ピッフル国
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〈さぁ!ついに決まりました!〉
〈ドラゴンフライレース、優勝者は!!
誰よりも可憐に!そして、誰よりも速く空を駆け抜けたウィング・エッグ号だーー!!〉
ぱんぱん!とクラッカーや、大勢の割れんばかりの拍手、豪勢なトランペットや、気持ち程度に私の歌った曲が流れる。
サクラの優勝は大勢の人の祝福で華麗に彩られている。ダイドウジさんが言った通り、今レースのヒロインは、あの子だった。
私も特別に関係者席、というか本選参加者と同じ枠で拍手を送っていた。
〈勝者には社長自ら優勝賞品が手渡されます!〉
ゴゥンとステージの設備が動き、ダイドウジさんが羽根の入ったトロフィーを抱え出てきた。観客からは枯れそうな程の大きな歓声が上がる。二人の声は聞こえないが、ふわふわとした空気が、あそこだけ流れていることだろう。
「やっぱり女の子は目に優しいーー♡
勝ったねぇ、サクラちゃん」
「…はい」
『あら、ここにもゆるふわ系女子がいるんですけど?』
「んーーーー、メイリンちゃんは目に優しいっていうかー、その格好も目の毒っていうかーー男心ってムズカシイよねーー」
『とりあえず褒められてないことは分かったわ』
違うよーー!と横からゆるい訂正が入るがさらりとスルーしてやる。ステージ上でも、かのクラスメイトによく似た糸目の人が楽しい嘘のうんちくを披露し、ずるずると無言で連れていかれている。あの光景は懐かしくて安心するナー。
トロフィーを手渡されたサクラが、小狼に気がつきふわふわな笑顔で手を振る。小狼も嬉しそうに手を振り返している。
「仲良いんだな!」
「……!!」
『ふふっ、仲良しさんよね』
龍王さんの指摘に顔を真っ赤に染めた小狼は頷くでもなく慌てていた。
そんな横でまたファイが煩くも黒鋼に構っている。
「黒たんの分も振ってあげるーー」
『怪我、結構酷いのに固定しなくて良かったの?』
「ふん、おめーに言われたかねぇよ」
『ゔっ、返す言葉もないわ…』
「あんまり大げさにしたら、サクラちゃん責任感じちゃうもんねぇ」
「面倒だっただけだ」
「そうしといてあげよーお父さん」
『……そうよね。そのうち“パパくさい”とか、“パパと一緒に洗濯しないで!”とか言われるんだもんね』
「てめぇらなぁ!!」
悪ふざけが過ぎ、黒鋼の鋭い眼光が降り注ぐ。ゲンコツは遠慮したいので、思わず視線を外すと、でもさーと間延びしたファイの言葉が続いた。
「変わったぁと思わない?
小狼君、旅の最初は全然笑わなくて、苦しそうで。サクラちゃんは記憶が揃ってなかったせいもあるけど、不安そうで。メイリンちゃんは、よく怒ってるけど、よく笑うようになったよね。言葉遣いも軽くなったしー」
『…そうかしら?』
「黒るんも怒ってばっかなのは、今も一緒かーー」
「あぁ?」
ステージの照明か、陽の光なのか。それを眩しそうに目を細めながらも見つめるファイ。儚くて、脆い。咄嗟に、その光景を綺麗だと思った。
「でも、旅の間に辛い事もあるけど、楽しい事もあって。ああやってあの子達が自分で頑張って笑ってるの見るとさ、変わったなぁって思って」
「そう思えるお前も、変わったんだろ」
「え……」
『……』
ファイの固まった表情は、観客の声で押し潰された。
あの黒鋼の発言から、そこそこ静かに、また口だけの笑みになっているファイを見兼ねて、こそこそと黒鋼に近づき、他に聞こえないようなトーンで話しかける。
『…気が付いた?』
「何がだ」
『ファイよ、気が付いてるくせに。
…あの人、サクラや小狼や私が変わった事が嬉しい、みたいだったのに。自分の時になるとああなのね』
「……」
『…きっと、変わるのが怖いんだと思う。それで、それに気付かない自分に戸惑ってるんじゃないかしら』
遠目に映るのは、サクラにおめでとうと、にこやかに笑って話すファイの姿。
黒鋼は興味なさそうに、またふんと鼻を鳴らす。
「環境や時が経てば、人は変わるだろ」
『そうね。ーーーーけれど、そう割り切れずに、変わりたくないと踠くのも、また人よ』
私もそちら側だから、分かってしまう。
変わる事の恐怖を。気がつけなかった戸惑いを。
黒鋼は無事な方の手で、私の頭をガシガシと掻き乱す。
『ぃやあの、く、黒鋼さん!?これから祝賀パーティなんですけど!?』
「うるせぇ。お前らどっちもそんなだったら、いつかどっちも動けなくなるぞ」
『え…、と』
そう言い残し、黒鋼はみんなの元へ歩いていく。
ぐさりとくる言葉に、ぐらぐらきてしまう。
日が眩しいからだと言い訳したいほど。
『………なんだよ、それ。私だって分かってるっての』
ーーーーーーーー
日が落ち、主催のピッフル・プリンセス社専用の飛行船にて参加者と少人数のスタッフでの内輪祝賀パーティに参加する。
私も参加していいのかと思ったが、一応スタッフ側での参加らしい。
まぁ、ダイドウジさん達と違って特にする事もないので、ヘアメイクを直してもらい着飾って、パーティ中はゆっくり座っていることにしよう。壁の花、上等。
前の小さなステージにはダイドウジさんが立っており、手にはシャンパン。絵になる。
「今日のレースは様々なアクシデントがあって、参加下さった皆様にはご迷惑とご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
細やかではございますが、宴席をご用意いたしましたわ。是非、心ゆくまでお楽しみください」
では、乾杯。とダイドウジさんの音頭に合わせ、皆で乾杯をし、私はグラスに入ったジンジャエールを一口含む。
サクラもトロフィーを抱いてソファに座っていたため、私も失礼して横にどっかりと座った。小狼達も近くにいるので安心だろう。
「それにしても、サクラかっこよかったねー!」
「本当にねー」
『えぇ、かっこよかったわ』
「そ、そんなっ!」
わたわたと顔を赤らめるサクラに、思わずくすりと笑ってしまった。
サクラは顔を赤らめた次には、黒鋼の怪我の具合を心配していた。忙しい子め。
「黒鋼さん、手…大丈夫ですか?」
「あぁ」
「ファイさんは?」
「全然平気ーー」
「小狼くんは!?」
「大丈夫ですよ」
「ほんとに??嘘じゃない!?どこも痛くない!?」
「ほ、本当ですよ…!」
小狼の言葉に、サクラもやっと胸をなで下ろすかと思いきや、今度は私の方に目を向けた。
「メイリンちゃんも、無茶して傷口開いたりしてない?」
『してない、大丈夫よ。
あんな軽い傷すーぐ塞がっちゃったもの』
「モコナも怪我してないよー!」
「よかった…」
全員の無事を確認して、やっとサクラはほっと安心のため息をついていた。
参加していない私にまで心配が及ぶとは。本当に健気でいい子だ。
「けど、こうやって並んでるところを見ると、サクラちゃんとメイリンちゃんの衣装、デザイン似てるねーー。お人形さんみたーい」
「本当ですね」
「つか、あの最初のはなんだったんだ?」
『ダイドウジさんが、最初は盛り上がった方がいいと思いまして〜って提案してきたの。私もそれくらいで盛り上がるならいいかなぁと思って』
「あの時のメイリン、すっごーーく可愛かったよね!ね、ファイ?」
ファイの肩に乗っているモコナがそう問いかける。私も乙女なのか、ファイの言葉を待っている間の心臓がうるさい。
「うんーー、可愛かったよねー。
でも、他の人にも愛想振りまいてるメイリンちゃんって、なんか見てるとむずむずしたっていうかーーーー」
『な、何よそれっ』
私は無愛想ってか!!いやそうなんだけど!あんなに一生懸命可愛くあろうとしたステージをみて、ましてやファイにそんな風に思われていたと思うと、悲しみを通り越して怒りが湧き上がってくる。
『…もう、いい。飲み物とってくる』
すくっと立ち上がり、顔を見せずその場を離れる。飲み物が切れたのは本当だし、ちょっとだけ頭冷やすために離れようと思った。
ファイ達と離れ、一人窓の外を眺めていた。飛行船というのもあり、夜のピッフル国を一望できる。私の想像する夜景、とはまた少し違うが、とても綺麗だ。
『…はぁ、どうしてあんなに怒っちゃったんだろう。今更後悔の嵐だわ……』
思い出すのは数分前の、ファイの言葉。
なんだよ、むずむずって。どんな感情だ。
ていうか、そんなに変な顔してたのかしら?それだったらまずいな。
んーーーー、と唸っていると、いきなり肩を誰かに掴まれた。反射的にその手をとり捻ると、痛い痛い痛い!と聞き覚えのあるふわふわした声が聞こえた。
『って、ファイ!?』
「あははやっほーーメイリンちゃん。反応いいねーー」
『ごめんなさいっ、つい』
「大丈夫だよー」
私が捻った手をひらひらと振っている。にこにこと笑う、その表情は少しだけ眉が歪んでいるが。
『どうしてここに?』
「モコナが、“ファイ!ここは追いかける所だよ!ラブコメの定石だよ!”って言ってねーー。よく分かんないけどーー。」
『あんんのお馬鹿まんじゅう…!!』
「それで、さっきから唸ってたみたいだけど、どうしたのーー?」
ファイの言葉でまたゔっと、思考が詰まってしまった。
何を言ったらいいかも分からず、どう言葉にするべきなのかも掴めない。そんなものをあやふやなままこの人に伝えていいものなのだろうか?所詮私とファイは、想いを伝えないままごっこ遊びしてるだけなのに。
『…今は、もう少しこのままがいいんだけどなぁ』
「んー?何か言ったー?」
『何でもないわ。
それより、女の子には声かける前に肩掴むとかやっちゃダメよ!ファイの声が聞こえなかったら反射的に腕折っちゃうところだったわ』
「それは怖いなぁーー。以後気をつけまーす。さぁ、飲み物も取ったし、みんなの所へ戻ろーーー」
自然と繋がられた手に、また安心する自分がいる。このまま時間も関係も、ゆるゆるふわふわしたままで、止まってしまえばいいのに。そんな気持ちと同時に、さっきの黒鋼の言葉も蘇るモンだから、私の心は今ぐちゃぐちゃだ。
最後に、やらなきゃいけないことが残ってるのに。
人混みをかき分けてみんなの元へ向かっていると、突然窓ガラスが割れ、誰かの甲高い悲鳴が聞こえ、凄まじい風が吹き荒れた。
ほら、まだ終わらない。
(ごっこ遊び)