霧の国
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第一印象は、「変な子」だった。
願いの叶うミセにオレ達以外の訪問者が来たと思ったら、気を失ってるし。阪神共和国でも、にっこり笑ったオレに向けたのは好意でも悪意でも敵意でもなく、「気持ち悪いからやめろ」みたいな表情だったし。
ハジメマシテなはずの小狼君とサクラちゃんにずっとガン飛ばしてるし。
オレとしては、黒様と同じのいじりやすい子、だったはず。
そう、そのはずなんだけど。
高麗国の秘妖さんとの戦いの後、オレ達は先に行ってた小狼君が最上階にいるのを知って、あとを追う。
その後ろを遅れてやってきたメイリンちゃんに何かを察知したらしく、黒ろんが無言で腰に手を回し、俵のように肩に担いだ。
『ぅわあっ、何、てか高い!!黒鋼!降ろして!』
「耳元でギャーギャーうるせぇ。
足挫いてるだろ、お前」
その言葉に、無意識の方向から殴られたような錯覚に陥り、とっさに後ろに回り、メイリンちゃんの左の足首をきゅっと、捕むとその瞬間びくんと脈打つように彼女は反応した。
「足が遅いとめんどくせぇ。
黙って担がれてろ」
『……うん、お言葉に甘えるわ』
「……」
あんな戦いをした後だ。
怪我なんて当たり前。オレも黒ぽんもそれなりにボロボロだし、メイリンちゃんも足以外にも擦り傷や火傷のような後も見える。
彼女は自身の身で戦ってきた、武人だと言っていた。だが、メイリンちゃんは、まだ小さい女の子だ。小狼君やサクラちゃんよりも小さい。普通は男に頼るだろうし、頼ればいいと思う。
いや、違う。もっとオレに、頼ればいいのにと思ってしまう。
どうして、そう思うんだろう。
どうして、この子の怪我に気づけなくて、こんなにも無力だと感じているんだろう。
どうして、これ以上怪我してほしくないと、願ってしまうのだろう…。
オレは、こんなことをするために、ここに居るわけじゃないのに。
------------
霧がかかり、森も鬱蒼としている中、ザクザクと迷いなく歩くメイリンちゃんの背中を無言で見つめる。
静かな時に考えるのは、水底に沈むあの人や、今も健気に頑張っている小狼君や、今この後ろ姿しか見えない彼女のこと。
いつも騒がしいオレが人一倍静かなことに耐えられなかったのか、メイリンちゃんはバッと勢いよくオレの方に振り向く。
『何か、言いたいことがあるんならいいなさいよ』
「…足はもう大丈夫なの?」
迷いながらも口にしたのは、先日の怪我の具合だった。自身でもとこんな事が言いたいわげじゃないと分かっているがどうしても避けてしまう。----逃げ癖が、ついているのだ。
『大丈夫よ。
けれど、話はそれだけなの?』
「……」
オレの定まっていない、このよく分からない気持ちは、今は抑えておこうとしまい込んだのに。オレの事が気がかりだったのか、いつの間にかメイリンちゃんの顔が近くにあり、なぜか両手をぎゅっと握ってしまった。離れないで、ほしくて。
「オレ、あの戦いを通して、メイリンちゃんがどれ程強いかわかったよ。…けど、黒さまがメイリンちゃんの怪我を見抜いた時、すこーし心臓が痛くなったんだ。君が、怪我をする所見たくないのかなぁ…」
『け、怪我といっても挫いただけだし、そこまで大げさなものじゃ』
「でも、もしまた戦いがあって、メイリンちゃんが怪我をするタイミングがあったら----オレは迷わず止めると思う」
オレの心を矢で射抜くように、深いガーネットの瞳がオレを離さない。
何かを決意したみたいにオレの手を振り払い、メイリンちゃんは近くにあった手頃な岩を、------思いっきり砕いた。
「……………」
『情けないツラするな!
私は黙ってホイホイ護られるばかりのお姫様じゃないの!自分の身くらい自分で守れるわ!』
「……でも、」
『今回怪我したのは私のミス。しかも軽傷。あなたが痛がることじゃない。
…それでももし、私が怪我をするのを見たくないと目をそらすなら、それなりの覚悟と言葉を持って言いなさい。そうすれば考てあげる』
ふぅ、と息をつくメイリンちゃんに、オレは少し笑ってしまった。彼女があまりにも眩しくて、強くて、凛々しくて。
その光に当てられ、オレの迷いや戸惑いなんかは打ち消されたように無くなっていた。
その代わりに、オレは何時もの何でもない笑顔をつけて、彼女に接する。
「ひゅー、メイリンちゃんおっとこまえー」
『うるさい。…あ、でもあなた、びっくりすると黙るタイプなのね』
にやにやと見たことのない笑みを浮かべるメイリンちゃんに、思わず見とれてしまった。
そっけない彼女もここまで笑顔になるのか。
もっと、別の表情も見てみたい、と素直にそう思った。
しかし、あまり人に悟られるタイプではないことを自覚していたが、猪突猛進で何を考えているかよく分からない彼女に察知されるとは…。
くすり、とまた笑みが零れる。
相も変わらず彼女は「変な子」だが、オレに違う気持ちが芽生え、その気持ちはどう足掻いても消えることはない、と自覚するのはもう少し先の世界だ。
(この離れがたい感情の名前)