桜都国/桜花国
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「…取り敢えず、ここでの服を一通り買ってきたからー。みんな着替えてー」
ファイは大きな袋から一人ずつ服を取り出して手渡していた。
先ほどの混乱から抜け出せていない私は、まだその光景を呆然と眺めていた。
「ほい、これメイリンちゃんの。一応動きやすくて好みっぽいのオレが選んでみたから着てきてよー。…モコナと一緒に」
『…え?』
「オレ達は、着替えたらここをリニューアルしてるからさー。ゆーーーーっくりでいいよー」
にこにこと手渡された服一式を持って、モコナと自分の寝室へと向かった。あまり頭が回ってないが、なんだか気を使われたような気がする。
部屋に入ってもまだ曇りが晴れない私の表情を見て、モコナが心配そうに顔を覗かせた。
「メイリン、大丈夫?」
『…ええ。でも、モコナに一つお願いがあるの』
「なに?モコナ、メイリンが元気になるんなら、なんでもするよ!
モコナが出来ること、少ないけどモコナがんばるよ!」
そう言ってくれる小さな白くてふわふわな超生物を、優しくふんわりと撫でてありがとうを伝えた。
へこんでたわけじゃないけど、なんだか励まされた気分だ。
『モコナ、有難う。
…私を次元の魔女と話をさせて』
「うん、分かった」
モコナが瞳を閉じると同時に、額の石が淡く光り、映写機のようなものとして映ったのは黒髪の綺麗な女性、壱原侑子その人だった。
〈待ってたわ。貴方自身からあたしにコンタクトをとるのを〉
『それはドーモ』
いつの間にかモコナの声はなく、眠ってしまったのだと認識した。この魔女なら、それが出来るから。
『…私の聞きたいこと、分かるかしら?』
〈んー?あー、そうねぇーー。ねー、四月一日お酒まだーー?〉
『昼から飲んだくれるな!!』
ああそうだ!!思い出した!この魔女は基本ダラシないんだった!!
忘れていた私はバカか!?なんだよ、四月一日くんもへこへこお酒持ってこないでよ!!
〈…で?貴方がどうして未来の出来事も、なにもかもを忘れてしまったか、の話だったかしら?〉
『……ニヤニヤしてると本当に魔女みたいね、イラつく』
〈後期高齢者のおばあちゃんみたいね、メイリンは〉
ふぅ、とキセルから唇を離し煙を吹く姿は絵になる。
が、からからと笑いながら昼から呑んだくれている様は小狼達には見せれないと悟った。あんなに頼りにしている魔女が、こんなだらしなく人の話を聞かないだなんて知ったら、次元の魔女の評価が下がる下がる…。私の知ったことではないが、それこそ原作にヒビが入りそうだ。
〈じゃあ逆に聞くけど、貴方はどこまで覚えてるの?結末?それとも概要?〉
『私が、覚えている、…のは』
私が覚えているのは一体なんだろう、と頭を巡らせて考えてみる。
高麗国は覚えていた、霧の国も、その前の阪神共和国も。けれどジェイド国ははっきりと覚えてなかった。まるで知らなかったように。
そして、この国も。次の国なんて以ての外、ってくらい覚えがない。
ただ、黒幕やその目的、旅の途中でみんなの気持ちが離れることは分かる。覚えている。
〈けれど、それらがどういう経緯で、どのタイミングで起こるかは分らない〉
『…えぇ』
〈まぁ、一つだけ明確なのは、彼が貴方の持っていた「この先起こること」の記憶を封印した、ということね〉
彼、彼、彼。
あの憎もうとも憎めない、けれど憎まなくてはいけない、消さなくてはいけない夢の根源。
彼がなにをしたのか、はっきり覚えていないけれど、彼は取り返しのつかないことを、みんなにした。
黒鋼にも、お姫様にも、小狼にも、ファイにも。
そのために彼らは傷ついて、失って、血と涙を流す。私はそれを少しでも失くすためにいる。
失いたくないなぁ、とらしくないことを思うのだ。
『私ね、実は最初ちょっぴり嫌だったのよ。
どーして私が定まってるものの中に、異物として入らなくちゃいけないの?そっちは勝手にやっとけば?って』
〈…えぇ〉
『けどね、来てみて分かった。
彼らはいつも揺らめいて、定まってなんかなくて、どこか弱くて。だから、私は彼らの役に立ちたいの。もっともっと、強くなりたいの!』
〈……決まったようね、心が。なら、貴方にこの力を預けましょう〉
魔女が凛と言い放つと、私の体の周りに金色の蝶々がひらひらと舞い踊った。
『こ、これ、夢の中のあなた…?』
〈いいえ。これは貴方の巧断。一度会ったことあるでしょ?あたしはその子の体を間借りしてただけ。夢の中じゃないと、あたしからの接触は無理だったから〉
手に留まる蝶々を見て、思わず感嘆を吐く。だって、あまりにも綺麗だから。
〈その子の能力は、電気を纏い留まった箇所の力を3倍する。ただし、その子一匹だけだから、一度に片手や片足にしか使用できないけどね〉
『…だから、あの時硬いシャチホコがクッキーみたいに割れたんだ』
思い出すのは、阪神共和国での誘拐事件。正義君とモコナと私で、プリメーラに捕まった時のこと。
あの時は、私の脚筋がとんでもないことになったのかと思ったなぁ。
〈その子に名前を付けなさい〉
『名前?』
〈名前は使役の証。貴方がその子を使役するための鎖よ〉
『……
〈決まったかしら?〉
ダメだ、一度思い込むとブリを頭から丸ごと食べて、口から電気を放つ魔物の子供しか思いつかない。
『…ベル。』
〈なんとも適当ね。まぁいいわ。この子に助けてもらいたい時はその名を呼びなさい〉
ひらひらと悪気もなく宙を漂う蝶々、もといベルが相棒になった。
それが私の手助けになるように、そっと行方を見つめて、また視線を魔女にもどす。
『…この子の対価は?』
〈言ったでしょ。その子はお釣りみたいなものよ〉
なんの、と聞くことは、彼女の表情を見て億劫になってしまった。それが手に取るように分かったのか、魔女はまた、曇った表情で言う。
〈まだ言えないの。その時じゃないから〉
『…なら、待つわ。その時になる日を』
プツリときれる彼女を移す光りを追うと、どうやらモコナが起きたみたいだ。バイバイ、なんていう間柄でもないから、いいか。
さっきより軽くなった気持ちと頭に、少しの不服に感じながら、今度彼女の元に何か送ろうかな、と思いを馳せた。
(悪意の先を見据えて)