高麗国
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竜巻のように広がり私達の動きを封じる強酸性の珠は、凶暴なものだった。
「あー、あんなに早く動く上に、変形までされたんじゃたまんないなぁ。メイリンちゃんがお色気担当になっちゃうよー」
『お色気担当にはなりません!絶対に!』
「ぶよぶよと膨らんだり縮んだりしやがって」
あははーとこんな場面でも嘘の笑顔を貼り付けられるその根性は褒めてあげよう。
ふぅ、と深呼吸する。
気を巡らせ、相手の真意を付けとよく偉が言っていた。そうすると分かる。どれが意地悪くぶよぶよで、どれが固くて、どれが先ほどのようにすぐ割れるのか。相手の真意を感じ取り、一つ一つ棒で突いていく。
変形するものはビリヤードの要領で遠くへ弾き飛ばす。
「ひゅー、やるー。
メイリンちゃん何でわかるのー?」
『お師匠に気の巡りの読み方を教わったのよ。
残念な事に私、パワータイプじゃないからね。技術面でしか勝ち目はないの!』
「オレも力比べは苦手だなーー」
「ここまで耐えた人間は童共と過去戦ったことのある、この蓮姫の女秘術師だけだ」
女秘術師と聞き、はたと思考する。
他の二人も分かったようで、こんな時でもファイはフレンドリーに秘妖に伺う。
「それって春香ちゃんのお母さんかな?」
「…そういう名前の娘がおると言っていたな」
秘妖は懐かしむように、慈しむように思い出を口にする。
「この国に真に必要なのはあの馬鹿な現領主達ではなく、童達やあの女秘術師だろうが。
今、私はここから出られぬ身。
理不尽にも私を意のままに操ろうとする者の身の程も弁えぬ令を、聞かねばならん」
口にするのもおぞましいのだろう、綺麗な顔の眉間に皺を寄せ、領主達への恨み言を零す。
「名残惜しいが、童達。
----そろそろお別れだ」
先程などレベル違いの大きな、津波が私達の前に現れた。秘術の加速が、後を絶たない。
「わー、これ、最大のピンチとかいうやつかなぁ」
『やっばいわね…』
「まぁ、このままあれ食らったら死ぬだろうな」
「えーっと、それは困るかもー。
オレ、取り敢えず死ねないもん」
「……死にたくねぇのに、この事態になっても魔法とやらは使わねぇか」
「うん、ごめんねぇ」
きっぱりと、お茶を濁したような笑みで、煙を巻くような笑みで否定する。
この笑顔は、やはり嫌いだ。
「黒みーは?」
「俺もこんな所では死なねぇ。帰らなきゃならねぇからな。日本国に。
てめぇはどうなんだ?」
黒鋼の矢のような目線が、私を射抜いた。
『私も、やらないといけないことがある。
自分をきちんと知るために』
私が〈李苺鈴〉になった理由を、知る為に。
あなた達を苦しませない為に。
「…俺にゃあ関係ねぇが。
白まんじゅうはあの姫の羽根が見つかるまでは移動しねぇだろ。だったらさっさと済ませて次の世界へいく」
「オレも、あんまり一箇所にはいたくないかならねぇ」
「なんでだ?」
「……元いた国の水底で眠っている人が、もし目覚めたら追いつかれるかもしれないから。オレは逃げなきゃならないんだよ、いろんな世界を」
笑顔に隠した、後ろ向きで、終わりのないように聞こえる願い。
そこに希望は、ゼロなんだろうか。明るい光は差しているのだろうか。
私と黒鋼は押し黙るしかなかった。
「最後の話は終わったか?」
「さーて、どうしようかー?」
「……おい、」
久しぶりの客の話を待ってくれていた秘妖も流石に待てなかったのだろう。
秘妖の指に習うように波は私たちに襲いかかった。
だが、そこの合間を縫ってファイが秘妖の懐に飛び込む。あとを追うように私が使っていた棒を、波を目隠しに槍投げの勢いで飛ばす。
「死に急ぐ気か、童よ」
私達の話に耳を傾けていたら、この時の秘妖はもう少し手強かったかもしれない。
飛び込んできたファイの背を足場に、伏兵として現れたのは、黒鋼だった。
一瞬の隙をつくように現れた黒鋼だっが、自身が攻撃する前に、秘妖の強かな爪が黒鋼の胸元を深く刺した。
『黒鋼!!』
「だいじょーぶ」
「……なかなかの、策士だな」
秘妖の爪に刺さって出てきたのは、阪神共和国から持ってきたマガニャンだった。
ぴん、と張っていた緊張溶け、へなへなとその場に座り込む。
「俺ぁ雨が嫌ぇなんだよ。だから、さっさと止めろ」
近接戦では、黒鋼に武がある。
秘妖の額にはめ込まれていた綺麗な黒曜のような石は黒鋼によって粉々に砕け散った。
その影響か、秘術が消え先程までいた城内部に風景が変わった。
「また妙なことしやがったら…」
黒鋼の戦闘態勢は崩れない。しかし、秘妖はしゃなりと黒鋼の頬に手を添え、唇と唇を重ね合わせた。
思わず赤面してしまい、見てはいけないものを見た気分だった。
「てめっ!次はなんの術かけやがった!」
「今のは礼だ」
『黒鋼って恋人とか出来なさそうよね…』
「ね、ね、オレともするー?」
『しない』
秘妖は礼だと言ったが、あんなに綺麗なら自分のキスは礼になるのか…。
へにゃへにゃと近寄ってくる魔術師を押し退ける。なにがしたいんだよ。
「私はあの石に込められた秘術で、領主に囚われていたのだ」
「…あーー、なるほど。それを黒ぽんが壊したんですねぇ」
「これで私は自由だ。あの馬鹿な領主親子より、余程気骨がある童達の行く道を塞ぐ気もない。--知りたいのは領主の居場所だったな。この城の最上階に奴はおる」
何故こうも、馬鹿と煙とラスボスは高い所に登るんだろうか。緊張が一時解けてしまった私は今、そんなことしか考えられなかった。
「そこの童女より少し大きな童は先に辿り着いたようだな。…また卑怯な手を使おうとしているな、あの
小狼と領主の居場所が分かった私達は、最上階を目指すことになった。
二人が歩く後ろを見つめ、なんとか跡を追う。
「待て、童女」
『はい?』
「お主の最後の一撃、見事だった。…しかし、数奇だな。華美な香りをしながらも、お主は秘術が使えぬのか」
『ありがとう。うちの一族なら大概使えるんだけどね、残念ながら私はからっきしよ』
はは、と乾いた笑みしか響かない。
すると、秘妖がしゅるりとどこからか羽織を取り出し私の肩にかけた。
「女子(おなご)の肌に済まぬ事をした。
礼にこれをやろう。お主の御魂は、私には心地がいい」
ちゅ、と頬に口づけをされ。
思わず真顔になってしまった。え、何?なに?フラグ立った?いつ?!
「メイリンちゃーーん、早く行くよー」
「ゆくがいい、童女よ」
『はい…』
少し赤らんだ頬を冷ますようにぱたぱたと扇いで、二人の元へ向かう。
「なになにー?どうしたの、その羽織り」
『秘妖さんが、持っていけって』
「…」
ぱたり、黒鋼は歩みを止め、追いついた私の顔を眺めると、腰に腕を回し、そのまま俵のように肩に担いだ。
『ぅわあっ、何、てか高い!!黒鋼!降ろして』
「耳元でギャーギャーうるせぇ。足挫いてるだろ、お前」
その言葉にファイが後ろへ回り、私の足を確認しだした。
左の足首をきゅっと、捕まれその瞬間ビリリと電気が走ったように痛む。
自分でも気がつかなかった…。
「足が遅いとめんどくせぇ。
黙って担がれてろ」
『……うん、そうね。お言葉に甘えるわ』
「……」
面目無い、と沈んでいた私には、この時のファイがどんな表情をしていたか、分からなかった。
あれから最上階へ上がり、小狼が居て、置いてきたはずの春香、お姫様もいた。
歩みを止めず領主へ羽根を返せと言い寄る小狼の姿は、獣の様に見えた。
しかし往生際が悪いクソ領主は「羽根を使えば母を生き返らせることができる」などと戯言をほざくが、春香の心には響かなかった。
“失った命は戻らない”それが世界の理。魔術師でも、例え世界一の魔力を持ってしても、強く願っても。
異世界にいたところで、なんら変わらず無情に機能する理だ。
最後の足掻きも通じなかった領主は、追い込まれる所まで追い込まれ、その後ろから----秘妖が現れ、憎らしいものにやっと手を出せると大事に大事に抱え込んだ。
「では、またな。可愛い虫けらども」
そういうと、秘妖さんはドロドロとした中へ領主を引きずり入れた。
パリパリと羽根が入っていたカプセルがひび割れ、とうとうその身をさらけ出した。
ここからじゃよく見えないが、お姫様に羽根がおびただしい光を放ちながら中にはいなっていった。
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後日談。
本日旅立つということもあり、元の服装で春香の家から出ると蓮姫の人たちが見送りに来てくれた。
「ありがとう、領主をやっつけてくれて」
「おれは何もしてないよっ」
謙遜、というか本当に小狼はここの人達に対して何もしていない、と思っているんだろう。だが、春香はそんな小狼を言うことに首を横に振る。
「あの城の秘術が解けなかったらずっと領主には近づけなかった。だから、小狼達のおかげだ」
「いや、本当におれは何も…」
「こっちこそありがとぉ。春香ちゃんにもらった傷薬、よく効いたよー」
『えぇ、あちこち傷ばかりだったけど、すぐ治るのね。すごい』
そう告げると、春香は誇らしげににっこり笑った。
「母さんが作った薬なんだ!
私にはまだ無理だけど、でも頑張って母さんに恥じない秘術師になる」
「なれるわ、きっと」
お姫様は優しい笑顔で手を握り、魔法のように前向きな言葉を送った。
高麗国を後にして。
(ずっと笑っていて)