桜都国/桜花国
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あのあと、ゆっくりと桜都国を回りながら考えていた。ファイのことじゃなくて!!この世界のことを。
なんだかんだ言って街を回るのはこの世界へ来て初めてのことだから、見学も兼ねてだけれど。私は休憩がてら飲み物を買い、ベンチへ腰掛けた。
----それにしても、だ。私には情報が少なすぎる。あのカフェで情報収集するのも手ではあるが、やっぱりそれじゃ少ない。あの子達以上の情報が、今の私には必要だ。
この国の不信感や、私達異世界人が都合よくお金や家や職が違和感なく手に入ったり、鬼児と呼ばれる敵が突然家に上がり込んできたり、しかも戸籍登録も偽名でオッケーだったり。謎が多すぎる。
ズゴゴゴと、いつの間にか空になった飲み物を見て、取り敢えずまた散策しに行こうと腰をあげると、目線の先で買い物袋を道端にぶちまけている女の人がいた。
思わず木之本さんを思い出し、見ていられなくなり転がってきたオレンジを拾い、彼女に手渡した。
「あら、拾ってくださったの?ありがとう」
にっこりと微笑むその女性は、とても綺麗でどこか見覚えがある気がした。
カールした長い黒髪を耳にかける仕草は艶やかで、傾国の美女、という言葉がやけに似合う。
『いえ、昔危なっかしい友人がよくやってたのでつい。…こんな大量の果物何に使うんですか?』
そう、女性の足元にはオレンジのほかに、林檎や檸檬、グレープフルーツなどが大量に転がっていた。絶対袋小さかっただろうに。
「私近くでバーをしてますの。その開店前の買い出しで」
『バー、ですか…』
バーと言えば、酒場。RPGや、異世界ものでよく情報が出たり入ったりする場の1つだ。
これは、いいかも知れない。
私はぐっと決意を固めて、黒目がちな女性にアプローチした。
『…よかったら、この荷物一緒に持って行きましょうか?』
彼女はにこりとまた笑い、是非と綺麗な声で思っていた通りの返事を返してくれた。
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移動中、彼女色んなことを教えてくれた。まず、名前は
「貴方、お名前は?」
『メイリンといいます、最近こちらへ来たばかりで』
と、そうこうしているうちに〈白詰草〉に着いたようだ。カランと、扉を開けると、バーテンダーらしき褐色の女性がグラスを拭いていた。
「おかえりー織葉さん。…と、その子はお客さん?」
「道端でちょっと助けていただいたのよ。カルディナ、なにかお菓子とかお出しできるものあったかしら?」
カルディナ、と呼ばれた褐色のバーテンダーさんは、そんなら確かここにー、と戸棚をがさごそと漁る。
織葉さんは荷物をバーカウンターに起き、私にどうぞ、と椅子を引いてくれた。素直にそこへ座ると、シフォンケーキとグレープフルーツのジュースがそっと出てきた。
「お客さんからの貰いもんやから、ドーゾ」
織葉さんとは対照的に、ニカっと笑うカルディナさん。いただきますと、手を合わせて、ありがたくフォークでシフォンケーキをさし、口へ運んだ。
『美味しいです、ありがとう』
「いえいえ、うちの歌姫さん助けてくれたらしいし、お礼もかねてやから。
あ、そーや、織葉さん。今日のステージで織葉さんの前座する子、昨日怪我してもうたみたいでな」
「あらあら、残念ね。そしたらセットリスト変えないといけないわね」
私のことを気にせず、今日の打ち合わせをしだす2人。いや、ちょっと待って、これめちゃくちゃチャンスじゃない?
ガタリと、椅子から立ち上がると、あの!と声をあげた。いきなり私から声が上がるものだから、2人とも揃ってこちらを向いてくれた。
『その前座って、私じゃダメですか…?』
「え、…いやシンガーとしての前座やで?」
『はい、織葉さん程ではないと思いますが、歌は少しなら』
「…くす、面白い。なら見せてもらいましょう?」
織葉さんのその一言で、すぐさまステージの準備が整った。マイク、音響、ステージライト。全て本番と同じようにセットしてくれた。
年端もいかないこんな小娘を試してくれる、ここで受かれば情報が入るかも知れない。丁度いい。
私はアカペラのまま、パッと思い出せた大道寺さんが歌っていた歌をそのまま口ずさんだ。
歌い終わり、ふぅ、と息をついた後に、パラパラとした拍手が聞こえ、織葉さんが「合格♡」とまたにこりと笑った。
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私は一度喫茶店には帰らず、そのままカルディナさんに控え室でメイクやヘアアレンジをしてもらっていた。
「メイリンさんの出番はあと2時間くらい後やし、ウチもお店の準備あるからちょっと早めに準備しとこっか」
『はい。あの、ドレスも貸していただいてありがとうございます』
「ええよ。ウチらもほかに前座の子探さんで済んだし、何よりメイリンさんお歌上手やったし。……ってあれ?メイリンさんもうお化粧してた?」
忘れてた。昨日眠れなくて、クマ隠しにコンシーラー塗ってたんだ…。
ファイのことは、……ひとまず、ひとまず置いておこう。
『ア、ハハハ…。その上からで大丈夫ですよ』
「ん、ほな、完成かな」
髪はおろして、織葉さんより緩めのウェーブをかけてもらった。出された赤いボリュームのあるドレスでとても可愛らしい。
リップとグロス、チークと少し影のあるアイシャドーをまぶたに乗せたら、ヒールも相まってギリギリ二十歳に見えるようになった。
顔だけは整ってるから為せる技だろう。お母様に感謝だ。
「めっっっちゃかわええね!
こりゃ今日のひとステージだけで、
『ありがとうございます。あ、出番までバーカウンターで座っててもいいですか?』
「そりゃええけど、煩いし絡まれるかも知れへんで?」
『大丈夫です!いざとなれば腕っ節にも自信があるので!』
そう言うとカルディナさんはカラカラと笑い、ほな行こうかと控え室の扉を開けた。
開店と同時に複数の常連さんが来店し、各々思い思いの席へ腰を下ろす。バーカウンターだったり、4人がけの席だったり。初めは私もオーダーのお手伝いをして、お客さんへ話を聞いていたが、イマイチな情報が多い。
だが、本番直前の、一個隣の席の男性二人組が話していた。
「最近、指定ポイントじゃないところで鬼児がよく出るって噂があるよな」
「あー、それ友達の鬼児狩りのヤツもボヤいてたぜ。どこに出るかも、どの等級の鬼児が出るかも最近ランダムになってきたってなー」
「あぶねーって感じた奴らは、一回国外へ出たって話も聞いたなぁ」
「それは流石にビビりすぎじゃねぇの?
オレはそんなんにビビらないよ!でもメイリンちゃんは、か弱そうだから一回
『あははは…そうかも知れませんね~』
言い方はムカつくし、なによりお前らより強いから大丈夫だ、と言いたいが今はダメだ。堪えろ。手を握られて不快だけど、相手は酔っ払いだ。正月に会う親戚の叔父上か何かだと思えば大丈夫。
『あ!そろそろ私の出番だわ、準備してきますね!』
「楽しみにしてるよ~!」
「織葉さんの前座だからって、緊張せずにねぇ」
ありがとう、とその場を後にした。
しかし、気になる情報を得れたのだからここにきた甲斐もあった。あとは情報を整理して、羽根を見つければ…。と気がついたらステージの前だ。
ステージへ上がり、雰囲気のある照明がゆっくりと私を照らした。酒を煽る人たちの談笑は止まず、しかしこちらに興味の眼差しを向ける人も中に入るが、ほとんど期待はされていないようだ。私の求めることはもう終わったに等しいが、しかし、私の言いだしたことだし、報酬も少なからず出るそうだ。
気持ちを切り替え、すっと息を吸いこんだ、その時、店の外がやけに騒がしくなった。
(誰にも負けない私であれ)
(それは