ピッフル国
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朝日が昇り数時間。
そろそろ日は高くなりだして、お昼ご飯の時間といったところだろう。
私の体を覆う程大きな機体の下に潜っていたこともあり、あまり正確な時間は分からなかったが、そろそろシャワーでも浴びて昼の準備をするか、と顔を出すとサクラがタオルを持って待っていた。
「メイリンちゃん、おはよう。
修理、お疲れ様」
『おはよう、サクラ。タオルありがと』
汗と機体独特のオイルの匂いを拭う。ふとサクラを見ると、ラフさはあるが何処かへ出かけるような小綺麗な格好をしていた。
出掛けるの?と何の気なしに疑問をそのまま口にする。
「部品とか足りなくなったから、黒鋼さんとお買い物に」
『部品!?わ、私も行く!30秒で支度するから!』
「えっ、!」
もらったタオルもおざなりに、バタバタと走って今回の宿のトレーラーまで駆け込む。自室へ向かい、制汗剤を振りかけ、服を着替えて髪を高い位置で二つ結びにする。
部屋から出たら、リビングでファイがコーヒーを飲んでいた。
「あれー、メイリンちゃんどこ行くのー?」
『サクラと黒鋼とお買い物!お昼当番よろしくねっ』
「いーよーー。一つ貸しねぇ」
『っ、それでいいからお願いね!!』
「りょーかい、いってらっしゃーーい」
今度からへらへらドケチ魔術師って呼んでやると、心の中で呪詛を唱える(まぁ、本来の昼担当は私なので文句を言う道理は無いのだが。)
髪を振り乱してトレーラーから出ると、困り顔のサクラと、怒っている黒鋼が外で待っていた。あからさまに怒っているが、待ってくれているあたり優しい。
『おまたせ!』
「おせぇ!!つか、なんでお前まで来んだよ!」
『部品買いに行くんでしょ?私も行きたい!!
ていうか、皆のドラゴンフライの整備士やってるんだから普通連れてくわよね!?』
笑顔でそう言うと、黒鋼は口を噤んだ。よし勝った。側でわたわたしていたサクラの手を取り、黒鋼を急かすと、また怒号が飛んでくる。
ーーーーーーーー
車、道路、見上げれば独特な建物に、流用されてる飛行物体。視界に広がるのは、阪神共和国とはまた違った文明が発達している近未来都市。それがここ、ピッフル
最近お世辞にもあまり文明の利器が発達しているとは言い難い国ばかりだったので、ここに落ちた時は水を得た魚の気分だった。
お風呂は追い焚きできるし、水は水道から、乗り物は馬でも竜でもなくて環境に優しい機械的な乗り物ばかり。
ビバ・科学。ビバ・文明。
私はこれらを発達させた人を尊敬するわ。
「あ、ここですね。この国のお店は分かりやすいですね」
「まぁな」
『街のどこでも空飛ぶ広告があったり、看板も投影型だからパッと見てすぐ分かるわよね』
運転は黒鋼がしてくれるから助かる。
私達は車から降りて、部品コーナーを探し、店員に欲しいものを伝える。
「すみません、飛翔パーツのBNQ3が欲しいんです」
「はーい、BNQ3ね。」
『あとあと!電気モーターのPAH13と、PAR4。それと、飛翔パーツのBNKシリーズってあるかしら?支払いはこれで』
「え、っとー。ちょっと待ってください」
「い、いっぱいお買い物するね…」
『思いのほかカスタムと整備が楽しくてね…』
苦笑するサクラに遠い目をして返す。
〈前のわたし〉は街つくり系のゲームとか、カスタムして遊ぶ独楽とか好きだったもので、こう、私の封印されたヲタクの部分が熱くなっているんだと思う…。
黒鋼は素知らぬ顔で周りをキョロキョロと見ている。そんな黒鋼にサクラはお礼を言っていた。
「お金、ありがとうございます」
「あぁ?」
「黒鋼さんとファイさんが夜魔ノ国で貰った報奨金が、この国の貨幣に換金出来たから、うやって買い物出来るんですもの」
サクラの礼に、あまり興味がないのか黒鋼はまた素知らぬ顔で置いてあるパーツを手に取る。照れているのだろうか?
そうこうしていると、店員が戻ってきた。
「すみません、BNKシリーズは現在店に在庫が無くて…。それ以外はありました。はい、カード」
『そうですか、ありがとう』
「有難うございます」
サクラが店員ににこりと笑いかけると、店員は顔を真っ赤に染めた。あ、落ちたな。
店員が固まっていると、側からもう一人店員が現れた。
「BNQ3を買ったってことは、〈ドラゴンフライレース〉に出るんですか?」
「らしいな」
サクラに落ちた方の店員はぐわっと驚き声をあげた。
「はいっ」
「あのレースは危ないですよ!〈ドラゴンフライ」はハイブリッドで、電気も使ってるけど殆どは風力で動いてる!
操作は簡単だけど天候によっては墜落する事もあるし!カスタム次第によっては、とんでもない性能になったりするんです!!」
「いるな、とんでもねぇ細工してる奴」
『う、うるさいなぁ!まだちょっとしか手を加えてません!』
黒鋼の言葉に心当たりがある私は、思わず目をそらす。逸らした先に飛び込んできたのは、宙に浮いている看板で、最近じゃよく見かける、あの広告だった。
「おまけに、今回はあの賞品のせいで荒っぽい事になりそうだってニュースでも!」
「なんか凄い
「あれがあれば半永久的にマシンが動くらしい」
「マシンだけじゃないだろ。噂じゃ、この町全部の電力はまかなえるって話だぜ」
わらわらと集まった店員が口々に〈ドラゴンフライレース〉の賞品広告について言うーーーー映っているのは、まさしくサクラの羽根だった。どんな世界でも絶大的な力を発揮する羽根。それが優勝賞品だった。
「行くぞ」
『えぇ、帰りましょうか』
「はい!…心配して下さって、有難うございます」
サクラの最上の笑みに、店員一同は顔を真っ赤にしていた。サクラの喜怒哀楽が激しくなっているのは羽根が戻っている証拠なのだろうが、こんなに愛想振りまかなくてもいいのに。小狼も大変だろう。
先んじて黒鋼と車に乗っていると、サクラが継いで乗り込んだ。
「で、本当にでるのか。レースに」
「はい」
「危ないっつってたぞ」
「わたしに出来る事があるなら、頑張りたいです」
『黒鋼心配してるのね。やっさしぃーー』
「してねぇ!!…言い出したら聞かねぇのは、どこの姫も一緒なのか」
「え?」
ボソリと呟かれた黒鋼の言葉は、私達には届かず。照れ隠しで突然車を発車させた衝撃に、サクラが短く悲鳴をあげた。
その刹那。曲がり角から突然もう一台車が現れ、急ブレーキが踏まれた。車体から甲高い音が鳴り響く。
あちらもブレーキを掛けられたから、お互い衝突事故にはならずに済んだが、心臓が飛び出るかと思った。
相手の車内から黒いスーツにサングラスをかけたお姉さんが現れ、謝罪される。
無事何もなくて良かったが、相手の車内に乗っていたもう一人がむくりと顔を上げる。
「知世姫!!?」
黒鋼が慌てて叫ぶ。
長い、少しウェーブのかかった黒髪をなびかせ、のぞかせる優しげな顔立ちは、わたしも知っている大道寺知世、その人だった。
忠誠心故に、黒鋼は大道寺さんのそばへ駆け寄るが、黒衣にサングラスのお姉さん方が多く、行く手を阻む。
「……素人じゃねぇな、お前ら」
黒鋼と黒衣のお姉さん方が、ジリジリと一触即発の雰囲気を醸し出す。
そこに、凛とした。彼女の性格を表しているような声が降り注ぐ。
「お待ちなさい」
大道寺さんがその場を収め、私達の方へ走ってきたかと思えば、黒鋼はスルーでサクラの手を取った。
「見つけましたわ!」
『「え?」』
「ヒロインは、あなたですわ♡」
大道寺さんの爛々と輝かせる笑顔と、サクラの少し戸惑っている表情。握られている手。
その姿を見て、なんだか納得したような。少し懐かしい気持ちになる。
違う国でも、あの子達じゃなくても。魂の根元が同じであれば、彼女達は“同じ”なのだ。
(ヒロインはあなた!)