ピッフル国
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苦しくなるほど湧き上がる気持ち。いや、実際緊張と、エネルギー不足で苦しい。
けれど、彼らが見ている。遠目でも分かるほど、彼らが…、彼がサファイアブルーの瞳を丸くして、私を、見ている。
用意されたドラゴンフライで、観客の頭上を飛び回り、まだ歌を奏でる。私の喉が枯れるまで、歌ってやる。
私が歌えば歌うほど、煽られる奴がいる。
笑顔を振り撒けば振りまくほど、苛立つ奴がいる。それで、いい。
小狼達の頭上近くに来たら、モコナが手を振っていることに気がついたので、精一杯手を振って、あのいつもの笑顔はどこかに置いてきたのか、馬鹿みたいにぼーっとこちらを見ているだけのあの人に、最大限の愛嬌を振りまく。
『♡』
「…っ…!!!」
「わーー、投げキッスだーー!!
メイリンのファンサ上手ぅーー♡」
「おほほほ流石ですわ、メイリンさん」
「ったく…」
会場を大きく一周回る頃に、ショーは終わった。歓声を上げてくれているお客さんに、手を振りながらステージの上に戻ると、抽選会の司会を担当するであろう人が近くにいた。
「メイリンさん、ありがとうございました!」
『聴いてくれて、ありがとう。
選手の皆さんっ、私は本選には出れないけれど、頑張ってくださいね!』
それじゃあ、とステージの袖にはけていく。
袖では黒衣のお姉さん達が待っていてくれた。私の役目はこれで、終わった。
あとは、本選だ。
--------
本選の出走場所の抽選は、用意された控え室で見させてもらった。まぁ結果としては当然だなという感じに終わった。
下から順に、小狼がNO.15、ファイがNO.11、黒鋼がNO.9。そして、サクラがNO.1だ。
『サクラに運ゲーで勝てるわけないわよね…。ははは』
乾いた笑みしか出ない。戸惑っているのは本人だけで、後の3人は当然だろうという表情だ。
『さて、そろそろ私もダイドウジさんと合流しないと』
外ではドラゴンフライフライレースのスタート台や、説明を改めて行われている。今回はバッジ制らしく、チェックポイントでバッジを獲得しなければいけないらしい。
私は汗を拭き、控え室を出た。外では、やはりというか、ダイドウジさんが満面の笑みで立っていた。
「ステージ、お疲れ様でした」
『期待には応えられたかしら』
「えぇ、充分に」
そんな会話をしながら、ダイドウジさんを先頭に大きなピッフルGO(予選の時よりはるかにデカイ)に乗り込む。周りはガラス張りで、よく見える。
「スタート位置を抽選制にした事と、コース設定を変えた事で、不正を企てたものが少しでも細工しづらくなるといいのですが」
『相手は短絡的に思えて、用意周到よ』
「そうですわね。少しでも不審な点があれば、全て報告を」
「「「「「はっ!」」」」
黒衣のお姉さん達が各位、敬礼で返す。
そろそろですわね、とダイドウジさんが漏らした事により、なにやら準備が始まった。ドラゴンフライフライレースが、そろそろ開幕らしい。
今回の開始の合図は投影型らしく、カメラのような機械のレンズ越しに、3秒前からダイドウさんの持っているパネルに映し出された。
『………!!』
強く、強く目を瞑って祈っていると、合図の音だけ聞こえる。3.2.1.0…!!!
〈3つのバッジをゲットして、目指せ!栄光のゴールへーーー!!〉
アナウンスの声により目を開けた時には、全てのドラゴンフライが飛び立っていた。
頑張れ…、頑張れ…と、呟く声はエンジン音で誰の耳にも届かない。
〈おおーーっと!最も有利な位置から飛んだ筈のウィング・エッグ号!!
早速、後続機に抜かれていますー!!!〉
『っ!!』
大丈夫だと、頭では分かっていても焦ってサクラを見てしまう。それは小狼も同じようで、チラチラとサクラの方を伺いつつ飛んでいる。しかし、サクラは全く焦った様子もなく、笑顔で飛んでいる。…よかった。
〈さぁ!その間に先頭はー!?
黒たん号だーー!本当に速い!!さすが予選第1位!!それに少し遅れて、デウカリオン1号、2号!ガルーダ号!ウィザード号!
さらに遅れて4機!ダンゴ状態だーーー!〉
『機体と乗り手が負けず嫌いなだけはあるわね』
新しいもの好きの負けず嫌いは、意外とドラゴンフライレースにノリノリだ。
〈さぁ!そろそろさしかかって参りました!建物、看板が密集した一般空路です!予選と違って本選はこの一般空路もコースの内!速さだけでは勝利は掴めません!!
障害物をどう避けるか、どうコース取りをするかも鍵となります!〉
そんな実況の声とは真逆に、黒鋼は己のドラゴンフライ機のデカさなんて無視し、看板にぶつかりながらも突き進む。馬鹿だろ、アイツ。真正面からではなく、ハネがぶつかる程度だったから墜落なんてしなかったものの、ちょっとは避けようとしろよ。公共物だぞ。
そんな黒鋼とは違い、ファイのツバメ号は同じような大きさだがスルスルと建物の間をすり抜けていく。まるで、ファイ本人のようだ。
〈物凄い操縦テクニックのツバメ号!一気に先頭グループに躍り出ましたーー!
さぁ!さっそく第一チェック
「なにも起こらなければ良いのですが…」
チェック地点には、大きな星マークのボールが浮いてあった。
中がやたらキラキラしているが、どうやったらバッジがもらえるのか。レース参加者も困惑しているようだ。
1位、2位の黒鋼とファイがなにやら言い合っているが、マイクには入っていない。痴話喧嘩が放送に乗らなくて本当によかった。
〈さぁ!あのボールの中に煌めいているのが第一チェック地点のバッジです!〉
ツバメ号がそのまま近づくと、ボールの表面が一気に剥がれ中のバッジが露わになる。ブワッと大量のバッジが宙を舞い、黒鋼達は咄嗟にバッジをゲット出来たようだ。
しかし、取り損なわれたバッジは落下し、元のボールの中へは戻らないシステムらしい。
つまり、下位になればなるほど、バッジは減り、不利になるということだろう。
『ただでさえ厳しい門なのに、さらに狭めていくとは…、鬼畜だ』
「これも不正対策ですわおほほほ」
現在はファイが1位、黒鋼が2位の首位独占状態だ。このまま何もなく行ってくれればいいのだが。
〈中盤グループが第一チェック地点に到着しました!モコナ号!NO.15からのスタートでしたが、追い上げてきております!〉
小狼は、サクラの指導のためにずっと操縦していたから着実に腕が上がっていたのだろう。中盤組とは、速い。
〈あーーっとここで一機バッジを取り逃がしたかー!チェック地点に接近してから一度開いたボールからバッジを取り損なった場合、一定時間強制停止となります!〉
『そんなペナルティまで…』
〈おおっと!フライングレディ号かなりボールに寄せてきましたーー!
先程のミスを見て、近づいた方が良いと判断したんでしょうか!余裕でバッジをキャッチ!さぁ!モコナ号最初のバッジをゲット出来るかーー!!〉
小狼のモコナ号がボールに近づいた、その瞬間。---ボールが、割れた。
先程のように近づいて、感知して、などではなく。割れた。
〈ボールが破裂しました!!こ、故障でしょうかーー!?〉
そんな都合のいい故障があるか。
誰かが、作為的に、故意に、細工したのだ。私の予選時の突風のように。
〈そして、モコナ号タイミングを逃した!
取り損ねたら一定時間の強制停止が待ってるぞ!!〉
小狼が機体から手を伸ばすが、勿論バッジには到底届かない。しかし、小狼の瞳はそんな事で陰ることはなかった。
〈……いきなり機体を回転させたー!?
長い翼でバッジをはじいてそれを…キャーーーーッチ!!お見事ォオ!!!〉
客席から歓声が沸き起こるのが目に見えるような操縦だった。さすが、小狼だ。
ほかの中盤組も何とかバッジを手に入れたようだが、バッジを保護していたボールは戻らない。キラキラと下に下にバッジは姿を失わせていく。
ピッフルGOの中は先程の破裂に対し、調査していたようで、黒衣のお姉さん達が確認したところ、やはり故障ではなく何者の干渉らしい。
『磁場ボールに干渉、ね…。開始前はあんな事にならなかったのよね?』
「はい、当然です。
レース開始後に何者かがボールに仕掛けが出来るのは…」
「本選出場者だけかと」
「社長!レースは…!」
黒衣のお姉さん達から、レースの安全性を考えても中止すべきではと提言されるが、ダイドウジさんは顔色を変えず“続行”を宣言する。
『ダイドウジさん…』
「大丈夫です。
コースの監視員を増やしてください」
「はっ!」
モニターに映るサクラを二人で眺める。ここでは力になることも、助言もできない。ただ、祈るのみだ。
「サクラちゃん…、頑張って」
『待つのは、辛いわね…』
〈さぁ!終盤チームが第一チェック地点にやってきたー!!だが、引っかかっていたバッジがまた落ちたーー!まだ四機残っていますがーー!?〉
はらはらと落ちていったバッジを見届け、チェック地点に残っているバッジは、目視できるものでもあと、二個。
先行していたドラゴンフライが一つ取っていき、あと一個。
後ろにも二機いる中、サクラがバッジへ手を伸ばす。けれど-----
「あっ!!」
『落ちた…!!』
〈ウィング・エッグ号、ここまでかーー!?〉
サクラは焦った様子もなく、ウィング・エッグ号を急降下させていく真下へと迷わずに進む。
ビルの合間を縫い、バッジへ必死に手を伸ばす。あと少し、あと少しで手が届く。
けれど、指で弾いてしまい、サクラの手からこぼれ落ちる。
『っ!!』
-----しかし、弾かれたそれは何かの吸引力に従い、サクラの元へと、…いや、モコナの元へと向かう。そしてすぐにモコナの口に収納され、サクラの腕のバッジケースへ収まる。
『……あ、あれは、アリなのかしら…?』
「超絶アリですわ♡」
〈間一髪!地面へ落下することもなく、バッジをゲット出来たようですーー!!!
と言うことで、バッジがなくなってしまった為、19位、20位は失格となります!!〉
息を一つ、つく暇もなく。レースは中盤へと差し掛かる。
(干渉者)