ピッフル国
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〈さて!現在のトップはどうなってるーー!??〉
実況のスタッフがそう問いかけると、カメラが切り替わり先頭組が映る。
一位はツバメ号、二位は黒たん号で首位は未だ独占だ。しかし、団子状態になっていた三位と四位に抜かれ、あっという間に逆転。
〈さすが前回大会優勝機のイエロータイガー号!凄い加速です!スノーホワイト号もすごい!!〉
一気に転落してしまった黒たん号は負けじと加速する。しかし、四位になったツバメ号はそのままのペースだった。余裕なのがムカつく。
〈さぁ!上位3機第二チェック地点に到着します!!第二チェック地点は、ドラゴンチューブです!!!〉
『な、なにあれ…』
巨大な入り口と、管のような、それこそチューブのようにぐにゃぐにゃの筒が用意されていた。障害物レースにしては突飛すぎる。
〈このリングを無事通過するとバッジが出てきます!しかし!!このチューブは動きます!要注意だーーー!!〉
……黒鋼のめんどくせぇ!!という絶叫が聞こえてきそうだ。というか、本当に突飛だな。横で笑っちゃいるが、なんで難題を余裕で突きつけるんだ。簡単そうに見えて、相当なテクニックがいるぞ。
しかし、イエロータイガー号とスノーホワイト号は難なくクリアし、バッジをもらっている。黒鋼は、スピードも出せず、少々苦戦中のようだ。
しかし、チューブがうねうねと動く速度はそこまで俊敏でないようで、コツさえ掴めればあとは抜けるだけ。
--ーーーーしかし、その瞬間、チューブの動きが早くなり、破裂した。
〈ど、…どうしたことでしょう!?
いきなりチューブの動きが過剰にーーー?!〉
「また…!」
〈黒たん号は出てきましたが、ツバメ号や後続の機体はーー!!?〉
『ファイ……』
奥歯をぎっと噛み締め、祈るようにモニターを見る。瞬きなんて、する余裕もないくらい。
モニターが移り変わると、水面に浮かぶツバメ号と、ファイの姿があった。
チューブの性質が私のウミツキ号のボディと似通っていてクッションの役割を果たしたらしく、無事だったようだ。
ほっと胸をなでおろすが、背中に伝う冷や汗はまだ止まらない。手も、いつの間にか爪痕が残るほど握っていたようだ。
ファイが画面で大きくバツを見せて、復帰出来ないと伝える。
〈あぁーー!!ツバメ号リタイアーーー!!!デウカリオン1号・2号と、ウィザード号もリタイアだーー!〉
『…リタイア、』
「メイリンさん、このピッフルGOには、万が一の為に、小型のドラゴンフライを乗せております」
『……それが、どうしたの?』
「リタイアされた方々を見てきてくださいな。もし、不審な行為や挙動などがあればわたくしに報告していただけると嬉しいですわ」
この人は、全て見ているのだろうか。
さすが、としか言いようがない。
『ありがとう、借りていきます』
踵を返し、用意されているドラゴンフライに乗り込む。私は、私のやりたいことを。
ーーーー----
ダイドウジさんに聞くところによると、リタイアした者は救護も手当も出来る場所に運ばれるとのこと。
目的地へ着くと、黒衣のお姉さんがお待ちしておりました、と私を案内してくれた。
カツカツとヒールの鳴り響く廊下をどれくらい歩いただろう。短いような、しかし長くも感じる時間歩き、やっと待合室までたどり着いた。
そこには。首からタオルをかけ、薄い光に溶けそうな色の髪から雫をたらし、ゆっくりとモニターを見ているファイがいた。
私がいることに気づいているのだろうけれど、恐る恐る近寄ると、ファイは俯きながらもそれを待っているようだった。
長椅子に腰掛けていた隣へぽすん、と座り、しばしの沈黙が流れる。--多分、私もファイも怖いのだ。どう、声をかけていいかが分からない。重苦しい沈黙が、互いの肩にのし掛かっている気分だった。
しかし、その無言を引き裂いたのは、意外なことにファイだった。
「……この間はごめんねー、オレがいらないこと言ってーー」
『…は、』
「あの後なーーんか気まずくなっちゃったし、そういうのはアレかなぁって。みんなも気を使っちゃうだろうしぃ」
目が合わないファイは、ペラペラと口を動かす。目を細めて、まるで現実からそらしているみたい。
なに、それ。
『…ふざ、けんな!!』
気がついたら体が勝手に動き、ファイの胸ぐらを掴んでいた。
まだ反らされる目線に、ついに何かがぶちっと切れた音が頭の中で反響する。
しかし、そんなことに構ってられない。
無理やりファイの固く閉じられた唇と私の唇をぶつけると、見開かれたサファイアブルーの瞳は、やっと私を見た。
「…メイリン、ちゃ」
『私が“ごめんなさい”をしにきたの!!
悪いとも思ってない奴が謝るな!あなたはあの時、私を叱ってくれたんでしょう!?』
「………」
『…確かに、お前がいうなって台詞だったけど、あの時の私はダメだった。
それをダメだよって気づかせてくれたのは、あなた達でしょ?』
だから、ごめんなさい!とするりと、口から溢れる。言葉にできて、スッキリした気持ちと、その後から追いついてくる後悔。けれど、それを顔に出さずに私は目を逸らさない。
すると、ファイは突然吹き出して、肩を震わせ笑い出した。
「くっ、…ふふ、」
『な、なに笑って…!』
「メイリンちゃん、変わったねぇ」
『へ……』
「いっつも仲間外れにされたら怒るのに、我関せずみたいな所あって。…なのに今回は、さも自分一人の問題だっていう感じだった。あれはよくないよねー」
『…ご、ごめんなさい』
「うん、ちゃんとごめんなさいできて偉いねーー」
よしよしと私の頭を撫でるファイに、少しむっしてしまう。なんだか、すごく子供扱いだ。
「あと、キスはもうちょっとロマンチックにしないとダメだよ」
『き、…!!?』
耳元でいつもより低いファイの声が響く。ガンガンと、シナプスに直接。ぼふんっ、と顔が一気に赤くなってしまう。
そうだ、勢い余ってというか、キス…してしまった…しかも色気もクソもないタイミングで。なんて考えなし。バカじゃないか?
というか、キスもだけれど、私選手じゃないのにここまで来て、めちゃくちゃ心配してるみたいじゃない!
『〜〜もうダイドウジさんのところ戻るから!!じゃあね!』
「えーー、ここで一緒に見よーよーーオレ一人ぼっちで暇だよーーーーー」
『抱きつかないで!離れなさい!』
「えぇーーーー」
腰に絡まる腕を払いのけ、仕方がない、と浮かせた腰をもう一度座らせた。ファイの肩が私の肩に触れ、なんだか恥ずかしくもある。
ふんふんと上から鼻歌が聞こえる。それは、いつしか私が桜都国のステージで歌った、あの子達の希望の歌だった。
「…メイリンちゃん、オレね。あのデートが初めてってなんかやだなぁってずっとモヤモヤしてて。だから、これ終わったらまたデート行こうよーー」
『……デザート付き?』
「デザート付き〜。ついでに荷物持ちのオレも付いてきまーすーーーー」
『…なら、行ってあげなくもないわ』
「やあったーーーー」
私もファイも、未だに自分の気持ちをちゃんと伝えないけれど、この距離が心地よくて、暖かいことは互いに知っていた。
それでいいとさえ、思っていた。
(やっと、私を見た)