阪神共和国
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
空汰さんから急遽始まった阪神共和国講座を聞いている限り、ココは私の知っている大阪とそう大差なかった。違いといえば、通貨や法律ぐらいだろうか。そこが違えば全く違うんだろうが、“原作通り”に行けば、そこまで長居するわけでもないしあまり関係ないな。ぼーっと考えていたら前に居たファイははーい、と手を挙げた。
「この国の人たちはみんな空汰さんみたいな喋り方なんですかー?」
「水くさいなぁ、空ちゃんでええで」
「はーい」
「空ちゃん…」
いやいや、小狼。そんな真面目そうに聞いてもあなた絶対“空ちゃん”なんて呼ばないでしょ?嘘や冗談をそのまま飲み込んじゃうあたり、こっちの小狼も同じなんだろうか。
「わいの喋り方は特別や。これは古語やからな」
「この国で過去に使われていた言葉なんですか?」
「そうや、もう殆ど使われてへん言葉なんやけどな。わい、歴史の教師やから古いもんがこのままんなってしまうんも、なんや忍びないなぁと」
「歴史の先生なんですか」
「おう!なんや小狼は歴史に興味があるんか!」
「はい、前にいた国で発掘作業に携わっていたので」
そりゃ気ぃ合うかもしらんなー、なんて和気藹々と話を脱線していった。するとファイがはいはーいと、また元気良く呑気に手を挙げる。
「もう一つ質問でーす。ここは何処ですかー?誰かの部屋ですかー?」
「ええ質問や!
ここはわいとハニーがやってる下宿屋やで!」
慣れているのか、嵐さんは空汰さんの長々とした惚気話を無表情で聞いてる。あ、右から左なのかしら?
惚気話に花が咲いてると、いつのまにか黒鋼は座りながら寝ていた。こんなに賑やかなのによく寝れるなぁ。
「って、そこ寝るなー!!」
空汰さんが学校の先生みたいに(実際そうらしいが)ビシっと指差すと、その先に居た居眠り中の黒鋼の頭にナニカが勢い良く当たった。
その衝撃で黒鋼は起き、小狼は眠っているサクラを守り、ファイは何故か私を攻撃と思われたものから守るように、私を引っ張り腕の中に閉じ込めた。
「てめぇなんか投げやがったのか!?」
「投げたんならあの角度からは当たらないでしょー。真上から衝撃があったみたいだし?」
「…なに真顔で諭してるわけ?いいから離れなさい」
「えーー守ってたのにー」
その衝撃の正体を知っている私は、とりあえずこのすごく邪魔な腕から逃れるのに必死だ。そんな会話も空汰さんの一言でかき消されたのだった。
「何って、くだん使ったに決まってるやろ」
「「「「クダン?」」」」
「知らんのか!?
そっか、お前さんら異世界から来たから分からんねんなー。この世界のもんにはな、必ず巧断が憑くんや。漢字はこう書く」
空汰さんはキュッキュッと、ホワイトボードに水性ペンで書く。読めないこともないが、ぱっと書けと言われたら悩むだろう。
「あー、なるほど」
「あははは、全然わからないー」
「モコナ読めるー!」
「すごいねぇ、モコナは。メイリンちゃんはー?読めるー?」
「…だいたいは」
目を逸らしながら答えれば、ファイはまたあはははーと笑い飛ばした。なんだコイツ、腹立つ…!!
こっちの小狼も読めるようで、モコナがすごいすごーいと囃し立てていた。
「黒鋼と小狼とメイリンちゃんの世界は漢字圏やったんかな?んで、ファイは違うと。
けど、聞いたり喋ったり言葉は通じるから不思議やな」
「で、巧断ってのはどういう代物なんだ?さっき憑くっつったよな」
核心を突いた言葉に答えたのは、空汰さんではなく、さっきまで無口無表情だった嵐さんだった。
「例え異世界の者だとしても、この世界に来たのならば必ず巧断は憑きます。…サクラさんと、お呼びしてもよろしいですか?」
「……はい」
「サクラさんの記憶のカケラが何処にあるのか分かりませんが、もし、誰かの手に渡っているとしたら…、争いになるかもしれません」
「っ!?」
嵐さんの言葉に、場の空気が張り詰めた。そういえばそうだった、と私だけは心の中で納得していた。
「今、貴方たちは戦う力を失っていますね」
「……どうしてそうだと?」
身に覚えがあるファイと黒鋼は嵐さんの言葉に反応した。
どうやら、空汰さんが語るには嵐さんはそれはそれは綺麗な巫女だったようで霊力があるのだとか。今は結婚をきっかけに引退したらしい。
「実は次元の魔女さんに魔力の元を渡しちゃいましてー」
「俺の刀をあのアマ!!」
「私は元から身一つで来たから、なにも」
嵐さんの予測は当たっている。すごいな。
けれど、小狼は違った。
「おれがあの人に渡したものは、力じゃありません。魔力や武器は最初からおれにはないから」
「やっぱり貴方は幸運なのかもしれませんね」
「え?」
「この世界には巧断がいる。
もし争いになっても、巧断がその手立てになる」
「巧断って、戦うためのものなんですか」
小狼のその言葉に、私ははっとした。ここに着いたときに見た夢を思い出した。
戦うための力…。あの蝶々は本当に、私にそんな力をくれたのだろうか。
「何に使うか、どう使うかはそいつ次第や。百聞は一見に如かず、巧断がどんなもんなんかは自分の目で、身で確かめたらええ。
さて、この国の大体の説明は終わったな」
「あれでかよ」
空汰さんにツッコミを入れる黒鋼に、思わず同意してしまう。当の空汰さんは、屈んでモコナと視線を交わしていた。
「で、どうや。サクラちゃんの羽根はありそうか」
「……ある。まだ、ずっと遠いけどこの国にある」
「探すか、羽根を」
「はい!」
「兄ちゃんらも同じ意見か?」
『当面は』
「とりあえずー」
「移動したいって言やするのかよ、その白いのは」
「しない。モコナ、羽根が見つかるまでここにいる」
黒鋼はモコナの答えがお気に召さなかったのか、ムスッとそっぽを向いてしまった。
そのあとは、スムーズに色々話が流れた。空汰さんは、下宿屋だからこの世界にいるうちは面倒をみたる、となんとも気前がよかった。
実はもう夜の12時を過ぎているらしく、部屋割りを決めるらしい。そんな深夜だと知らずに騒いでしまい、少し申し訳なくなった。
「…おっと、ファイと黒鋼は同室で決まってんねんけど、メイリンちゃんはどないする?」
『どこでも眠れます』
「そっか、なら少し小さいけど、ファイと黒鋼の隣の部屋が空いてるからそこ使い」
『ありがとう』
空汰さんの太陽のような人のいい笑顔に、こちらまでつられて笑みがこぼれる。惚気話は長いけど、優しくて大らかだ。
廊下へ出ると、こそっと黒鋼が高い背を折り曲げてまで、私に耳打ちしてきた。
「おい、ガキ。俺と部屋変われ」
『え、嫌よ』
「っなんでだよ!!」
『…あのね、普通に考えなさい? あの腹立つ男と一緒の二人部屋と、優雅でゆっくり出来る一人部屋よ?その選択肢なら、当然!誰もが!後者を選ぶでしょ』
腰に手を当てて力説し、断固として譲らない精神を見せてやった。
すると黒鋼は眼光を強め威嚇するが、私にはそんなものそよ風といっしょだ。諦めたのか舌打ちを一つ放って用意された部屋へと向かった。
『勝ったわ…!』
「うわー、空ちゃーん。後ろで包み隠さなく酷いこと言われてるよー」
「黒鋼ー、男やったら潔く諦めぇ」
(暖かな庇護のもと)