偶像の国
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鬱蒼とした森の中、黒鋼、ファイ、モコナ、それから私は探索していた。
妙に覚えのある組み合わせで、誰かもう一人くらい残ればよかったかと思うが、この組み合わせが一番何か起こっても武力行使ができる。
それに、小狼はなるべくサクラの元に居させてあげたい、という気持ちもある。
それも踏まえて、私達は少々怪しい、森というかもやはジャングルを歩いていた。
「いーけないんだ〜〜いけないんだ〜〜!
乙女の心をふみにじり〜〜〜」
「モコナ歌上手だねぇ」
「踊りもばっちりだよ〜〜!」
『絶妙に上手くて耳に残る…』
「ケッ」
「せっかく楽しく新しい国を探索してるのに、不機嫌だねぇ黒ちゅうは」
ほぼ煽りに近い事をファイが垂れると黒鋼から返ってくるのは鋭い眼差しのみだった。
いや、きゃーこわーい!じゃなくてあなたが煽るからでしょうが。
『大人気ない。
どーーせ、あの人との戦いが途中になっちゃったからでしょ』
「…あンの魔女、何考えてんだよ。勝負の邪魔しやがって」
「その後もなんだか慌ただしくいどうしちゃったしねぇ」
「モコナその時のこと覚えてない」
星史郎の魔法具に誘発されて、ほぼトランス状態だったのだろう。覚えていないのも無理はない。
「でもそのおかげで小狼君も黒ろんも剣が手に入ったしー。
『この旅にとっても、有難いものだしね』
ファイの言うことに耳を傾け、そっと自分の手を見る。新しい国に来たのに、あの時こけた怪我が、まだ赤々と残っている。
すると、話は変わりあの時次元の魔女が勢いよく放った矢文?についてだった。
「あ、なんかついてるー」
「侑子からのお手紙だ!」
どれどれ、とモコナと私しか読めない手紙を目で追い、2人で声に出す。
「『ホワイトデーは、倍返し。遅れたら罰は3倍返し』」
「だって♡」
「意味わかんねぇぞ!!」
花押もきちんとあり、侑子、の字が最後を飾っていた。なんだか頭が痛くなってきた。
…色々思うところはあるが、あれはやっぱりバレンタインデーだったのか。
まずあれ自分で作った訳じゃないでしょうに。
『それに変に韻踏んでるし!短歌か!!』
「ねーメイリンちゃん、そのホワイトデーってなにー?」
『…あー、えっとね、バレンタインに贈り物をもらったら、お返しをする日なんだけど…』
「バレンタインは、好きな人にチョコを渡す日!ホワイトデーはそれを貰ったらお返しする日だよ!」
「なるほど〜」
「さっぱり分からん」
『ホント、そういう所モテないわね』
「うるせぇ!!!」
そうして騒がしいながらも何もなく探索は終わり、私たちはサクラを寝かせた場所まで帰っていると、その目的地から何やらガサガサと音が聞こえる。なんだ?と早足で向かうと、サクラが蔦に引っかかり身動きが取れないでいる。
「サクラちゃん!!」
『何これ!?罠?』
「どうしたの?」
「小狼君が攫われたんです!!」
冷や汗をかきながら、急がないとと助けに向かうサクラの後を追いながら、何があったのか詳しく教えてもらう。
「小狼君を捕まえたのは、耳としっぽが生えた小さい人達だったとー」
『なにそれ可愛い』
「こっちの方に担いで行きました!」
必死に走りながら説明するサクラだが、その情報で私は気を緩めてしまった。なんだ、見てみたい。
「桜都国でやった訓練はどうなってんだ。木の実後ろ頭にぶつけて昏倒とはな」
「わたしがあの木の蔦に吊られてしまって、それを助けようとして…!!」
「まぁ、桜都国ではああするしかない状態だったとは言え、剣を扱うにはまだまだだな」
「先生きびしー」
『数日修練でマスターされてもね』
剣とは違うんだろうが、幼い頃から拳法を習ってもこの実力なのだ。そう易々と武の道を極められても困る。
すると、サクラの肩に乗っていたモコナから予想外の声が聞こえた。
「あっち!煙だ!」
『キャンプファイヤー?え、マイムマイム?』
「…急がなきゃ!」
私には楽しげなマイムマイムしか想像できなかったが、サクラの脳裏にはきっと、小狼が火刑に処されているところが想像できてしまったのだろう。
ともかく、私達は煙が上がってる元へ駆け足で向かった。
「小狼くん!!」
「あ、」
視界には、先ほどサクラが言っていた耳と尻尾が生えた小さい人たちと楽しく食事を囲んでいる小狼の姿だった。マイムマイム程賑やかではないにしても、無事でよかった。
それに、その風景にどこかほんわかしてしまう。私も大抵幼馴染バカだ。
小狼とサクラはお互いの安否を確認している。初々しいなぁ、もう。
「おれは大丈夫です。それに、事情もあったみたいですし」
「事情ーー?」
私たちの話を聞いてか聞かずか、噂の耳と尻尾が生えた小さな人達がわらわらと集まってきた。人達というか、思いっきりウサギとかフェネックとかに近い。もふもふしてらっしゃる。
「なんだ、てめぇら」
『黒鋼、睨まないで。可愛いは正義』
「大丈夫だよー。この人顔は怖いけど、取り敢えずいきなり噛み付いたりしないからー」
「取り敢えずってのはなんだ!!」
「怖い顔はいいんだーえへへへーー」
「ファイと黒鋼仲良し〜〜」
『思いっきり遊ばれてるわね』
とりあえずご愁傷様、と黒鋼に向けて手を合わせておいた。
閑話休題。
小狼が聞いた話だと、この国には魔物がいるそうだ。
「この森を抜けて更に奥の樹海に。突然現れてこのひと達の住んでる所を荒らし廻って」
「みんなで戦った。けどぜんぜんダメ」
「あの恐ろしいものイケニエささげろっていった。」
「おいしそうなイケニエ渡したら、もう森荒らさないって」
「で、おいしそうな小狼君を捧げようとしたとー」
「モコナも美味しそうなのにぃーー」
『たしかに、一番食材感はある』
モナコ料理ならぬ、モコナ料理。と一人心の中でつぶやく。寂しくなってしまった。
寂しさを紛らわすために、ウサギの小人さんたちが用意してくれたスープを一口啜る。
「で、焼いて捧げられそうになったっつうのに何のんきに飯食ってんだよ」
「その魔物、話を聞いていると本当に急に現れたらしいんです。そして圧倒的な力を持っている」
『それは、羽根関連の事件に似てるわね』
「あの恐ろしいものが現れないように出来るかもしれないって、これいった」
「だからほどいた」
「これ、くわしいことが聞きたいといった。」「だから座った。いっしょに座ったら仲間」
「仲間ならいっしょに食べる」
なるほどなーとファイは言っているが、なるほどか?可愛いからいいけれど、言っていることが結構無茶苦茶だ。
モコナに羽を感知してもらうと、近くに羽根があるということがわかった。
「魔物退治ってわけか」
「黒様うれしそー」
「わたしも、行きます」
固い意志でサクラは言った。
「足手まといにならないように、頑張ります。一緒に行かせて下さい」
「……はい」
サクラはどんどん、強くなっていく。信念を、抱き邁進していく。
小狼は戸惑いつつも、サクラのやっと取り戻せた意志を尊重したいと言った面持ちだった。
「みんなで行くのダメ!」「ダメ!」
「しっかりしてるねー」
「でも、誰を…」
「んーー。モコナ残しちゃうのは問題だしー、黒りーも行く気満々だしー」
『なら、私が残るわ』
えっ、と黒鋼以外が私に対して驚きを露わにした。そんなに?
『小狼とサクラと黒鋼とモコナは行くんでしょ?なら美味しそうな方で選ぶと、ファイより私じゃない?』
「……」
「でも、メイリンちゃん…!」
『大丈夫よ。サクラは行きたいんでしょ?
魔物ってくらいだから危ないかもしれないけど、あなたが思う行動をした方がいい』
「はい、」
「ならオレも残るよー。
メイリンちゃんだけっていうのもアレだしー」
『アレってどれよ。食べるところならファイよりあるんだから』
そこ張り合われてもーと苦笑の表情を浮かべるファイだが、コイツ本気で残る気なんだろうか。
一人の方が動きやすいのに。
「さっさと行くぞ」
「いってらっしゃーーい。ここで応援してるよー」
『気をつけて』
黒鋼を先頭に、小狼、サクラ、モコナは魔物が住むと言われている森へと足を向けた。
横に佇むファイが薄い表情でこちらを見ていることに気がつかず、私は彼らの姿が隠れるまで手を振っていた。
(あやしい森)