ピッフル国
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ふと目を覚ますと知らない天井が広がっていた。辺りは一面の白で、清潔感と虚無感しかない。私は、一体…?とズキズキと痛む頭で考えていると、扉からダイドウジさんとボディーガードのお姉さん達がズラリと現れた。
「お目覚めのようですね、メイリンさん」
『は、はい…。あの、此処はドコなの?』
「此処は我が社が経営する病院です。
……しかし、ウミツキ号は残念でしたわね」
伏せ目がちに言われた言葉で、私は先ほどの出来事を全て走馬灯のように思い出した。
『レースは…!レースはどうなりましたか!?』
「サクラさんは20位でゴールなされました。ですのでお仲間の皆さま全員、無事本選へ出場なされますわよ」
『……よ、よかったぁ…』
へなへなと緊張の糸が切れたように腕の力が抜けた。しかし、本題はここからだと言うように、ダイドウジさんはキリッとした顔つきになる。
「メイリンさんのウミツキ号を確認させてもらったところ、あのドラゴンフライは過剰なまでに熱を持っておりました。おそらく過度なスピードでずっと飛んでいたのが原因でしょう。
けれど映像を改めて見ても、あの時エンジンを切り、気流に乗っていた。本選出場の20位に入りきらなかったとしても、ゴールは出来たはずですわ」
『……あの時、』
ダイドウジさんが言うようにスピードを上げることに必死だったから、オーバーヒート状態だった。だから風に乗って、出来るところまで運んでもらおうと…。
『追い風だった気流が、いきなり向かい風の突風になって…』
「やはり、そうでしたか…。
このレース、不正が行われた可能性があります。メイリンさん、不正を行った者を暴くお手伝いをして頂けませんか?」
不正、があった。それは認めざるを得ないだろう。突然私を襲った、理不尽な風。そしてダイドウジさんに聞いてみると、他の爆発した機体からは微粒子レベルの不純物がエンジン内に入り込んでいたようだ。
『…不正で、私の機体はぶっ潰されたってこと?不正で、サクラ達のチャンスを一つ潰されたってこと…?上等じゃない』
「へ?」
『やってやるわ!!その馬鹿野郎の退治!
私の血と汗と経済力の結晶たるウミツキ号を粉々にしてくれたお礼っ、きっちり右頬と鳩尾にかましてやるわ!!』
「あらあらあら」
ダイドウジさんにはダイドウジさんの裏の理由がありそうではあったが、私はその提案に乗ることにした。そしてその作戦の大まかな内容を聞きた。正直、そんなもので現れるのか不安だったが、ゆったりとした笑顔で「大丈夫ですわ!絶対可愛い仕上がりにしてみせます!」と熱弁で返され、もうどうとでもなれという感じである。
「それでは作戦決行は後日、ですわね」
『分かったわ。よろしくね、共犯者さん』
「よろしくお願いしますわ」
ーーーーーーーー
あの後、私達の宿のトレーラーまで、ダイドウジさんのボディーガードのお姉さんが車で送ってくれた。
傷の手当てとして頭や腕に巻かれていた包帯は、取ってもらった。ダイドウジさんの作戦に基づく理由と、サクラ達を心配させたくなくて。帰宅すると案の定暗い雰囲気だった。
『ただいまー…』
「「メイリンちゃん!!」」
「メイリンーー!!」
「怪我は大丈夫ですか?」
不安と焦りと何かが入り混じった表情で、皆私を出迎えてくれた。居た堪れないにも程がある。ふぅ、と深呼吸を一つ。優しい嘘をつく。
『大丈夫大丈夫!怪我自体かすり傷だけだったし、後はダイドウジさんとお話があったからこんな時間になっちゃったの!
心配させてごめんなさいね、ありがとう』
「メイリンちゃん…」
『サクラ、本選出場おめでとう。すごく、すごく嬉しいわ』
無理やり手を伸ばして、サクラの頭を撫でる。すると不安が溶け出したように、目尻に涙を溜めながら笑顔になってくれた。
サクラが笑うと、皆がほころぶ。それを利用してないと言えば嘘になるが、この言葉は本心だった。
ある一部を除いて場が和んだのを見計らい、笑顔を作る。
『さて!パーティーしましょ!』
「あぁ?」
「パーティー、ですか?」
『えぇ!5人中4人も本選に出れるのよ?今夜はお祝いしましょっ』
「でもメイリン、お怪我は大丈夫なの?」
『だいじょーぶだって!ほらっ、モコナもお料理のお手伝いして?』
わかったー!といい返事がモコナから返ってくる前に、私の服の袖をファイがぎゅっと握り、俯いている。なんだ?と思い覗き込むが、急に仮面のような笑顔でこちらを見下ろしてくる。
「いーねぇ、パーティー。オレもお料理手伝うよーー。モコナは飲み物お願いねー。黒ぽんぽこは出来たの運んでねー。
小狼君とサクラちゃんはテラスのお片付けで、よろしくー」
『お、おぅ…』
いつもの調子だが、間延びした口調はいつもより早く、感情がのっていない。無理やりキッチン担当を私とファイにされ、何故か二人きりになっていた。
未だに袖を離してくれないファイに、どうしたものかと困っていると、上から棘のような言葉が降り注ぐ。
「……メイリンちゃん。オレや黒様にバレないと思ったの?腕と足、それから頭にこんな大きな傷作って。それで大丈夫だって?」
『…やっぱりバレてたのね。だって、包帯ぐるぐる巻きで帰ってきたら、サクラ達が心配するでしょ?』
「……やっぱりバカだよねぇ、メイリンちゃん」
『あら、喧嘩売ってるのかしら?』
ファイを睨むと正面からぎゅっと優しく抱きしめられた。傷に障るといけないから、優しく優しく。顔色や瞳は見えないが、不安で陰っていることは分かる。
この男はいつもそうだ。自分で突き放しておいて、私が一人で立とうとするとこうやって遠くに行かないでと言うように縋ってくる。
私も私で鬱陶しいと振り払えばいいのに、惚れた弱みでそれも出来ない。分かってやられている。
『…心配させてごめんなさい』
「……ごめんより、他の言葉が聞きたい」
『っふふ、我儘ね。心配してくれて、ありがとう』
「どーいたしまして」
『ありがとうついでに、明日私とデートと洒落込みましょ』
「え?」
やっとこちらを向いたかと思えば、ファイは蒼い目をビー玉みたいに丸くさせていた。
ファイのこんな顔初めてで、また笑みがこぼれてしまう。
さっと絡まっていた手を解き、少し赤くなっているファイを見つめる。なんか勝った気分だ。
「デートって、」
『お買い物して、お茶するの。アクセサリーやお菓子、お洋服も見たいわ。いいでしょ?』
「…メイリンちゃんも中々ワガママだよねぇ」
『知らないの? 女の子はみーんな等しく、甘くて可愛くて棘があるのよ』
ふふん、と勝ち誇ったように笑い、二人でキッチンに向き合う。
(ごめんねじゃなくて)