紗羅ノ国/修羅ノ国
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あの後、阿修羅王と倶摩羅さんにこっ酷く怒られ、執拗以上に包帯を巻かれた。
翌日も戦へ出ようとしたら、阿修羅王の言い付けだと、侍女さんからも止められた。これくらい平気なのに。
『うぅーーー、黒鋼の所為で暇だーー』
動けないと色々考えてしまう。
小狼達はいつ来るのか、阿修羅王達は何の為に戦っているのか、ファイはあの時なんて言ったのか…。
ぐるぐると考えて、気がつくと眠っていた。
ーーーーーー
これは昔の記憶だろうか。
懐かしい小狼の自室で、二人で遊んでいる時だ。まだ、5、6歳くらいの頃に、お母様から婚約者を決めるよう言われた次の日のことだろう。今でも鮮明に覚えている。
私の婚約者になるのを嫌がっている小狼に無理やり泣き付いて、せがんでいる思い出。
「いやだ!!」
『なんでよーー!
小狼は、私が知らない人と結婚してもいいっていうの!?』
「苺鈴が望むなら別に構わない」
『私はいや!!
結婚するしか道はなくても、それでも好きな人とじゃないと嫌なの!!』
「……俺にどうしろって言うんだ」
ため息混じりに妥協する小狼に私は目を輝かせて飛びついた。
そして、ずっと用意していた台詞を言う。
『小狼が“一番好き”って思える人が出来るまで、私を小狼の婚約者にして!』
「…時間稼ぎにしかならないぞ?」
『いーの!その頃になったら、私も自分で好きな人を見つけれると思うからっ』
今のままでは流石に世界が狭すぎる。
好きな人との結婚は言い過ぎだとしても、知らない人と婚約なんて嫌だ。いくら良家のお嬢様として生まれたからといっても、流石に無理だお断りする。
それに、私の〈知っている道筋〉では、〈李苺鈴〉は小狼があの子を好きになるまで、許嫁だ。
そこは、崩したくない。
「……はぁ、分かった」
『ありがとー!小狼っ!』
「苺鈴も、一番好きだと思える人に出会えるといいな」
『そうね』
思い出の中の小狼は、あまり笑顔を見せないがこの時ばかりは笑顔だった。
会いたいなぁ、と素直に思ってしまう。会って、相談したいことが山ほどある。今なら、貴方に話せることもあるかもしれない。木之本さんとも、仲良くやれてたらいいけど。
ぱちりと目を開けるとそこは小狼の部屋ではなく、阿修羅城の自室だった。
侍女さんが部屋をノックする音が聞こえ、なんだろう?と思っていたら、「阿修羅王がご帰還なさいました」と、一言聞こえる。
何時も自分で帰ったぞと姿を見せて、勝手に帰るのに。少し不思議に思い、門まで顔を見せることにした。すると、不機嫌そうな顔の倶摩羅さんと、上機嫌な阿修羅王が月の城から帰還していた。
『おかえりなさいませ、阿修羅王。倶摩羅さん』
「はっ」
「あぁ、帰った。其方に土産だ」
阿修羅王はそう言って後ろを見ろとでも言うように手を差し出し、私も素直にそちらに目線を合わせると、そこには…ーーーーー
『…小狼、サクラ、モコナ……?』
「メイリンさん!?」
「メイリンちゃん!」
「わーーーーーい、メイリンだー!!」
白くて丸いものがぴょんぴょんと抱きついてくる。感傷に浸れるほどの月日は経っていないはずなのに、どうしてか懐かしく感じる。
きっとあの夢の所為だ。
『久しぶりね、三人とも』
ようやく、役者が揃った。
止まりかけていた時間が、ようやく動いた気分だ。
阿修羅王は着替えてくると言って、私に小狼達の案内を任せて去ってしまった。
とりあえず食事、と仰ってたので、大きな間に連れて行く。
「あの、メイリンさんはいつからここへ?」
『ここへ来て、もう2ヶ月経つわね』
「そんなに…」
「言葉は大丈夫だったのー?」
『私の国の、とある古語に似ていたからなんとかやって来れたわ』
小狼達の質問へ答えている最中、後ろからずっと鋭い目線を感じる。言わずもがな倶摩羅さんだ。なぜ、この怪しい者たちと目線が言っている。
すると、サクラが思い出したように呟く。
「……さっきの、月の城での、ファイさんと黒鋼さんだったのかな」
「わかりません。でも、だったらどうしておれ達を見て何も反応がなかったのか…」
小狼達も、会ったようだ。
しかし、私の時はファイだけだったが、反応はあった。反応、と言っていいものか分からないが。
ファイから接触があったと言うことは、私だと分かったのだろう。
しかし何故小狼達には何も言わなかったのだろう。私は顔布までしていたのに…。と考えていると侍女さん達が次々と料理を運んでくれている。どうやら先に宴のようだ。
「料理いっぱーーい!ぱくっ」
「モコナ!!」
『大丈夫よ、ここのお料理美味しいから』
モコナのおかげで少し朗らかな空気にはなったが、相変わらず倶摩羅さんの目線は鋭い。私に対して、とまでは言わないがもう少し軟化してもいいものだが…。
すると、準備ができたのか阿修羅王が侍女さん達を従えてやってきた。
「待たせたな。食事は口にあったかな?」
「とってもおいしーー!」
「それは良かった」
「あ、」
サクラは侍女さんが持っていた楽器を見て、声をあげた。なんでも、玖楼国にある楽器とよく似ているらしい。
「…同じです。不思議ですね、他の国なのに」
「サクラひけるの?」
「少しなら」
「それは聴きたいな」
「えぇ!?でもでも上手に弾けなくて!神官様の方がとても上手で!!」
『観念なさい。阿修羅王のソレは何時ものことよ』
私もその気まぐれと無茶振りに、何度冷や汗をかいたことか。倶摩羅さんも覚えがあるのか、一つ咳払いをこぼしている。
サクラは最後の助け舟の小狼へ目を向けると、おれも聴きたいです、とにこりと笑った。
「聴いてて嫌になったらすぐ止めてねっ」
恥ずかしそうにそう言うと、サクラはすっと琴のようなその楽器の弦に指を置き、綺麗な音色を爪弾く。
一同がうっとりしていると、阿修羅王は持っていた扇を広げ、音楽に合わせて妖精のように舞う。
言葉にするのが億劫な程、綺麗だ。
二人の優美が一体になり、混じり、溶けて消える。心地の良い演奏と舞はあっという間に終わってしまった。
「……良い音色だった。
美しい琴を聞かせてくれた礼だ。酒の用意を。今宵は小さな客人達と飲み明かすぞ」
「えっ!?」
『ま、待ってください阿修羅王!この子達、お酒に弱くて…』
「そうなのか?それなら、一杯だけだな」
にこりと笑う阿修羅王。そう言う意味じゃなくて…、と吐き出そうとするも、その笑顔に尻込みしてしまった。
結局、あのあとはほぼ酒乱騒ぎのような状態になり、主にサクラが一等騒がしかった。
それを面白おかしく、阿修羅王が酒を進め、サクラが飲み、騒ぐの繰り返し。
ほとほと疲れが溜まり、私は先に失礼させてもらった。
湯浴みを終え、自室へ戻ると阿修羅王が一人で月見酒をしていた。
『サクラ達はどうされたんですか?』
「小狼はサクラが大切なんだと思ったのでな、二人同じ部屋に案内した」
『そうですか…』
髪から滴る雫を傍目に、阿修羅王へ問いただす。
『あの、何故あの子達が私の旅の同行者だと分かったんですか?』
「…なぁに、私がかの魔女に願って其方らをこの国に呼んだからだ」
『……それが、願いの内容ですか?』
「あぁ。まだ小狼達の分の対価はまだだがな」
『なぜ?』
「とある男の願いを阻止する為に」
そう言って、阿修羅王はまた酒を一口煽る。
とある男、と言われ私は咄嗟に飛王・リードの顔が浮かんだ。
「それだけか?」
『……あと一つ。あなたの、本当の願いはなんですか?』
戸惑いを孕んだ言葉に、阿修羅王は赤の瞳をこちらへ向ける。
確信はなかったが、この人はいつも“願い”という言葉に敏感だった。
そして、月の城での戦い。その勝者は望みを叶えることが出来る、その為に阿修羅族と夜叉族は何代にも渡り戦っているのだと侍女さんから聞いたことがある。
この人は、次元の魔女でも叶えることが難しい何かを、望んでいる…?
「ふっ、内緒だ」
『へ?』
「はは、メイリンは愛いな」
『……はぁ』
もしかして、馬鹿にされているのだろうか。
阿修羅王は笑顔を浮かべ、すく、と立ち上がり、あのまん丸の月に手を伸ばした。
「そんな私の愛い其方へ忠告だ。
もし、望んだものがあるのなら、ありのままの心で、そのものを望め」
『……なんですか、それ』
「…なんでもない、世迷言だ」
其方も早く休めよ、と言うと阿修羅王は部屋から出て行った。
その時、「ただの男と女であれたなら、どれほどよかっただろう」と風に乗り聞こえた台詞は、何処かに溶けて消えた。
(忠告と追憶)