桜都国/桜花国
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昨日の騒動はそれとして。
調度品としてあったベッドで有難く睡眠を貪らせてもらった翌日。
チュンチュンと窓の外で鳥が囀ってるのは分かっていても目が開けられなくて、ベッドで横になっていた。
その時、ドアを押し開ける音がした。
「あ、まだ寝てたんだー。おはようメイリンちゃん」
『………んー、ファイ?』
「面白いくらい無防備だねー、朝のメイリンちゃんって」
ギシっと、古いスプリング音を立てて、私のベッドの傍らにファイが座る。私の瞼はまだ開こうとせず、脳もあまり動かない。
「今から小狼君と、昨日のお客さんのことを聞きに市役所へ行ってくるよ」
『…ま、って。私もいく』
眩しい朝日に打ち勝とうと、がんばって瞼を上へ上へと押し上げるけれど、まだ上がらない。無理だねむい。
気配としてファイの姿は捉えているけど、開き切らない。こんな姿では置いて行かれる、とファイの腰辺りにぎゅっと腕を回した。
「わー、メイリンちゃんが朝から大胆だぁ」
『………今おきるから、おいてかないで』
「…そんなこと、オレ以外にして欲しくないなんて言ったら、また怒られるかな?」
さらさらと髪が撫でられる感触はわかった。
意識のはっきりしてない今の私にその言葉を言われても、私の胸には届かなかった。
「眠ってるときは、本当に可愛いお姫様なんだけどなぁー」
いつの間にか睡魔に負け、意識は底に落ちてしまった。
ファイがそっと私の額に口づけをした、なんていうのは知らない話だ。
ーーーーー
あれから、思う存分寝て、やっとの思いで起床。その後は、まぁ軽く身嗜みを整え、黒鋼がいる大きな広間へ向かった。そこには、床に座っている黒鋼と、なぜかソファで寝ているお姫様の姿が。
『おはよう、わんわん。そのお姫様、もしかして寝て起きてまた寝たの?』
「誰がわんわんだ!!…あぁ、ぼーっと座ってると思ったら、いつの間にか寝こけてやがった。ったく、どこの姫も緊張感ってもんがねぇ」
『まぁ、そこで布団をかけてあげるんだから、存外黒鋼も優しいわよねー』
優しい、と言われ不服だったのか、黒鋼は言葉を詰まらせムッとする。
そうこうしている間に、市役所へ行っていた小狼とファイが帰ってきた。
『おかえりなさい、小狼。
あと、連れて行ってって言ったのに、私のことを放置したファイも、おかえりなさい』
「うわー、帰ってきて早々嫌味だー。ただいまー、メイリンちゃん」
「た、ただいま帰りました」
なにかいいことがあったのか、心なしか小狼の口元が綻んでいる。それだけで、私をむざむざと放置したファイへの恨み辛みが鎮静されていくのだから、私はどうやらいとこバカらしい。
「あー、えっと、黒わんたいい子でまってたー?おみやげ買ってきたよー」
「だから犬みてぇに呼ぶな!」
「あのねぇ、オレ達の仕事決めてきたよー」
「あぁ?」
『仕事?』
「小狼君と黒わんは鬼児倒して、んでお金持って来てー」
身振り手振りでファイが説明するも、お留守番していた私たちには理解が難しかった。というかコイツは分かるように説明しない。
そのことをオブラートに包むわけもなく、黒鋼はくるりと小狼の方を向き、一からの説明を仰いだ。
まぁ、それに素直に応じちゃう小狼も小狼なのだけれど。
「鬼児っていうのは…」
「おう」
『うん』
「……えーーーん。黒わんころとメイリンちゃんがほったらかしにしたーー浮気だー」
「ファイ、泣いちゃだめー!」
「嘘泣きはやめろ!」
『浮気ってなによ!!』
そんな遊びたい盛りのファイは放っておいて、小狼の説明をきちんと聞く。どうやら、鬼児っていう敵がいて、それを倒すのを生業としている“鬼児狩り”という存在がいる。その存在がいるから、一般市民は安心して暮らせる、らしい。
『私もそれやりたい!』
「え、えっと、鬼児狩りは2人組で構成されてて、」
「俺の獲物取るんじゃねぇよ、小娘。久しぶりに、退屈しのぎになりそうなモンを」
にやりと、笑う黒鋼はまるで飢えた獣のようだ。けれど、そこに狼狽えているようでは、中国拳法の達人の名と技が廃る。
私は、強くなりたいのだ。
『…まぁ、黒鋼が何にもしなかったら本格的にただのデカいプー太郎だしねぇ。ここは私がオネーサンになってあげるわ』
「んだよガキのクセに」
『レディと呼びなさい馬鹿者!』
何だかんだノリノリの黒鋼に鬼児狩りを譲ってあげた。
「けど、お前はいいのか?」
「え?」
黒鋼はワクワクを押し殺したのか、次の瞬間からは大人の顔つきになり、小狼に問いた。
「鬼児ってのがどれくらい強いのか分らねぇが、それを倒す仕事があって、金が支払われるってことは、素人じゃ手が出せねぇってことだろう」
それに、と続く言葉の代わりに、黒鋼は小狼の顔をじっと見て、突然小狼の右側の前髪を力の加減もせず掴み上げた。声を上げようとしたのも束の間、黒鋼が言葉を発した。
「右目が見えてねぇな」
その場にいる、ファイとモコナも、もちろん私も息を飲む一言だった。ーーーしかし、私の場合は理由が違う。
私は、小狼の右目が見えないことを知っていた。
知っていた、けれど、今の今まで知らなかった。いや、---覚えていなかった。こんなに重要で、忘れがたいことなのに、今後にも深く関わることなのに、覚えていなかった。
私は、原作を完全に忘れている?
記憶違いや、思い過ごしではなくて、本当に?
そのことが頭の中を支配して、この後の黒鋼の言葉が理解できなかった。
いつの間にか、小狼と黒鋼の話が終わっており、一緒に鬼児狩りをするという流れになっていた。
「ーーーメイリンちゃんも異論はないよねー?」
『……え?あ、うん』
「…メイリンちゃん?」
『な、なんでもないわ!大丈夫!』
何だか胸騒ぎがする。
このモヤモヤを、明確化しないと。疑問符をなくさないと。打開策を立てないと。
だって私は、〈原作〉の道を逸らすためにここにいるのだから。
(ハテナのその先を見据える)