ピッフル国
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ちゃんと本選出場祝賀会はやった。少し暗い雰囲気は拭いきれなかったが、モコナが気を利かせて(自分が呑みたかっただけだが)サクラの飲み物にお酒を盛った所為で、再び酒乱騒ぎになってしまったが。
騒ぎの果てにウィング・エッグ号がまた壊れたのは、とてつもなく痛い。酔いどれサクラを黒鋼パパが捕まえてなんとか落ち着き、サクラとモコナはそのまま寝落ちてしまい、やれやれといったところだろう。
「ったく、酔っ払いのくせに何でこんなすばしっこいんだ。おまけに前より酔うの早いんじゃねぇのか」
「メイリンちゃんが心配だったのもあるし、予選通過したの嬉しかったんだと思うよ。だから早めに酔っちゃったんじゃないかなぁ?
サクラちゃん、メイリンちゃんの分もって一生懸命だったし」
『ごめんて』
「寝るぞ俺ぁ」
「そうだねぇ、本選に備えてドラゴンフライの整備もしないと」
そうだ、私のウミツキ号はバラバラに壊れてしまったけれど、他の機体は整備が必要なんだ。そうと決まれば早速整備と修繕を、とドラゴンフライの機体に向かう。
『おやすみなさい、小狼』
「はい」
スタスタと歩いていると、先に出て行ったはずの黒鋼が待ち伏せしていた。奴に構わずにずんずんと進むと、腕を力一杯引かれ傷口が開きそうになる。思わず眉を歪ませると、大きな手は離された。
「そんな怪我で無茶すんな」
『さすが、黒鋼パパお見通しね』
「うるせぇ!パパとか言うな!!
……俺にゃあ関係ねぇが、お前が無茶すれば周りが傷付く。姫や白まんじゅうや、あの魔術師がな。そいつには気づいてんだろ?」
『……まぁ、そうね。気づいてるわよ。気づいててやってる、ひどい女なの。
無茶も無理も無謀も、あなた達について行く為ならなんだってやる』
あなた達についていく。傲慢だろうと、分不相応だろうと、これは私の意思だ。無茶も無謀もして、やっとあなた達と同じ場所に立てる。
黒鋼の通せんぼをたたん、と勢いよく交わして外へ出る。
『黒鋼の黒たん号にでかでかとくまさん描いて大作にしてやるんだから!本選でカメラにすっぱ抜かれるがいいわ!』
「描くな!!!」
ーーーーーー
朝日が窓に差し込む。シャワーも浴びて、さっぱりした後に、クローゼットを覗いた。
襟と袖先にフリルがあしらわれているブラウスに、ハイウェストのプリーツスカート。耳より高い位置での二つ結びで赤いリボンもつける。足元も気をつけて、可愛さ重視の靴下に少しヒールがある靴を履くの。
頭からつま先まで全身装備して、完璧可愛い私を作る。ーーーー今日は勝負の日だ。
羽根のチャームがついてある小さなショルダーバッグを手にとって自室から出ると、ファイと黒鋼が優雅にテレビを見ていた。流れているのはドラゴンフライで一位になった黒鋼のインタビューだ。
『おはよう、小狼達も出かけたのね』
「おっはよー。わー!黒様かっこいいー。テレビ観てる人は黒たんが子持ちだとは知らないんだろうねぇ」
『え、黒鋼子持ちなの? それは知らなかったわ』
「お前らいきぴったりか!! って、小娘もどっか出かけんのか」
黒鋼は私の格好を見て、そう思ったみたいだ。概ね正解だが。テレビの前で仁王立ちして、勝ち誇った顔をする。
『えぇ、ファイと二人でショッピングよ』
「……えっとー、ずいぶんオシャレさんだねメイリンちゃん」
『ダイドウジさんから服を頂いたの。女のオシャレは武装よ、武装。
さ、小狼達が帰ってくるまでには帰らないと行けないんだからさっさと行くわよ!』
今日は勝負の日。賭けに勝つか、負けて肩透かしを食らうか。それとも…。
ファイの手を取り、トレーラーから出る。戸惑うファイにはデートと言っているから尚更だろう。
ショッピングモールへ連れ出して、ウィンドウショッピングを嗜む。家族連れやカップルが視界いっぱいに居て、なんだか場違いのようではあるが。
「なーんか、人いっぱいだねー」
『そうね、みんな幸せそう…』
李の家族で、こんなところきたこともないし、恋人なんて以ての外だ。羨ましい、というより別世界を見ている気分。ぼーっとしていると、ファイが私の手を取る。
「今日はデート、なんでしょ?
だったらオレ達もああ見えててもおかしくないねぇ。それに、今日のメイリンちゃんとっても可愛いしー」
『そ、そうかしら…』
「うん、本当に可愛い。…ちゃんと、区切りをつけるつもりなのに、どんどん線が緩くなってしまうくらい。本当に、可愛い」
『ファイ…?』
区切り。線引き。あちらとこちらを分け隔てる、線。それは、何の線だろう?
この人の考えていることは難しい。難しすぎて、全て投げ出させたくなってしまう。それは、側から見たら私も同じかもしれないが。
ファイのサファイアブルーの瞳と、目が合わない。あえて、合わさないようにされてるような。
そんな時、あーー!!と大きな声が近くから聞こえる。なんだ?と思い、振り向くと、複数の学生さんが私たちを指差していた。
「あの、あの、ドラゴンフライレースに出てた方達ですよね!?」
「本物!本物だわ!」
「かっこいい…!お写真いいですか!?」
わらわらといつの間にか囲まれてしまい、ファイから手が離れてしまった。名残惜しい気持ちが心を満たす。
「わーー、ありがとーーー」
「「きゃぁあ!かっこいーぃ!」」
『…………』
いや、へらへらしすぎじゃない?? 何よ、私に可愛いって、さっきまであんな辛そうな表情で言ってたくせに!好きって一回言ったくせに!! 若い(外見年齢は私より上の)女の子達に囲まれてへらへらしてるファイに、イライラしてしまう。別に嫉妬とかじゃないけど。
私も数人、同じような年齢の男女に囲まれている。口々に放たれるのは、もちろん昨日の敗退の件だ。
「昨日は惜しかったですね!」
「俺、会場で見てました!!!」
『ありがとうございます』
「ウミツキ号、ご自分で作られたんですよね!?」
『ええ、オリジナルでカスタムしました』
「なんで、あれだけの事故でまだ生きてるんですか?アレで死んでれば、後々楽だったのに」
『……ッッ!??!?』
後ろから聞こえた薄暗い声に、思わず飛び退いた。ーーーーー今のは、紛れもなく殺気だ。
囲まれて視界が狭まっていたのもあって、誰が行ったものか分からないが。確実に、捉えた。
『……やっぱり居た。私を故意に事故らせて、不正を働いている奴』
冷や汗が背中を流れて気持ち悪い。買い物は、どうやら中止のようだ。ファイを連れて、早くここから脱出しよう。
今日の勝負は、---ーー私達の勝ちだ。
(無茶も無理も無謀も、)