阪神共和国
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
燦々と朝の陽の光がわたしの肌を焼くように暑い。空汰さんの出勤と同じくして私たちも本来のオシゴトを始動することと相成りました。
「つーわけで、部屋ん中でじっとしとってもしゃあない。サクラちゃんの記憶の羽根を早よ探すためにも、この辺探索してみいや」
「はーい!」
「はーい!」
「はい」
「『……』」
なんだかテンションが2分割されてる気がする。高い方はモコナとファイで、低いのは言わずもがな黒鋼と私だ。中間の小狼は真顔。
「おっと!わいはそろそろ出かける時間や。
歩いてみたら、昨日言うとった巧断が何かもちゃんと分かるはずやで」
「はい」
小狼は空汰さんの説明をしっかり聞い多様に見えて、正直心ここに在らずといった感じだ。たぶん眠ったままのサクラを置いて行くことが気がかりなのだろう。それを察した嵐さんが、私が側にいますからと小狼を少し安心させた。
私もあの人お嫁さんに欲しい。
「…その白いのも連れて行くのかよ」
「白いのじゃないーモコナーー!」
「来んな!!」
『仲良しね、よかったじゃない』
「仲良くねぇよ!!」
「まぁ、モコナ連れていかな羽根が近くにあっても分からんからな。大丈夫、だーれもモコナを咎めたりはせん。ちゅーかこの世界ではありがちな光景やからな」
空汰さんの説明を受けた小狼は頭の上にハテナを出していたが、空汰さんはそれ以上なにも言わなかった。つまり、そこも歩いてみたら何か分かるってことだろう。
「うし!んじゃあこれ!」
空汰さんが手に持っていたのは、カエルのがま口財布だった。…某忍者漫画の主人公が頭にチラついた…って、これを口に出したところで分かってくれる人なんていないから、心の底に閉まっとくってばよ。
「なんですかー?それー」
「財布や。お昼ご飯代入ってるさかい、四人で仲良う食べや」
「なんでそのガキに渡すんだよ」
「一番しっかりしてそうやから!」
「どういう意味だよ!!」
流石に今のは黒鋼に同意する。全くもって心外な言葉だ。この細い白いのとデカい黒いのは分かるけれど、私が選ばれないなんて。いや、この中で(見た目が)一番年下ではあるけれど、これでも人生二週目、しっかりしてる自信があったのにっ…!!
閑話休題。
空汰さんの助言に従い出発して少し。町並みや建物の外観が私の知っている“大阪”とほぼ変わらない様子だった。
なんだか昔テレビでよくインタビューしてた橋も、ポーズが独特な大きな看板も、動く蟹の看板もある。懐かしすぎて思わずぼーっと眺めてしまった。
「メイリンちゃん、こういうの珍しいー?」
『…いや、私の世界でも行くとこに行けば似たような景色があったわ』
「へぇー、小狼君はこういうの見たことあるー?」
「ないです」
「黒たんはーー?」
「ねぇよ!!んでもって妙な呼び方するな!」
この人は、本当に所構わず人を(主に黒鋼を)馬鹿にするのが習性なのかな?いや、これも所謂“線引き”ってことなのか。思考を遮る様に、八百屋のおじさんが大きな声を張り上げた。
「お、嬢ちゃん可愛いなぁ!どうだい、リンゴ買っていかねぇかい!?」
『?…、私?』
まさか、自分が声をかけられるとは思ってなかったので驚いて声が裏返った。きょろきょろと視線で前の三人に助けを求めると、思いの外小狼がそれに興味を持って、おじさんの方へと近寄っていった。
「それ、リンゴですか?」
「これがリンゴ以外の何だっちゅうんだ!」
「小狼君の世界じゃこういうのじゃなかったのー?」
「はい、形はこうなんですけど色がもっと薄い黄色で…」
すると、興味を持ったのかファイも黒鋼もぞくぞくとその会話に混じっていった。
「そりゃ梨だろ」
『えぇ、梨もリンゴも美味いわ』
「いえ、ナシはもっと赤くてヘタが上にあって…」
「それラキの実でしょー?」
『トマトかイチゴじゃないの? むしろラキの実ってなに?』
こういうのを何て言うんだろう、ジェネレーションギャップ? いや、でも年齢差の問題じゃなくて各世界の生態や文化の問題だしなぁ…。段々こんがらがってきた会話におじさんがシビレを切らした。
「で、いるのか!いらんのか!?」
「いるーーー!」
鶴の一声、もといモコナの一答えで事態はまるく収まった。人数分のリンゴを購入すると、橋の隅でおやつ休憩と(私が勝手に)称し食べる。うん、蜜たっぷりで美味しい。
「おいしいねーリンゴ」
「はい」
「けど、ほんとに全然違う文化圏から来たんだねぇオレたち。あ、でも、黒ぽんとメイリンちゃんは微妙に似てるのかなー?果物的な意味で」
『そうなんじゃない? 果物的な意味で』
「なんだよその果物的な意味って!!」
黒鋼の国は日本って言う程だし、似通ってる部分は多いのだろう。私も香港より、日本の方が食べ物や文化が好きだったし。
「そう言えばまだ聞いてなかったね。小狼君はどうやってあの次元の魔女のところへ来たのかなー」
「おれのいた国の神官様に送って頂いたんです」
「すごいねー、その神官さん。一人でも大変なのに、二人も異世界へ同時に送るなんて。で、黒りんはー?」
「だからそれやめろ!…うちの国の姫に飛ばされたんだよ!無理矢理!!」
「悪いことして叱られたんだー?」
「しかられんぼだー!」
『見るからにヤンチャしてました、みたいな顔だものね黒鋼って』
「うるせーっての!!てめぇこそどうなんだよ!」
「オレ? オレは自分であそこへ行ったんだよー」
「あぁ!? だったらあの魔女頼るこたねぇじゃねぇか。自分でなんとか出来るだろ」
「えへへー無理だよー。オレの魔力総動員しても一回他の世界へ渡るだけで精一杯だもん」
魔力云々の話は本当に分からないけれど、“知ってる”から分かる。今のファイの顔は、嘘つきの顔だ。へらりと笑って周りを誤魔化して、嘘は吐いてないなんて自分も誤魔化す、嘘つきの表情。
「えっと、メイリンさんは、どうやって来たんですか?」
『…私は、性悪糞眼鏡に上手いこと乗せられたの!よくよく考えたら対価すらもらってないんだから搾取よね!?やりがい搾取!それに、あの次元の魔女に会った記憶もないしっ』
「あはは、メイリンちゃん着いた途端ぐっすりだったもんねー。
小狼君を送った人も黒ちんを送った人も、もちろんメイリンちゃんを送った人も物凄い魔力の持ち主だよ。…でも、持てる全て力を使っても、おそらく異世界へ誰かを渡せるのは一度きり。だから、神官さんは魔女さんのところに送ったんだよ。
サクラちゃんの記憶の羽根を取り戻すためには、いろんな世界を渡り歩くしかない。それが今できるのは、あの次元の魔女だけだから」
私を送った元クロウリードだって凄い魔力の持ち主だ。けれど、元は所詮“元”。
今あの世界の一番魔力の強い魔術師と言えば、〈木之本桜〉だけれど、木之本さんだってまだ未熟者。
そして次元の魔女は“その為”にいる様なもの。羽根の為に、旅の為に。彼を旅立たせる為に。
艶やかに赤いりんごをかじった白い跡をぼーっと眺めながら巡る思考を停止させたのは突如響いた警報のように甲高い悲鳴だった。ザワザワと蠢く民衆が視線を向ける方を見ると、そこには揃いのゴーグルを付けた集団と、これまた揃いの帽子を被った集団が相対するようにそこに居た。
「またナワバリ争いだー!」
「このヤロー!特級の巧断憑けてるからっていい気になってんじゃねーぞ!」
巧断。その言葉に脳裏にちらりと夢で出て来た蝶々がひらりと浮かび上がる。なんだろう、ピリピリと頭が痛む。けれどそんなことは関係なく、リーダーと見られるゴーグル集団の一人が手を上げると、それを合図にゴーグルの人達は何かを出して帽子の人たちと抗争を始めた。
「あれが巧断か」
「モコナが歩いてても驚かれないわけだねーー」
「ずっと人の頭とか肩に乗ってるだけだけだったからね」
抗争は均衡が保たれているようで、しかし、流れ弾が町の人たちへ明らかな被害を出していた。ーーその時、先ほどのゴーグル方のリーダーの人が狙われた。けれどリーダーの人は誰よりも大きな巧断を出してそれを撃破。
しかし、リーダーの人の巧断が水を使うものだったので二次被害で道が思いの外滑りやすくなり、男の子が二人逃げ遅れていた。なんの因果かそこへ看板が落下する。私が危ないと思った時には、もう小狼がそこへ飛び込んでいた。
なにをやっているんだあの子は。どこの世界でも正義感が強くていらっしゃる。
『小狼!!』
正直展開は“知っている”。
けれど、どうにも慣れないこういう場面に思わず目をきゅっと瞑ってしまう。次の瞬間、轟々と炎が燃え盛るような音に反射的に目を大きく開けて見ると。そこにはもう帽子軍団とゴーグル軍団の図はなく。いつの間にか、ゴーグルのリーダーと小狼が相対する図になっていた。
「お前の巧断も特級らしいな」
リーダーの人の巧断という言葉に、また頭がピリピリと痛んだ。
(脳裏をかすめるのは黄金の蝶)