スキマの国
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お風呂なんて、汚れを落とすだけのものだと思っていた。
もともとオレの国じゃ水浴びで終わるものだったし、それも汚い所を水で押し流すだけの、そんな行為だと思っていた。
その思い違いを訂正するきっかけは、最近一緒に旅するようになった女の子。
サクラちゃんとは正反対だと主張するように、口調はキツくて、小狼くんとモコナ以外には当たりもキツイ。お姫様ってタイプじゃない女の子。強くあろうと必死で真っ直ぐってより上を向いてるような。
いつかの夜。
オレはたまたま眠れなくて、たまたまリビングに飲み物を取りに来ていた。
その時、ベランダから物音が聞こえたから、誰かいるのかなーと少しのぞいてみると、黒髪ロングの、サクラちゃんより少し低い影が星空を見上げていた。
なんだ、今日の最後のお風呂はメイリンちゃんだったのか、と思いもう寝ないといけないよって言うつもりで後ろから声をかける。
「あれあれー、メイリンちゃんお風呂上がっ………」
『?何よ、どうしたの?』
振り向く彼女は、お風呂上がりを思わせる少し桃色の頬と、星と月の光に照らされているしっとりした髪。
いつもならキツい印象が強い彼女なのに、今は少しだけ柔らかく、なんだか柑橘系の良い匂いがした。まさに“女の子”と思わせるような。
気がつくとオレはメイリンちゃんを見すぎていたらしく、はてなマークが顔にまで書いてあった。
なんだか気恥ずかしくなり、苦し紛れに彼女の肩にかかっていたタオルを奪い、まだ少し濡れている髪を撫でるように拭き取る。
すると、メイリンちゃんとの距離が近くなったからか、お風呂上がり独特の香りがした。
清潔なシャンプーの匂いと、果実のような。きっと、彼女がよく使うお風呂に入れると良い匂いがする粉の匂いだろうか。
アレ自体はそこまで好きではないが、メイリンちゃんの香りと混じると、心地がいい。
そそる、香りがする。
『ど、どうしたのよ』
「あー…、いやぁ、お風呂上がりのメイリンちゃん可愛いなぁと思ってー」
『かわっ?!』
日常での軽口のように言うが、なぜか彼女からは反応があまりない。いつもなら黒ぽんと同じくらい叩いたら大きく響くのがメイリンちゃんなのに。今はされるがままだ。
隙間から見える小さく形のいい耳はいつもより赤い気がして、嬉しくてつい意地悪してしまいそうになる。
可愛いね、と言っただけでこれなのだ。
もっと言うと、彼女はどうなってしまうんだろう、なんて。
『あ、あの、もう大丈夫だからっ、』
「えぇー、メイリンちゃんとのふれあいタイムがぁー」
我慢できなくなったのか、タオルドライしていたオレの手をやんわりと振り払って、頬を赤らめていた。お風呂上がりだから、なんて言い訳が通用しないくらい。
メイリンちゃんのいろんな顔が見たい。自分にそんな欲求があるなんて思わず、にやにやしてしまう口元を引き締める。
「---…でもこんな可愛い姿、誰にも見つからないように、早くお休み」
『え、と…』
「オレ的には嬉しいけど、男としてはちょっと毒が強すぎるかも、だからー」
特に、その濡れた髪と果実の匂いとか。と耳元で囁き、誘惑してるんじゃないのかと思うくらい甘美な香りの艶やかな髪にそっと唇を寄せた。
やり過ぎたかな?と一瞬だけ頭によぎるが、そんなのお風呂上がりのメイリンちゃんの前じゃしょうがないよねぇ。
「じゃあまた明日ねー」
明日顔を合わせたらどんな表情でオレを睨んでくるだろう。今、彼女はどんな表情で、何を考えてるだろう。
そう考えるだけでいつもの笑みからさらに深く、緩い顔になってるであろう自分の顔に触れる。
「お風呂、もいいかもねぇ」
お風呂は、汚い物も綺麗にしてくれる。
綺麗なものは、もっと綺麗なものにしてくれる。
変わらない、変えちゃいけないと思っていたオレの思考は彼女の誘惑に打ち負けてしまった。
(いい夢がみれる)
(その夢が正夢になりますように、なんて贅沢な願いは口にせず)