ピッフル国
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〈さぁ!!豪華賞品を手に入れるのは一体誰なのか!?ドラゴンフライ達、綺麗に飛び立ちま…!!〉
実況の声が止まり、なんだなんだと見渡せば周りから遅れてへろへろと不安定に飛び回るサクラの姿が見えた。思わずそちらに行くと、小狼も駆けつけている。
〈早速一機失格かーーー!?〉
「姫!」
『サクラ!!』
思うように操作できないのか、サクラの頭の上で大はしゃぎなモコナに気を取られているのか、持ち直すことが出来ていない。
仕方ない、とウィング・エッグ号の下に周り、機体を持ち上げる。
「メイリンちゃん!?危ないよ!」
『平気よ、
「っ、はい!」
ちなみに空気抵抗も少ないようにしてあるので、気流に乗りやすい。小狼の指導のもと、サクラは徐々に体勢を整えつつあった。
〈おっっと!初エントリーのウミツキ号のおかけがか持ち直しましたーー!!
しかし、あの機体はなんだー!?後ろのひらひらも相まって、まるでクラゲだーー!!〉
ウォォオオ!!と歓声の上がる中、三機は颯爽と風を切る。するともう少し上の高度からゴウンゴウンと、ドラゴンフライ用の機体の音じゃないものが聞こえ、思わず振り向くとあのゆるーいピッフル・プリンセス社のマークと同じキャラクターに乗ったダイドウジさんが、こちらにカメラを向けていた。
「素晴らしいチームプレイですわーーー!」
「「わ!」」
『……すんごい体勢』
颯爽、と言うかなんと言うか。私の思い描いた体勢でにこやかにカメラを向けるダイドウジさんに乾いた笑みしかでなかった。
「あ、あの…乗り出すと危ない…!」
「大丈夫っ!この〈ピッフルGO〉には様々な安全装置が装備されていますから!!」
『さ、さっすがーー…』
「でも、可愛いうえにお優しいんですね」
レース中だというのに、なんだか和やかな空気が流れる。懐かしい、これがふんわりしてると云われる所以だ。しかし気が緩んだサクラの機体はグラリと傾き、また落ちていった。
「きゃーーーーーーー!」
「姫ーーーー!!」
『もう!不器用なんだからーー!!』
「あぁ!!お邪魔してしまいましたわー!」
あたりの機体がもう近くにいなくなっても、サクラのことをハラハラと心配してしまう。
私の倍以上、小狼はハラハラしているようで、ウィング・エッグ号より先行してはいるがチラチラと後ろを気にしている。
「小狼君!メイリンちゃん!先に行って!!」
「えっ!?」
『でも、サクラ…』
「いいの!力いっぱい飛んで!
わたしも、精一杯頑張るから!!」
…そうだ。手加減されたり、必要以上に心配されるとか、そういうのはムカつく。サクラは優しい子だからそんなこと言わないけど、自分のことを気にせず精一杯やってほしいんだろう。サクラの笑顔を受け取り、小狼と私はエンジンを入れ直した。
『絶対、追いかけて来なさいよ!!』
「ゴールで待ってます!」
「うん!」
前を走るドラゴンフライ機を追っていると、いつのまにか小狼も居なくなっていた。
このウミツキ号は、私の為だけにカスタムしたもので他よりスピードが出るようにした。
もうそろそろ、トップあたりにまで来ただろうかと思っていると、突然前からドラゴンフライ機の破片が飛んできた。
『よっ、と』
〈ウミツキ号!後ろのひらひらを自在に操り流れてきた破片を避けている!!まさに空を漂うクラゲだーー!!〉
後ろの触手は飾りじゃない。二本だけだが私自身で動かせるようにしてある。先端にも吸盤をくっつけているからこう行った場面でもお役立ちである。
〈突風です!!ドラゴンフライの機体を!突風が襲ってます!
ドラゴンフライは非常に軽量です!その為、風の影響を受けやすい!避け切れるかーー!!〉
『……そこね!』
タイミングよくひらひらした触手で機体をうえに持ち上げ、突風を避ける。おー!!とまた歓声が上がる。こんな所で役立つとは思ってなかったが、拳法で習った気の巡りは、風の巡りと読み方は一緒なのだ。
小狼も上手く避け切れたようでほっと息を吐く。
『さっすが!上手い!』
サクラは大丈夫だろうか。ちらりと後ろを見ると、丸みを帯びた可愛らしいあの子の機体が見えた。サクラは知っていたように、勢いよく来る風の帯をくるりと華麗に避ける。
さっきまでよろよろだった乗り手とは思えないほどに。
『かっこいいじゃない。…負けてられないわね!』
ぎゅっと、ハンドルを握り直す。
すると前方にいるピッフルGOに、空飛ぶスポットライトがあたり、ダイドウジさんが華々しく手を掲げている。
〈おお!知世社長にスポットが!?
これは!今回の優勝賞品、充電電池だー!
あの光の指し示す塔が予選のゴールだぁ!さあ!あの電池は一体誰の手にー!?〉
羽根が指し示す塔が、今回のゴールだそうだ。あそこに、20位までに。
手を伸ばせば、すぐそこに羽根がある。
〈盛り上がって参りました!ドラゴンフライレース!!充電電池は一体誰の手にー!?
そして、我らが知世=ダイドウジ嬢が手にしているのがこの町の殆どの電力を賄えるという噂の充電電池!!〉
「の、模造品ですわ♡」
『まぁ、そう来るわよねー…』
これだけの集客がある程の品だ。
こんないつ誰が悪さをするか分からないレース中に、本物を取り出すような真似はしないだろう。本物はピッフル・プリンセス社が保管してあるらしい。
模造品でもああ行った芸当ができるのだ。本物はどれほどなのか。ゴールが見えてきた為に、皆一斉にスピードを上げる。
〈更にスピードを上げる先頭集団!それぞれ見事にドラゴンフライを操っています!って、いきなり後ろからぶっちぎりだー!
強引に飛び出したのは黒たん号ー!!〉
「その名前はやめろ!!!」
黒鋼の怒号が風に乗って聞こえてくる。思わず笑ってしまった。続いて、ファイのツバメ号もトップに躍り出ているようだ。
私も負けてられない。ぐいっと更に加速させる。
〈さて!中盤はどうだーー!?
おおっと、あれは!?モコナ号にウミツキ号だーー!!!〉
ゴゴゴォォオと唸りを上げて加速するウミツキ号が、そろそろ熱を持ち始めている。
調子に乗って、加速を繰り返していた為、オーバーヒート寸前なのだろう。はやく、ゴールしないと。
〈そろそろ先頭集団はーー!!
ゴーーールです!!今、5位まで決まりました!!!〉
黒鋼、ファイは先頭。しかも本当に1、2フィニッシュだったようだ。
先頭もそこに一足遅れをとっていた集団も、ほぼ団子状だったのだろう。続々と決まっていき、カウントダウンが始まる。焦燥感に包まれながら、あと半分だとアナウンスが入った。
ハンドルを握る手が、熱い。
すると、後ろから横からと機体が破裂する音が聞こえる。
〈おおっと!どうしたーー!?調整に不備があったかーーー!?〉
私のウミツキ号も同じようで、エンジン音が知らない音を立てている。これは調整の不備なんかじゃない…!!
前からくる機体の破片を避けながらもなんとか飛行しているが、オーバーヒートしているのも合わせて、ゴールまで保ちそうもない。
〈11人目が入ったー!!〉
その言葉にモニターを見てみると、小狼のモコナ号が入れたようだ。よかった…。
辺りが煙でいっぱいになった。もう、ゴールは薄っすらとしか目視できない。ぷす、ぷす、と音を立てて壊れ始めるウミツキ号に、顳顬から冷や汗が垂れる。
ゆっくりと追い風の気流に乗り、エンジンを使わないように前へ進む。ゴールが見えてきてーーーーー突然突風が私を襲った。
『えっ!?』
ガシャガシャと風圧によって壊れるウミツキ号の機体を傍目に、私の体は海へ向かって落ちていく。
〈おっと!斬新なドラゴンフライに応援の声も熱かったウミツキ号!!なんと突風に機体を壊されてしまい海へ落下ーー!〉
「メイリンちゃん!!」
私の名前を呼ぶ誰かの声を聞きながら、意識はブラックアウトした。
(手を伸ばせば、)