阪神共和国
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あの後、空汰さんに案内された一室でやっと一息着けた。既に敷かれてある敷布団に、どこか懐かしさを感じながら身体を委ねた。
そういえばさっき嵐さんに寝巻きとして着てくださいって渡された七分袖のTシャツとスウェットパンツがあるんだったっけ。
『あーー…、嵐さんには悪いけど、着替えるのめんどくさーい…』
こんなにぐったりするのは、十何年ぶりだろう。香港の実家でも、〈苺鈴〉を演じていたので気は抜けなかった。この旅にとってイレギュラーな存在であるからこそのものよね、これって。
『…んー、よし。着替えて寝るか』
雨にも濡れたし借りた服に着替えると、中学生の身体と嵐さんでは色々な部分の差が大きかったようで、色々なところが余ってしまった。
これほど余っていれば寝るだけだし下は履かなくてもいいか、と久し振りに自分のズボラな部分を認識して眠りについた。
ーーーー
夢を見た。私がまだ〈前のわたし〉だったときの夢。もう朧げになりつつある〈前のわたし〉が生活していた夢。
いつもの様に朝食を摂って学校へ向かう。歩きながらでもスマホで漫画を読んでいたっけ。そんなふとした瞬間でさえ、あの子に憧れていた。
強くて可愛い、あの魔法少女に。
「……ちゃん」
『…ん、』
目が覚める。もう少し、この夢の続きが見たいのになぁ。
「起きてーメイリンちゃん。朝だよー」
『……
「いやーー、嵐さんにメイリンちゃん起こして来てって言われちゃってー。…って、メイリンちゃん寝るときはすごいんだねぇ」
ファイの目線を追い、は、と気の抜けた声を出してから思い出した。…そういえば、私スウェット履いてない? 視界に入るのはゆるっとしたパジャマを上だけ着て寝ていたため、太ももまで足が晒されている現場だった。
『ッスーー…、あーーーー、そうか。昨日寝るときにダボダボ過ぎて履かなくていいかって…』
「あれ?もっと恥ずかしがると思ってたんだけどー」
『別に。これが同い年ぐらいの子だったら私もそれなりに恥ずかしいけど、あなた私より十くらい年上でしょ? そんな人に羞恥心も糞もないわ』
本当はもっと年上だろうし、別の理由だったがここでは割愛だ。欠伸を一つ咬み殺すと、ファイはなぜか眉ハの字に歪め呆れ顔だった。
「それじゃあ、これ着て降りて来てねー」
『はい、着替え持ってきてくれてアリガトー』
「…あのさ、メイリンちゃん」
襖に手をかけたファイがこちらを振り返る。生理的に滲んだ視界に映ったのは、不安を無理やり塗りつぶしたような笑顔だった。
「君、魔力ないよね?」
『……朝からそれ? 私、その質問が世界で一番嫌いなんだけど』
「それはごめんね。でもオレには必要なんだ、…これから一緒に旅をするんなら尚更。
君から魔力は感じ取れないのに、魔術師の匂いがプンプンするからどうしてかなーって」
いちいち腹立つ言い方だなぁ。けれど、ここで答えなければこのにやけ顔はいつまでもしつこいだろう。確かにこの旅は長くなるのだから、最初に答えておいた方がいいだろう。
無意識に一つ、ため息が溢れる。
『…私の生まれた李家は代々魔術師の家系。母も父も、…従兄弟だって大なり小なりそうだった。けど、生憎私には魔力なんてこれっぽーーーっちも、欠片だってないの。
ただそんな魔術師だらけの中で過ごしたから、貴方の言う“魔術師の匂い”が少しくらい付いているんじゃない?』
「ふーん…、そっか。ありがと」
聞いておいてそれだけかよ。ファイは本当にそれだけだったようで、すんなり部屋を出て行った。朝っぱらから何なんだ本当に。
顔合わせて二日目(ほとんど半日)の奴に、なんで寝起きに個人情報言わなきゃいけないわけ?
ええい、自ら頬を叩いて仕切り直しだ。窓から外を見ればとても天気が良い。日本の初夏のような少し気温が高いけれど、香港よりも過ごしやすそうだ。ファイの所為で気分を曇らせていては勿体無い。
嵐さんが用意してくれた服は少し丈の長い、淡い白と青の水玉の襟付きのノースリーブワンピースだった。あのクールビューティの嵐さんがこれ着てたと思うと、きっととても可愛らしい。ファイへのムカつきも抑えられるくらい可愛い。
下へ降りるともう全員揃っていたみたいで、嵐さんお手製の朝ごはんを頂いた。ファイがこちらを見てまたへにゃりと笑ってきたので、小学生みたいだけどぷいっと無視してやったわ。
(宣戦布告。)
蛇足説明。
メイリンが寝言で言っていた「偉(ウェイ)」というのは、李家に仕えているおじいちゃん執事さんです。苺鈴ちゃんも小狼君もお世話になってました。あと、苺鈴ちゃんは彼に中国拳法習いました。朗らかなお師匠様って感じ。