霧の国
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第一印象は、「変な子」だった。
願いの叶うミセにオレ達以外の訪問者が来たと思ったら気を失ってるし。阪神共和国でもにっこり笑ったオレに向けたのは好意でも悪意でも敵意でもなく、「気持ち悪いからやめろ」みたいな表情だったし。ハジメマシテなはずの小狼君とサクラちゃんにずっとガン飛ばしてるし。オレとしては、黒様と同じのいじりやすい子、だったはず。
そう、そのはずなんだけど。
高麗国の秘妖さんとの戦いの後、オレ達は先に行ってた小狼君が最上階にいるのを知って後を追う為部屋を出た。その後ろを遅れてやってきたメイリンちゃんに何かを察知したらしく、黒ろんが無言で腰に手を回し、荷物のように肩に担いだ。
『ぅわあっ、何、てか高い!!黒鋼!降ろして!』
「耳元でギャーギャーうるせぇ。足挫いてるだろ、お前」
その言葉に無意識の方向から殴られたような錯覚に陥る。咄嗟に後ろに回り、メイリンちゃんの左の足首をきゅっと捕むと、その瞬間びくんと脈打つように彼女は反応した。
「足が遅いとめんどくせぇ。黙って担がれてろ」
『……うん、お言葉に甘えるわ』
「……」
あんな戦いをした後だ。怪我なんて当たり前。オレも黒ぽんもそれなりにボロボロだし、メイリンちゃんも足以外に擦り傷や火傷のような後も見える。
彼女はオレや黒様と違い武器なんて持たず身一つで戦ってきた武人だと言っていた。
だけど、メイリンちゃんはまだ小さい女の子だ。小狼君やサクラちゃんよりも小さい。普通は男に頼るだろうし、頼ればいいと思う。
いや、違う。もっとオレに、頼ればいいのにと思ってしまう。どうして、そう思うんだろう。
どうして、この子の怪我に気づけなくて、こんなにも無力だと感じているんだろう。
どうして、これ以上怪我してほしくないと願ってしまうのだろう…。
オレは、こんなことをするためにここに居るわけじゃないのに。
*
霧がかかり森も鬱蒼としている中、ザクザクと迷いなく歩くメイリンちゃんの背中を無言で見つめる。静かな時、いつも頭の中にあるのは水底に沈むあの人や、今も健気に頑張っている小狼君や、今は後ろ姿しか見えない彼女のこと。
いつも騒がしいオレが人一倍静かなことに耐えられなかったのか、メイリンちゃんはバッと勢いよくオレの方に振り向く。
『何か言いたいことがあるんならいいなさいよ』
「…足はもう大丈夫なの?」
迷いながらも口にしたのは、先日の怪我の具合だった。自身でもとこんな事が言いたいわげじゃないと分かっているが、どうしても避けてしまう。---逃げ癖が、ついている。
『大丈夫よ。けれど、話はそれだけなの?』
「……」
自分の定まっていない、このよく分からない気持ちは、今は抑えておこうとしまい込んだのに。オレの事が気がかりだったのか、いつの間にかメイリンちゃんの顔が近くにあり、なぜか両手をぎゅっと握ってしまった。
どうしてか、離れないでほしくて。
「……オレ、あの戦いを通して、メイリンちゃんがどれ程強いかわかったよ。…けど、黒さまがメイリンちゃんの怪我を見抜いた時、すこーし心臓が痛くなったんだ。君が、怪我をする所見たくないのかなぁ…」
『?怪我といっても挫いただけだし、そこまで大げさなものじゃ』
「でも、もしまた戦いがあって、メイリンちゃんが怪我をするタイミングがあったら----オレは迷わず止めると思う」
オレの心を矢で射抜くように、深いガーネットの瞳がオレを離さない。見たくないのに、目を逸らさなかった。
何かを決意したみたいにオレの手を振り払い、メイリンちゃんは近くにあった手頃な岩を------思いっきり砕いた。
「……………」
『情けない面するな!
私は黙ってホイホイ護られるばかりのお姫様じゃない!!自分の身くらい、自分で守れるわ!』
「守れてないじゃん」
『うるさいわね!確かに今回怪我したのは私のミスよ。でも軽傷だし、次から気を付けるわよ』
「………」
『…なんで納得してなさそうなのよ。
ハァ。もし私が怪我をするのを見たくないって目を逸らすなら、それなりの覚悟と言葉を持って言いなさい。そうすれば考てあげる』
ふぅ、と息をつくメイリンちゃんにオレは少し笑ってしまった。彼女があまりにも眩しくて、強くて、凛々しかったから。
その光に当てられオレの迷いや戸惑いなんかは打ち消されたように無くなっていた。
その代わりに、オレは何時もの何でもない笑顔をつけて彼女に接する。
「ひゅー、メイリンちゃんおっとこまえー」
『うるさい。…あ、でもあなた、びっくりすると黙るタイプなのね』
にやにやと見たことのない笑みを浮かべるメイリンちゃんに、思わず見とれてしまった。
そっけない彼女もここまで笑顔になるのか。
もっと別の表情も見てみたいと、素直にそう思った。
しかし、あまり人に悟られるタイプではないことを自覚していたが、猪突猛進で何を考えているかよく分からない彼女に察知されるとは…。くすり、とまた笑みが零れる。
相も変わらず彼女は「変な子」だが、オレに違う気持ちが芽生え、その気持ちはどう足掻いても消えることはないと自覚するのはもう少し先の世界だ。
(この離れがたい感情の名前)