紗羅ノ国/修羅ノ国
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夜の帳が降りてくる頃。
新たな国にやってきたはずなのに、目を開けるとそこには黒と白の大きな男達だけが映っていた。
辺りを見回しても、あの子達の姿や声はない。まさか、はぐれた?え、嘘でしょ。
異世界ではぐれたとか、シャレにならない。
「んーーはぐれちゃったねぇ。
小狼君とサクラちゃんとモコナ、大丈夫かなぁ」
「………」
『あ、言葉は通じるみたいね。よかった』
「それなら近くにいるかもねー」
後から聞いた話だが、阪神共和国で私とモコナとが拐われた時に小狼、黒鋼、ファイは言葉が通じなかったらしい。
私達を見つけて、目視ができる位置にいて、やっと言葉が通じたんだとか。確かにそういったこともあった気がするが、やっぱり異世界の人たちの集まりなんだと、再確認する。
しかし、言葉が通じるも通じないも、黒鋼には関係ないようで、終始ぶすっとしている。
「あれーー?怒ってる?」
『怒ってるわね。大人気なく』
「また戦えなかったからー?」
「……」
無言で辺りを散策し始め、私もそれに習い歩く。辺りは日本風な柱や橋、建物がある。
「っていうかさぁ。あの国変じゃなかった?」
『えぇ。気持ち悪いくらいに』
「……何がだ?」
「あの国、暑い所に映える木がいっぱいあったよね。背がたかーい葉っぱがいっぱいの。
それに、結構暑かったよね」
「…それがどうした」
『あのふわふわな小人さん達、あそこに暮らしてたのよ?暑い国なのに、あんなにふわもこって、生態系狂ってるでしょ』
ようやくあの国のおかしな点を口に出すと、やはり、ファイも不審に感じていたようだ。
黒鋼は私達の話を無言で、自分の中に取り込んでいく。聞いていないようで、しっかり聞いてくれている。
『あの子達に聞いてみたら、お家は全部魔物に潰されたって言ってた。だけど、潰された家の破片とか、他の民族の影も形も、まるでなかったわ』
「…それにね、あんなに側に羽根があったのにモコナが全然気がつかないってのも、変だよねぇ」
ファイの言葉に、それはそうだと舌打ちしてしまった。
星史郎さんの一件があって失念していたが、本来何にも覆われていない不思議パワーも働いていない場所であればモコナは反応する。そういう風に、クロウ・リードと壱原侑子によって作られているのだから。
「落ちてたーーって持ってきてくれたんだけど、ただ持ってただけならモコナはもっと早くめきょってなってたでしょう」
『それでも微かにしか感じなかったってことは…』
「………仕組まれてたってことか?」
「…かもね」
仕組まれていた。そうか。かの人は、あの国を仕込んでいた。だからあんなにもちぐはぐで、どこか切った貼ったの国だったのか。あの、元凶である男ならば、やりかねない。
「竜巻はサクラちゃんがちゃんと声を聞いたんだから本当だとしても、あとはあの子達の可愛いしぐさで色々変な所をうまーく誤魔化されたって感じかなぁ」
『人の可愛いを騙すなんて…!!』
「メイリンちゃんは変だなーって気付いてたけど騙されたんでしょー。…でも、黒ぷーは驚かないんだねぇ」
「……誰かの視線を感じる時がある。異世界を渡る旅を始めてから、ずっと。
何ともなかったのはあの次元の魔女の所くらいだな」
「あの次元の魔女の居場所は凄い所だったからねぇ」
『願いを、叶える店…』
日本風の太鼓橋をゆっくり歩きながら、思う。あそこは、“それ”だけに特化した所だから。そのためだけに…。“その為”がなんなのか思い出せないでいるが、私は確かにそれを知っていた。
自分の脳が変な虫食い問題みたいで、気持ちが悪い。
「なんで言わなかったの?小狼君に」
「言ってもしょうがねぇだろ。相手が誰かも分からねぇのに」
「無駄に不安にさせることもないって?
黒様やっさしー」
「うるせぇ勝手に決めるな」
黒鋼はどこまでも優しいが、どこまでもそれを否定する。
石造りの階段を降りかかっている所に、突然前から法被を着た男性集団が現れ、私たちに向かって威嚇している。
「なんだ、てめぇら」
「遊花区の手のモンか!?」
「ここは陣社だぞ!遊花区のモンが来ていい所じゃねぇ!!」
「ゆうかくーーー?
じんじゃーー?」
『遊郭じゃないの?』
「神社だろ?」
「とぼけてんじゃねぇ!!」
男達は私達の白々しいとも取れる態度に怒り、間違った相手に刃物を向けてしまった。
---そう、ずっと不完全燃焼の黒鋼だ。
「…そっちが先に抜いたんだ。どんな目に遭わされても文句言うんじゃねぇぞ」
男達が抵抗する暇もなく、黒鋼は蒼氷で向かってきた者たちを薙ぎ払う。
思わず私がうわぁ、と声を漏らすと横からぱちぱちと軽快な拍手が聞こえてくる。
「かぁっこいーー黒んぴゅ!」
「てめぇ、何ぼけっと見てやがる」
「やーー黒たんの大活躍を邪魔しちゃいけないかなーって」
「く、くそっ…」
また漫才やってんなーと2人を横目に見ていると、後ろからガサッと何かが動く音がした。たんっと飛び退くと、やはり男の1人が私を狙って攻撃してきた。そのまま灯篭に飛び乗り、辺りを見渡す。
先程から思っていたが、黒鋼達とはまた違った目を向けられている気がする。
『無抵抗な女の子に刃物向けるって、男としてどうなの?』
「うるせぇ!!女のくせに避けるな!」
『理不尽か』
「どうせ遊花区の鈴蘭の所に言われてきたんだろう!」
「その身のこなしがますます怪しい!」
『うっさいわねー…』
はぁ、とため息をつく。
すると、わたしの小馬鹿にした態度でさらに火をつけてしまったようで、男達は一斉に私達の排除を行う。
「おやめなさい」
凛とした声が遠くから響き、男達はその声に反応して攻撃は止んだ。
声の方向に視線を向けると、眼鏡をかけた理性的な男性がゆったりと歩いてくる。
「なんだ?」
「誰だろー?」
「蒼石様!!」「
そう呼ばれた男性は、この人達のリーダーのようだった。リーダーと言うか、主人に近いだろう。
男達が私達を襲った理由を口々に言うが、知ったことではない。私有地に入ってしまったのは私達が悪いんだろうが、有無を言わず斬りかかるなんて事、人間がする事じゃない。
「蒼石様の張った結界超えてきたんだ!ただ者じゃねぇ!!」
「それに、この女の軽業!!絶対鈴蘭一座のモンだ!!」
「越えてきたんじゃなくて、モコナの口から落ちたのが結界内だったんだと思うんだけどー。……説明しても分かってもらえなさそうだねぇ」
「だとしても、それだけで手荒な真似をするなど言語道断。申し訳ありませんでした」
「いいえー」
『謝って頂けたので、もう大丈夫です』
灯篭から降り、蒼石と呼ばれた男性と向き合う。部下の失態をすぐ様頭下げて謝れる人に、悪い人はいないだろう。
あの男達はアレだが、この人は信用してもよさそうだ。
「この紗羅ノ国の方ではない様ですね」
「旅のものですーーー」
「お三人で?」
「あと二人、いや三人いるんですけどー」
『二人と1モコナじゃないの?』
私と、後ろで大きく手を振って否定する黒鋼の意見は無視か。
にこやかにファイと蒼石さんは会話する。
「お連れ様がいらっしゃるんですね。どこかで待ち合わせを?」
「してないんですーー。だから探さないとー」
「あちらも探してらっしゃるでしょう。でしたら、拠点を決めておく方がいい。
宜しかったら、うちにお泊りになりませんか?」
名案だ、というように蒼石さんは手をぽむと叩いた。後ろに控えていた男達からは反対の声が多く聞こえる。
「こんな何処の馬の骨かもわからない連中を!!」
「そうです
「袖すり合うも他生の縁。
困った方を助けないで何が陣社ですか」
どこかぽんやや、大道寺さんの言葉を借りるなら“ふんわり”している蒼石さんを見て、思わず木之本さんのお父様を思い出す。
っていうか、前々から思っていたけど、あの一家ふんわりし過ぎじゃない?
それと類似している陣社も大変そうである。
「って、ここどういう所なんでしょー?」
「神社だろ?神だかを祀ってる」
『あれ?でも、字がちょっと…』
「ここは陣社。
私たちが守っているのは、神ではなく人達です」
蒼石さんのその言葉に、男達が着ている法被が揺らめいた気がした。
(迷子と考察)