桜都国/桜花国
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龍王さんと小狼が新種の鬼児を見た、という情報の翌日。
開店前に朝食を済ませようとカウンターで皆で朝ごはんだ。
朝食は当番制で、私、ファイ、小狼とたまにサクラ。黒鋼とモコナは変なものしか作らなさそう(作れない)などの理由で、たまのお手伝いのみ。
ちなみに今日の当番はファイだ。
綺麗に焼きあがったホットケーキに舌鼓をうちながら、まだ降りてこない小狼の心配をしている。
私は勿論、サクラは心配が溢れそうな勢いだ。チラチラと階段の方を眺め、小狼が降りてくるのを待っている。
『サクラ、小狼呼んできてちょうだい。
黒鋼もうすぐ食べ終わっちゃうから』
「っ、はい!」
パタパタと走っていく姿に、思わず顔が綻ぶ。
待っていてもしょうが無いので、私も用意された分をまた口へと運ぶ。
生地の甘さとシロップ、バターが混ざって溶けていく。カフェラテと一緒であれば、なお最高である。
「美味しそうに食べてくれて嬉しいーー」
『ほんと、料理上手で羨ましいわぁ…』
「メイリンもお料理上手だよー!
この前作ってくれた
「あ、パンみたいなのにお肉が入ったやつねー。あれオレもすきー」
「こいつ甘ぇのばっか作りやがる上に、箸じゃ食えねェモンよこしやがるからな。ありゃ手で食えるから丁度いい」
『…理由が理由よね、くろぽん』
照れ隠しで思わず悪態を吐く。
そうこうしているうちに、サクラと小狼は下へ降りてきた。小狼は眉をハの字に下げて、いつもの様に、いつもと変わらないように笑っている。
「おはようございます。すみません、遅くなってしまって」
「おっはよーーー」
『おはよう、小狼』
「だいじょーぶ。今イイ感じに焼きあがったよ〜」
元気のいい挨拶とともに、カウンターへ乗っていたモコナが小狼へ飛び移る。きちんとキャッチした小狼は、モコナへおはよう、と優しく挨拶を交わす。
「黒鋼一人で食べ終わっちゃったー」
「食える時に食う。
何かあった時に困るからな」
『「わー、忍者っぽーい」』
「忍者だ!!!!」
そのうち、破魔竜王刃じゃなくて大玉螺旋手裏剣とか出すんじゃないだろうか?
私とモコナがハモったことで、モコナはグリグリ、私には拳骨が飛んできた。
朝から痛い。
「で、今日はどこにいくのー?」
「市役所へ、行きたいんです」
情報収集へ、そして昨日言っていたその人が、本当に小狼の知る“その人”なのか確かめるために。足は歩みを止めない。
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小狼と黒鋼が出掛けていき、〈猫の目〉も開店した。ゆったりとした時間は流れ、お店はまったりモードである。
サクラはキッチンで皿洗い。私はホールを掃除しながらオーダーを取っている。ファイは怪我も完治していないのでカウンターの外からでない。
ホールには私1人しかいないが、お客様も顔なじみの男性一人なので余裕である。
「すみません、」
『はーい』
「お会計おねがいします。
あと、メイリンちゃん」
『…なんですか?』
「あのおっきいニャンコさんと付き合ってるって、本当?」
『!?』
思わず手に持っていたお盆を落としかけたが。いや、いやいやいや。なんだそれどこから流れたそのデマ。どこソースだよ。
『そんんんな訳ないじゃないでせすか!』
「はは、メイリンちゃん噛んでる。思いっきり動揺してるじゃないの」
『だれが、誰がそんな世迷言を!!』
「昨日の騒ぎ、店で見てた奴がいてね。今掲示板大炎上中だよ〜」
あははは、と笑っていらっしゃるがなんでそんな大事になっているのか。
あと掲示板ってなんだ。そんなのあるの?!
「俺がデマだって言っといてあげよーか?」
『本当ですか!?お願いします約束ですよ!!』
「はいはい。可愛い顔して押しが強いなぁ」
バッジのようなお財布をレジへかざし、顔見知りのお客様はごちそーさん、と言い帰っていった。
片付けも終え、食器をサクラのところへ運ぶ途中。目的の方向からガシャーン!と盛大な音が聞こえた。
慌てて行くと、サクラが倒れてそれをファイがキャッチしたのだろう。
「…本当、いい子だねサクラちゃん。
他に構ってる暇なんてないオレが、幸せを願ってしまうくらい」
優しい声が、聞こえる。
私以外に向けたそれに、爆発しそうなくらいのモヤモヤが、口から溢れ出てきそうだった。
“付き合ってるって、本当?”という先ほどのお客様のセリフがループする。
本当なわけない。ファイはあの日の夜の話はしないし、させてくれない。私に応えるられる想いがあっても、応える覚悟がない…。
グッとこらえて、顔をひきづらないように笑顔を作り、何事もなかったように出ていく。
『ちょっと、すごい音したけど大丈夫?』
「あー、うん。サクラちゃん寝ちゃったみたい。ここのところ朝起きて頑張ってたからー」
『そう…なら、続きは私がやるわ。お客様ももう居ないし、サクラをソファに寝かせてあげて』
「はーーい」
テーブルから引いてきた食器を流し台においていく。
サクラの手についた泡を拭うと、ファイはお姫様抱っこで運んでいった。
「…メイリン、大丈夫?」
『大丈夫よ。モコナはサクラに掛ける毛布取ってきてあげて?』
「メイリンも、辛くなったら言ってね?」
心配そうに眉を下げるモコナをありがとうと、撫でて、私は洗い物に取り掛かった。
何かをしていると、無心になれる。
洗い物も終わり水道をキュッと閉めると、お店の扉が開いた音がした。
ホールにはファイがいるから、キッチンと交代しようとホールへ向かう。
ファイとお客様の声が聞こえ、知り合いが来たのか?と、耳を傾ける。壁に阻まれているため、あちらからは私は見えない。
「あー、貴方ひょっとして星史郎さん?
小狼君に戦い方を教えてくれたっていうー」
「小狼をご存知なんですか?」
「はい、一緒に旅をしてますからー」
「異なる世界を渡る旅、ですか?」
なんだか異様な空気を感じ、私はその場から出て行く。
『どちら様で、…お、鬼児!?なんでこんなところに』
「メイリンちゃん…!」
「おや、貴方も小狼の旅の同行者ですか?」
「メイリンちゃん、サクラちゃんをお願いねー」
ファイは笑っているが、瞳は笑顔とは言い難かった。そして笑っている場合じゃない。
「…星史郎さん、貴方はすごい〈力〉の持ち主のようだけれどー世界を渡る魔力はその右目の魔法具によるものでしょう?」
「さすがですね。これを得るために、対価として本物の右目は魔女に渡したので」
「けれどそれ、回数限定ですよねぇ。
渡れる世界の回数が限られてる」
「ええ。だから、少しでも可能性があるなら無駄何したくはないんです。
-----僕が探している2人に会う為に」
食えない笑顔を下げたマントのお客様、---星史郎さんは、横に付き従えていた鬼児をファイに襲わせた。
ファイはその場から飛び退くと、居た場所は床が抉れる程の攻撃が放たれていた。
『ファイ!!!』
「メイリンちゃんもモコナも、サクラちゃんの側を離れないで!!」
『でも、ファイ…!』
飛び避けながら、ファイは私達にも気を配り、
まるで攻撃が散らないよう自分に惹きつけているみたいだった。
しかし、……今のファイは、…。
とん、と着地した時ファイは顔を歪めた。
「おや、足を痛めてるんですね。魔力を使えばもっと楽に逃げられるでしょうに」
「でも魔力は使わないって決めてるんでー」
『……ファイ、…逃げてっ…!!』
「じゃあ仕方ありませんね。
----…さようなら。」
だめ、私も戦う…!!!と、口から溢れる前に、従えていた鬼児はファイの喉を目掛けてその鋭い爪を、勢いよく、放った。
咄嗟のことで、声が、出ない。
モコナの叫び声が、ぐちゃぐちゃになった部屋の中に響く。
『……ファ、イ?』
鬼児の隙間からは彼がしていた蝶ネクタイがボロボロになっているのがわかる。
ファイがどうなったのかは分からないが、原因ならハッキリしている。
俯いた顔を正面に向け、いつのまにか膝をついていた足はすく、と立ち上がる。
『…あなた、なんなの』
「貴方達と同類ですよ。願いを叶え、次元を渡る者です」
『なんで、ファイを……』
「必要なことなんです。彼は脅威になり得る」
違う言語を聞いているようだ。喋っていて、会話が成立していても、何を言われているか全く分からない。
私の頬に一筋涙がこぼれた。
『……』
「貴方には魔力をこれっぽっちも感じませんね。技術面でも、とてもじゃないがまだ未熟だ」
『……』
「貴方は脅威ではない。
立ち向かっても、無駄死にですよ?」
のらりくらりと薄っぺらい笑顔を提げている星史郎さんに、私はもう何をしたいのか分からなくなっていた。ただ、この人が許せなくて、怒りが頭で爆発しそう。
構える時間を与えず、私は星史郎さんに向かい力一杯飛び蹴りをする。が、周りの鬼児がそれを許さず、私の攻撃は難なく鬼児に防がれた。モコナの悲鳴が、また聞こえる。
そんな顔させたいわけじゃないのに。
「小狼が帰ってきたら伝えてください。
“小狼を待ってる、桜の下で”と」
『待て!!!』
サッとマントを翻し私の腹に星史郎さんが足技を一撃食らわせて、咄嗟のことに防御もせずもろに受けてしまった私は、彼を視界から外してしまった。勢いよく振り向くがもう時すでに遅く、居なくなっていた。
瞬間、店から外へ出て、鬼児が去って行くのを確認する。
『……モコナ、あとお願いね』
「だめだよ!メイリンも死んじゃうよ!」
『大丈夫。
アイツは、……ファイは死んでないよ。
やる事があるから死ねない、ってそう言ってたから』
それに、死んだら許さない。
私はモコナの制止も聞かず、鬼児が去っていった方向に駆け出た。
(嘘吐きの本当を捕まえて)