紗羅ノ国/修羅ノ国
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぼすんっと勢いよく花いっぱいの花壇に落ちたようで、周りを見渡すと朗らかな天気と色とりどりの花が咲いている紗羅ノ国だった。どこか見覚えがある建物もあり、陣社の中に落ちたのかもしれない。
「戻って来たの?」
『そう、みたいね…』
しかし、一度来た世界に短いスパンで戻ってくるなんて、そんなことあるの?
サクラの言葉に同意しながらも不思議だと、考えてしまう。取り敢えず花壇から降りていると、個性豊かなお姉さん達が話しかけてきた。
「あら、お客さんね。どこから来たの?」
「あの…。あ、あの、陣社の人達と、遊花区の人達って…」
「おぅ、見ての通りだ!」
「あたし達、すぐ近くの遊花区って所を根城に、あちこち興行して回ってるんだけどね」
「困った事があったらいつも陣社の男衆に助けてもらってるの!」
「おう!俺達で出来る事があったらいつでも呼びな!」
「ぃよ!!色男!」
『……まじか』
紗羅ノ国ではあり得ない光景が目の前に広がり、思わずショートしてしまう。
あんなに女だ遊花区の奴らだって暴言や差別発言吐いてた氏子達が。なんで、こんなことに?
「ここは前にいた紗羅ノ国とは違うんでしょうか?」
「同じだけどまた別の次元ってことーー?」
『え、パラレルワールドなの?』
小狼とファイの言葉に、咄嗟に口をついた。
パラレルワールド、並行世界。有った事が無くなって、無かった事が有る世界。ヲタクとしての知識しか無いけれど、どこかで分岐が起きて、遊花区の人と陣社が手を取り合ってるって事…?
わぁああ!!という歓声によって、突然私の思考は切断された。
「なんだ?」
「旅の人達、運がいいわ!」
「今日は結婚式だからな!」
結婚式、といわれ指さされた方向を見ると、花が舞う幸せいっぱいの男女が真ん中で寄り添いながら歩いている。
「鈴蘭さん!」
『蒼石さんっ!?』
陣社の陣主と、鈴蘭一座の座長が華々しく、おめでとうとか綺麗よと声を浴びて、花のような笑顔を咲かせている。
「ちょうどいい!今日はめでたい日だからうちの神様もご開帳だ!」
「見てってよ!うちの守り神だ!」
ばっ!と幕を開けられたそこには、阿修羅王と夜叉王の像が二人並んで置かれていた。
「出来た時からずっと一緒なんだよ!」
「おぅ!離しちゃいけないって言われてるからな!」
「紗羅ノ国が安泰なのもこの神様お二人のおかげさね!」
遊花区の人達も氏子が口々に言う言葉に、思わず目頭が熱くなる。
阿修羅王の願いは、別の方向からだけれどきちんと叶っている。
『……よかった…』
「ん?ねぇねぇ、これ」
モコナが何かに気がついたのか、供えられている膳を指差すと、小狼とサクラはあーーー!!!と大声を出す。
「こ、これ…」
「おれ達が付けてた…」
「神器だよ。昔からこの神社に祀られてる」
「そういえば、別で祀られてる神器もあるね。ほらあそこ」
遊花区のお姉さんが二人の像の横を指差すと、そこには私が蒼石さんに頂いて、修羅ノ国に行く前に着けていた金の帯が祀られていた。
『これって、どういう…』
「何か理由があるんだよねぇ。その辺りはうちの陣主に、って今は無理か」
「新郎新婦の鏡割りだーーー!!」
「行こうぜ!」
「祝い酒よ!一緒に飲みましょ!!」
そう言ってお姉さんと氏子は、祝い酒を飲みに走って行ってしまった。
「これ、二人が付けてたの?」
ファイの投げかけに、小狼とサクラは何度も頷く。
「紗羅ノ国で遊花区の人達に着けてもらって」
「修羅ノ国で着替えた時に外されて、そのまま…」
『その帯も、私がここで蒼石さんから頂いて。修羅ノ国に置いてきたものよ』
「んーーー?」
『やっぱり…』
「修羅ノ国は、紗羅ノ国こずっと昔の姿だったんじゃないでしょうか」
小狼の核心をついた発言に、一同はハッとした。
「おれ達は紗羅ノ国に落ちて、その後紗羅ノ国の過去である修羅ノ国に行ったんじゃないでしょうか。
そしてもう一度、紗羅ノ国に戻って来た」
「場所は同じで、現在から過去。過去からまた現在と、時間だけ移動したって事かーー」
『………』
仕組みは理解できる。東京から江戸へ、タイムスリップして、また江戸から東京に帰ってくるようなもの。
けれど、それはそこにいた人達がするからただのタイムスリップで終わるのだ。
修羅ノ国と紗羅ノ国すると、私達は異世界の者。部外者だ。そんな者達が月の城での戦いに参加し、勝敗を決した。問題は、そこにある。
私が考えている事に、小狼も気が付いたようだ。
『私達が倶摩羅さんに残した言葉で…、』
「未来が変わった、か」
それが、真実だろう。
未だに理解していない黒鋼は、その発言についてよく分かっていないようだ。
「前の紗羅ノ国では阿修羅像は一人きりだった」
「夜叉像もね」
「未来から来たおれがあの時言った言葉を、阿修羅族の人はちゃんと受け止めてくれた。二人の像を、離す事なく一緒に祀った」
『…きっと倶摩羅さんね。あの人超がつくほど真面目で、阿修羅王を慕っていたから』
呑気でつかみ所のない阿修羅王を、すごい剣幕で咎めていた彼を思い出す。私も最初はめちゃくちゃ睨まれてたなぁ。相談役みたいなものを引き受けてしまったから、メイリン様なんて呼ばれるようになったけれど…。
阿修羅族しか信じなかったあの倶摩羅さんが、しっかり小狼の言葉を胸に留めて、率先して実行していたのだろうと思い、優しい気持ちが溢れた。
「そして、共にある二つの像は怪異を起こすことも無く。怪異が起こる事も無いんだから、陣社と遊花区がもめる事も無いよねーー」
「それでこうなったワケかよ」
「良かったです。みんながあんなに楽しそうで」
一見、丸く収まったように思えるし、幸せな結末なんだろうけれど、小狼は腑に落ちていない様子だった。私も、そうだ。
本来の道筋を壊すことは、基本的にやってはいけない。それは、あの人達が幸せになれるように、なんてそんなのエゴでしかない。あるはずだったことが無くなることは、それ相応の対価が必要だろう。
『私も、そうだ……』
「………」
「おい、白まんじゅう。最初から修羅ノ国に落ちりゃよかったんじゃねぇかよ。じゃなけりゃ夜叉族がいた夜魔ノ国でも…」
黒鋼がモコナに対して、今回の愚痴を言っているとモコナはがぱぁっと大きな口を開け、二人の像に対して超吸引力を発揮した。
その吸引力の所為で、阿修羅王と夜叉王の像から、彼らが使っていた剣が二本出てきてそれを飲み込んでしまった。
「「「「……………」」」」
「モコナ108の秘密技のひとつ、超吸引力なの♡ダイソンにも負けないよ♡」
『……き、企業努力の賜物ね』
「って、秘密でもなんでもねぇだろ!しょっちゅうやってんじゃねぇかよ!!」
「守り神の中身を吸い込んで…」
「い、いいのかな?」
「まずいんじゃーないかなーー」
その時、わっと再度歓声が上がる。
結婚式も大詰めのようで、芸事を披露してるようだった。
ハシゴに登り火の粉を散らす女性は、とても綺麗で。降り注ぐ火の粉は、触ってみても熱くなかった。
「きれい、花びらが降ってるみたい」
「本当に」
「んな事より祝い酒っつってたな」
「黒ろん飲む気満々ーー」
『ちょ、祝いの席なんだからガッツかないでよ!?』
黒鋼が祝い酒にありつこうとした矢先、モコナから大きな翼が広がって、がぱぁっとまた口が開かれた。
「「「『え!?』」」」
「もうかよ!!一杯くらい飲ませろ!」
「はいはい、行くよー黒さまー。
ほら、メイリンちゃんも」
ファイは黒鋼の襟巻きを引っ張り、もう片方の手を私に差し出した。
「握ってくれる?離れちゃわないように」
『…そうね、今回苦労が身に染みたから。仕方ないわね!ほら、小狼達も!!』
ファイの手を取り、小狼達には私が手を差し伸べる。
今度は、離さないように。
二人で寄り添う阿修羅王と夜叉王の像に、微笑んで私達は次の世界へと向かった。
(約束と、不和)