか』
気持ちがふわふわむずむずして、いつもなら溢れないはずの本当の言葉が出て来てしまう。こんなはずじゃないのに。
ガチャリと私の自室の扉を開いて、優しくベッドに降ろされる。見上げたそこには月明かりに照らされたファイの顔と、可愛い照明がぶら下がった天井。
『…怪我、なくて良かった』
「……メイリンちゃん」
『せっかく綺麗な顔してるんだから、傷がついたら悲しいよね』
「…ありがとう」
『ふふ、どーいたしまして。
あ、デート、いつ行けるかな?』
「うん、そーだねーー、明日は難しいだろうなぁーー」
みんな酔っ払ってるしーと続けるファイに、そっかーとまたゆるゆると答える。なんだかこんなにゆっくり話すのも、久しぶりな気がする。気が付くと笑みがこぼれる。
『ねぇ、ファイ。
まだ覚悟は出来てないけど、いつか、あなたに……』
「メイリンちゃん、その先はごめんね」
ファイの冷たい人差し指が、私の唇に触れて待ったをかけられる。魔法をかけられたように、ゆっくりとゆっくりと、瞼が重くなっていき、ついには重力に逆らえず深い夢の奥に入っていった。
「…どっちつかずは、駄目だって分かってるんだけどね」
それでもごめん、と夢の中でファイの声が聞こえたけれど、その寂しそうな背中に私の手が届くことはなかった。
(そっと瞼を閉じて)