紗羅ノ国/修羅ノ国
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朝日が眩しいと感じるほど時間が経っていたのに、ファイは気がつかなかった。
あれからメイリンが寝た後も、黒鋼と二人で何本もお酒飲み続け、開け続け為である。
ちゅんちゅんと小鳥がさえずるような時間になってしまったのか、と思い、数時間話していた相手の顔を再度見る。ずっと眉間にシワが寄っているのは最早、仕様だろう。
「なぁんか飲み続けてたら朝になっちゃったねぇ。この国のお酒って美味しいねー。いくらでもいけちゃう」
「桜都国でのありゃ演技か?」
「んん?」
「にゃーにゃー騒いでたろ。小娘に絡みにいったり」
「あれは本当〜〜〜」
ファイがへにゃりと笑うと、黒鋼の眼光が更にキツくなる。
「っていうかあれ、実際にお酒飲んでたワケじゃないでしょーー。
ああいうのも悪酔いと言うのだろう、と一人納得していると、目の前の黒い男は反対に納得してない様子だった。
「納得してない顔だーー。胡散臭い奴だなぁって思ってるでしょー」
「あぁ。だとしても問題ねぇだろ。
お前も腹割るつもりも、覚悟決めてそいつと向き合うつもりもねぇみてぇだからな」
「……そうでもないかもしれないよ?」
黒鋼の指すそいつとは、ファイの隣で丸まって寝るメイリンの事だ。
少しの静けさの後、黒鋼ははっきりとした口調で、静寂を保つファイの心に石を投げ入れる。
「……蒼石とやらが、あの夜叉像の謂れを話していて“阿修羅”の名が出た。その時顔色を変えたのはなんでだ?
それに、小娘の事を何でもないと言いながら、何故そんなに大事にする。姫とは別の、何かがあるんじゃないのか?」
一瞬の閑静。向き合うのには十分な時間だっただろう。
だが、その空気を破る音が外から聞こえた。
その音で、この話題は終わりだと言うようにファイは切り替える。
「失礼します。
昨日は随分揺れましたが、大丈夫でしたか?」
「はいーー。いただいたお酒も美味しかったですしー」
「……」
「メイリンさんはまだ寝ていらっしゃるんですね。朝餉をご一緒出来たらと思ったのですが」
「是非ーー!
メイリンは起こしていきますぅ。ね、黒様ーー」
蒼石の話に乗るように、黒鋼もさっと立ち上がり何事もなかったかのように部屋を出る。
「……まいったなぁ。
見てないようで、見てるんだから」
脳裏に浮かぶのは、未だに水底で眠るかの王の姿だった。
あの人がいる限り、あの望みがある限り、ファイの歩みは止まらない。逃げだと言われようが、止まってはいけない。
「さぁて、メイリンちゃん起こさないとー」
切り替えなければ。
畳の上で気持ちよさそうに寝ている彼女は、昨日のことを覚えているのだろうか。
覚えていても、いなくてもどちらでもいい。ファイの中であの夜は、綺麗な思い出の残骸として残り続けることは、自身も確信していたのだから。
ーー--------
頭がいたい。何故かは分かってる。
まさかあれ程酒癖が悪くて、お酒に弱いとは…!!前世での年齢も合わせたら精神年齢二十歳後半くらいなのに!!
いや、いやいや、酒との相性は精神関係ないもんね。肝臓と、体質の問題だから。
蒼石さんに用意してもらった朝餉をいただきながらも、2日酔いのために中々箸が進まないでいた。
『いくら言い訳しても頭痛い…』
「もー、オレの言うこと聞かずに呑むからでしょー」
『全っ然記憶にない…。昨日の私そんなにやばかった…!?』
「凄く愉快な酔っ払いだった」
「めちゃめちゃ可愛かったー」
『穴があったら埋まりたい…!!』
もうお酒は飲まないと心に決めて、水を飲み干す。
気を取り直して朝ごはんを頂いていると、横でお箸に悪戦苦闘しているファイと、なぜか朝から一等不機嫌な黒鋼が魚を丸ごと食べていた。対照的だなぁ。
「これやっぱり難しい〜〜〜。メイリンちゃん何で出来るの〜〜??」
『ぅ、…私の国でも子供の頃から練習するもの』
「お箸は苦手ですか?」
「すみませんー」
「いえ、お気になさらず。
苦手でしたら、こうぶすっ!と刺して…」
「こう…」
蒼石さんはすごいなぁ。立派な立場の方なのに、お箸苦手なファイに合わせて食事のマナーも合わせてくれるなんて。
そう感心していると、氏子の男衆たちがノックもなく襖を勢いよく開けて入ってきた。
「蒼石様!!」
「……お客様が食事中ですよ」
「すみません!けど遊花区の奴らが!!」
「いきなり蹴飛ばして来やがったんだ!子供のくせにすげぇ蹴りだったんすよ!」
男衆のその言葉に、私たちはぴくりと、反応する。もしかして、小狼達?
「その上、女だったのに!!」
「そこの女みてぇに軽々と体持ち上げて!」
『性別で呼ぶな。フランクに失礼か』
しかし、女の子ってことは小狼じゃないな。サクラもそんな芸当できないし、モコナは人間じゃない。とすると、別の人だろうか?
蒼石さん達はガヤガヤと今後の相談や落とし前について相談しており、私たちは蚊帳の外だ。
「小狼君かと思ったけど、違ったみたいだねぇ」
「………」
『…そう、ね』
「何処にいるのかなぁ、小狼君達」
やはり他の二人も小狼かと思ったらしい。
だが、私はふとあることを思い出した。友枝小にいた時、学芸会で眠れる森の美女の演目をした際の事だが…。
魂も顔も一緒なら、もしかしたらあるかもしれない。
朝餉を終えて、身なりを整えた後私は遊花区に足を運ぶことにした。
小狼達を探すためだ。
蒼石さんにも伝えると、その格好では男性に間違われるかもしれないとの事で、昨日のうちに仕立ててくれた着物をくれた。
『え、いいんですか?』
「えぇ。元の着物を作り直して、メイリンさんの為に仕立てさせました。
氏子達が度々失礼をしておりますので」
『そんなっ、蒼石さんが悪い訳じゃないのに…』
「いえ、彼らの陣主は私ですので。
これくらいさせてください」
渡された深い紅の着物に、金の帯がよく目立つ。すごいなぁ、もはや聖母だ。
『…じゃあ、有り難く頂きます』
「はい。着方はわかりますか?」
『大丈夫です!うちのデカイのが和服得意なので!!』
他力本願ではあるが、そこまで蒼石さんの手を煩わせてはいけない。それなら黒鋼にやらせよう。帯とか難しいし。
有り難く着物セットを頂戴して、また酒を飲んでいる黒鋼に頼み込んだ。
『黒鋼、帯揚げやって頂戴』
「…何で俺が」
『あなた良く着物とか袴好き好んで来てるでしょ。蒼石さんから着物頂いたから、帯だけ手伝って!お願いします!』
「だぁあ!!めんどくせぇ!
あの魔術師にやってもらえ!!」
『はぁ?何でファイなの?
昨日見てたけど、あの人男物の着物だって自分で着れないじゃない』
「……」
たしかに、と思ったのか黒鋼は黙りこくった。
最終的にお願いではなくて、後日酒に合うつまみを作る事で利害が一致。一番簡単な結い方でお願いした。
「これでいいだろ、ったく…」
『わーい、ありがとうー!』
「このまま行くのか」
『ええ。私の方が遊花区には行きやすいでしょ。呼び込みの女性もいるだろうし』
「まぁ、だろうな。
アイツに言わなくていいのか」
『いいわよ、さっき行くって言ってあるし』
「納得は、してねぇみてぇだったがな」
『あら、随分私とファイを気にするのね』
思ったことをするりと述べれば、酒を煽っていた手が止まった。
関係ない、とは言っててもやはり気になるし気にさわるのだろう。くすりと笑みが溢れたところで、怒鳴られる前に行くか。
ひらひらと手を振り、蒼石さんの書いた地図通り神社を目指した。
(恩恵と想定)