紗羅ノ国/修羅ノ国
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月の城が崩れ落ちた。
あそこはいわば、異空間のようなものだったみたいで、地面に叩きつけられる事なく私達は阿修羅城付近に落とされた。
ひっそりと泣いていたお陰で目が赤くなっているだろうから、出来れば顔を隠していたいのだが。ずっとこのまま、ファイにお姫様抱っこされてるわけにもいかない。どちらの恥を取るか。
「メイリンちゃん、やっぱりいい匂いするねー。女の子って感じのー」
『っ!!か、嗅ぐな!いつまで抱いてるのよ!』
「えーー、久しぶりなんだしもうちょっとだけー」
『うるさい、離れろ!』
私の心臓が保たない!!
顔を赤くしながらジタバタと暴れると、しょうがないなぁと私を優しく地面へ降ろしてくれた。冷たい冬の匂いが遠ざかることに、名残惜しさを感じる。いや、名残惜しくない。
『って、瞳が…』
「あ、戻ってるー?夜叉の国に落ちると、みんな真っ黒になるんだってー」
『よかった…。
黒もそこそこ似合ってたけど、あなたにはやっぱり蒼い瞳がいいわね』
「…………」
久しぶりに見た蒼は、宝石の様で綺麗だ。
私がそう言うと、ファイは固まってじわりじわりと赤くなっていっているような気がする。な、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきた。
『…小狼の所に、行きましょうか』
「そーだね、あはは」
皆が混乱に陥っている中、琥珀色を見下ろす黒い大きい男の人がいた。黒鋼は見つけやすくて助かる。
「やっぱまだまだだ。鍛錬のやり直しだな」
「黒ぽっぽきびしー」
『小狼!無事でよかった…!』
「メイリンさん…!!
って、黒鋼さん!?ファイさん!?」
「はーい」
ファイはふざけて小狼に返事をする。しかし、小狼は戸惑い混じりに黒鋼達の目の色を確認して、さらに戸惑う。
「えっ!?え、でも、目が…」
『蒼と赤ね。夜叉族の国にいると黒になっちゃうみたいなの』
「ごめんねぇ。でも、オレ達先に落ちちゃって。半年近くも早くこの次元に着いちゃったんだよー」
「そんなにズレて!?」
「モコナもいないから、オレと黒るんも言葉が通じないしぃ。でも黒ぴーが何とか夜叉族の言葉が分かったから喋るのは黒ぴーに任せて、オレは口利けないって事にしたんだよー」
「だったら!月の城であった時に教えてもらえれば…!!」
『そーよ!言ってくれれば、あんんなに驚かずに済んだのにっ…!!』
「あーーーー、あれは黒ぷいがーー。
オレ達だって分かると、小狼君もメイリンちゃんも本気出してくれないからって」
小狼は分かるが、私まで…。口止めしてくれたら黙ってるのに。
小狼はそれを知って、黒鋼に頭を下げてお礼を言っている。
「おれの剣技の上達を考えてくださったんですよね。ありがとうございます」
「……」
「わーーい、黒様照れてるー!」
「誰が照れてる!!!」
『む、なんか納得いかない…』
黒鋼とファイがじゃれ合っている中(黒鋼は本気で斬りかかってるけど)、私はふくれっ面で奴らをじとりと見る。私がボロボロになる謂れがない気がしてしょうがない。
本気で相手してくれたのは嬉しかったが、納得がいかない。
「小狼くん!」
そうこうしていると、阿修羅城から血相変えたサクラが、モコナを連れて走ってきた。
サクラもファイと黒鋼が目に入るとびっくりしたような、嬉しそうな表情だ。よかった、やっと全員揃った。
小狼が手にしていた羽根は、サクラに向かってふわふわと飛んでいき、胸の中へ溶けて消えた。そうすると、いつものようにサクラは眠りにつき、小狼が大切そうに抱きかかえる。
「羽根…、取り戻せた」
ぎゅっとサクラを抱き寄せる小狼のその言葉で、あの時の光景がフラッシュバックする。
右目を抑えて、必死に、何かに抗う小狼の姿を。そのしこりだけが未だに消えない。
トランス状態のモコナが、大きな翼を広げ、次元の魔女の魔法陣が現れる。
移動の時間だ。今までで一番長居した国だから、多少名残惜しく感じながらも、ゆっくりと覚悟を決めていると。
黒鋼の騒がしい声が聞こえる。見てみると、ファイが黒鋼、小狼、サクラを抱き寄せてぎゅーぎゅーと、まるでおしくらまんじゅうのような密着した光景が目に飛び込んできた。
「てめ!何しやがる!!」
『うん、本当になにしてるの…?』
「また離れて落っこちないようにーー。
ほら、メイリンちゃんも」
ファイは自らの肩をトントンと叩き、さもここへ抱きつけと言っているようだった。
何時もなら即決で拒否するが、修羅ノ国では一人の期間が多く、次の国でも一人だったらという不安が…所謂トラウマが私を突き動かした。
躊躇うように、後ろからそっとファイの背中に抱きついた。これは離れて落ちない為、と自分に言い聞かせて。
「わーーーい、役得〜〜」
『うるさいなぁ!あなたが離れないようにって、言うから…』
その言葉をかき消すように、モコナの口は大きく開いた。本当にそろそろ移動らしい。
「待て!やっぱりお前達…、メイリン様も夜叉族と通じていたのですか!!」
『倶摩羅さん…』
「違います。もし、そうだとしても二人の王はもういません。もし二人の王の亡骸か、形見の一部でも見つかったら、どうか離さず、一緒に葬って差し上げて下さい」
「……っ…」
倶摩羅さんは、目尻に涙を溜めながら悔しそうに悲しそうに、小狼の言葉を心に染み込ませていた。
『倶摩羅さん、あなたはどれだけ経っても、何があっても阿修羅王の側近ですよね。
だから、あの人が居なくなった後は、あなたが皆を守らなければいけない。…あなたなら、“絶対大丈夫”よ』
「……拝命、致しました」
私は、最後ちゃんと笑えただろうか。
倶摩羅さんにも、無敵の呪文が効くといいなと思い、私達は修羅ノ国を後にした。
(別れと呪文)