ピッフル国
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普通自動車に乗る私たち。その後ろを大名行列の様に何台もの車と、ゆるい顔が書かれているトレーラーを引き連れて帰宅した。
そんな光景を目の当たりにした小狼はすごく驚いている様だった。分かる、私もびっくりだよ。なんだこの規格外。
黒衣のお姉さん、もとい大道寺さんのボディーガードさん達をずらりと並べ、当の本人はサクラと黒鋼とテラスで待っていらっしゃる。やることなす事デカイな、さすがだ。
私も同じく椅子に座っていると、ファイとモコナと小狼がアイスティーを人数分持ってきてくれた。
「お待たせーー」
「アイスティーなの。モコナも手伝ったの」
「まぁ、それは素晴らしいですわ。
それにしても、これ程精巧なロボットが作られるなんて。あなた方の国はとても科学水準が高いんですね」
『あ、はは…』
モコナはあの嫌味な二人が、ありったけの悪ふざけを込めた魔法具だから、科学水準は関係ない。むしろ、このピッフル国が過去最高で科学の発達を遂げている。素晴らしい。
しかし、そんな心の声が聞こえるわけもなく、大道寺さんはモコナをうちの会社でも作ってみたいといい、握手を交わしていた。
「改めてご挨拶を。
わたくし、〈ピッフル・プリンセス社〉の社長、知世=ダイドウジと申します」
『大道寺じゃなくて、ダイドウジなんだ…』
「社長さんだー!一番偉い人なんだーすごいねーー!」
「ひょっとして、〈ピッフル・プリンセス社〉って、あのレースの」
「ええ、我が社が主催しております。
せっかくの〈ドラゴンフライ〉のレース!そして豪華賞品!!
スタートから最後にチェッカーフラグが振られるその瞬間まで!その全てを収めたい!
その為には!!レースに出てくれるヒロインが必要なんですわーーー♡」
全力フルスロットルの語り、興奮気味な早口、そしてサクラの手を取る。まさに、私の知る大道寺知世と瓜二つだった。
他の皆はそんな事つゆ知らず、黒鋼なんて開いた口が塞がらないという感じだ。
ダイドウジさんのサクラがどんな感じで飛ぶのか見たい、という一言でサクラは早速専用の機体に乗り込みエンジンをかける。サクラの機体は可愛らしい丸みと操作性の簡単さを重視して作られている機体で、重さもあまりない。ノーマルタイプと言ったところだろう。
バッ!と機体を浮かせ、風にスカーフがなびく。その姿に、一同は感嘆の声を上げる。
その瞬間、ぷすんっぷすんっとガスの抜ける様な音と共に傾きだして、機体はへろへろと落ちていく。
「サ、サクラ姫ーーーーっ」
「サクラちゃん、大丈夫かなぁー」
『安定のコケっぷりね…』
「そこもまたかわいいですわ♡」
ーーーーーーーー
ダイドウジさんも帰り、日も暮れた後。
サクラは小狼に習ってドラゴンフライの操縦の練習をしている。その様子を、黒鋼とファイと私は中から覗いていた。
「あはは、微笑ましいねぇ」
『覗きは趣味じゃないけどね。機体壊れたら直さないといけないし』
「まさかメイリンちゃんに、そんな特技があるとはねーー」
「不器用そうなのにな」
『機械をいじるタイミングが、あんまりなかっただけよ』
ゆったりと座っているとカシュッと缶のプルタブを開け、ファイは私にジュースを、黒鋼には新しいお酒の瓶を渡していた。気配り上手め…。口をつけていると、ファイは今日の黒鋼の様子について話す。
「知世ちゃん、黒たんの国のお姫様にそっくりだったんでしょ?名前も一緒ー。
いっつも以上に喋らないのに、やっぱり知世ちゃんのこと意識してて面白かったよーー♡」
『…やめなさいよ』
「でも、結構会うもんだねぇ。姿は同じでも、同じじゃない人に。日本国の知世姫もあんな感じだったの?」
「…おまえは、まだ会ってねぇようだな。
逃げ続けなきゃならねぇ理由と」
黒鋼の言葉に、ファイの表情が揺らぐ。
「同じ顔でも、同じ奴とは限らねぇけどな」
「……分かるよ。ただ同じ顔をしているだけなのか、それともあの人なのか。オレには分かる」
冷たい、突き刺すような瞳でファイは語る。
この人が何を置いても向き合わなければならない理由を。
ファイは“壁”を作るように、にへらと笑う。
「君に知世姫が分かるようにー」
この笑顔は、気分が悪い。さっさとこの場から去ろう、と私が席を立つと、きゃーーと楽しげなのとそうじゃない悲鳴がこちらに近づいてきて、大きな衝突音と地震のような揺れが襲ってきた。
『きゃっ』
「メイリンちゃんっ!」
ぐらりと背中から倒れそうになった私の腕をファイが掴み、思わず胸元に顔を埋める体制になった。なんとか頭から床に転けることはなかったが、抱きしめられる体制になったことにびっくりする。
「…ごめんねぇ、大丈夫だった?」
『………えぇ、ありがとう』
気分の悪い笑顔の仮面で、笑いかける。反吐が出そうだ。この人は、本当に笑うときっと、すごく綺麗なのに。
ぱっと手を振りほどき、サクラの機体を見に行く。
「ごめんなさい〜〜〜〜!!」
『まったく、怪我はないんでしょうね?
直しておくから今日は練習お終いよ』
「…うぅ、ごめんなさい。メイリンちゃん」
『いーわよ、良かないけど。ほら、もう遅いから寝なさい』
しょんぼりしているサクラの頭を撫で、慌てている小狼と一緒に部屋に上がらせる。
トレーラーの修理は業者さんに頼むとして、問題はサクラの機体だ。もうちょっと頑丈に作ったほうがいいだろうか。機体を軽くして….、いやそれじゃ風に取られて動きづらくなってしまう。うーーーーん、と唸っていると、中から黒鋼が出てきた。
「まだ眠らねぇのか」
『えぇ、まぁね。あの子のために少しでも扱いやすい物を、と思ってね』
「……どんな気分だ」
『え?何が?』
「…顔も名前も同じでも、違う相手ってのはどんな気分で接している」
眉間にしわ寄せていつもの仏頂面だったが、黒鋼はどこか戸惑いの色を纏っていた。
『…それで、気になって眠れなかったってところですか』
「そんなんじゃねぇよ。…ただ、高麗国で、おまえが姫と小僧の事言ってやがったから、どんな気分なのかと思ってな」
『なるほどね』
経験者の私に聞いてみようって腹だろう。
まぁ、黒鋼はどっかの馬鹿みたいに面白半分で地雷ぶち抜くような事はしないと思っているから、私は素直に口を開いた。
『…会いたく、なるかな』
「?」
『すぐそばにいる人は、私の幼馴染でもいとこでも、知り合いで、友達でもない。私のことは全然知らないし、私もその人のこと知らない。
違う所が目に付いて嫌になるし、でもそれと同じくらい一緒な所も目にとまる。雰囲気や、言葉遣い、思考回路も似てたりね。
……だから尚のこと、私の“知っている”あの子達に会いたくなる。
魂の根元が一緒っていうのは、厄介よね』
笑顔でそう言うと、ふいっと顔をそらされた。なんだよ、まったく素直じゃないなぁ。
『…ちなみに、ちょっと戸惑ってる黒鋼くんに最新情報をあげよう』
「誰が戸惑ってるっつった?」
『私のいた世界にも、知世って子居たのよ』
そう告げると、少しだけ黒鋼の目が見開いた。
『私の世界では、木之本さん…、サクラと仲がよくて、小狼の事を応援して、私にとっても友好的だった』
「……だからあいつが来た時も、あんまり驚いてなかったのか」
『そういうこと。お昼の光景なんか特に“いつもの事”だったしね』
ダイドウジさんに意識を大きく裂きつつも、ちゃんと周りを見てるあたりさすが忍者だ。
くすり、と笑い工具を手に取る。もう修理修繕するからどっかいけと言うように。
黒鋼も察したのか、キリのいい所でさっさと寝ろと言い、去っていった。
『…よし、あともうひと頑張りだー!』
(本当の笑顔)