桜都国/桜花国
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何回目かになってやっと慣れてきた世界を移動する感覚と、毎度の着地をしたら、もう雪国ではなかった。
期待と不安が胸中をせめぎ合っていると、ファイがきゅっと手を繋いできた。
『…き、急になに?』
「メイリンちゃん、眉間にしわ寄ってて黒ぽんみたいだったから、こうしたら和らぐかなーって。さーて、今度はどんな国かなー」
なんだかはぐらかされた気分になりつつも、ファイのこの言葉で気を引き締める。
すると、予想していなかったお出迎えをされた。
「ようこそ!桜都国へー♥︎」
なんと、綺麗なお姉様方のお出迎えだ。
お姉様方の腕を見ると、一人ずつ「歓迎する課」という腕章をつけているところを見ると、ここは旅人がよく来る国なのかな?
なんて考えていると、私たち一人一人にお姉様が寄ってくる。
「わー、可愛い女の子がいっぱいだー」
「まとわりつくな!」
『近くで見ると本当に綺麗な人たちね』
雰囲気が小狼のお姉様達みたい、と思うと自然にここにいる小狼に目がいく。まぁ、想像通りのあたふた感だった。あと、なぜかお姫様も。
「あらあら、みなさん変わった御衣装ですね。異世界からいらしたんですか?」
「異世界から人が来ることもあるですか!?この国では」
「もちろん。この国を楽しむために、皆様いろんな国からいらっしゃいますわ」
『へぇ、だから「歓迎する課」なのね』
「はい。まだ住民登録されてないんですか?」
『ええ』
肯定すると、歓迎する課のお姉様が血相を変え、大きな声で「それはいけないわ!」と言った。
「早速、市役所へお連れしなければ!!」
「ささ、参りましょ!」
「参りましょ!」
「「はーい」」
ノリノリで手を上げるのはもちろん白い人と白い超生物。小狼とお姫様はまだあわあわとしているのに、この白い奴らは…と思わずため息が漏れる。
お姉様方に連れられてやってきたのは、市役所の「すぐやる課」という窓口だった。手続きを、とのことなので、色々な方面に嘘が得意なファイと、色々な国へ行き知識が豊富な小狼が手続き代表として赴いた。
私と黒鋼とお姫様(うとうとしてる)とモコナは後ろで荷物番中だ。
「桜都国へようこそ!
こちらにお名前をどうぞ。今まで使われていたのと違っても大丈夫ですよ」
「んー♪
偽名でいいってことかなー?」
「はい」
「んじゃ、オレがみんなの分も書いとくねー」
おっと、なにやら不穏な会話をしてるのが聞こえてくる。あまりよく聞こえないけれど、本能があの白いアホを止めろと。殴ってでも止めろと言ってる。ので、実行に移した。
「あれー?メイリンちゃんどうしたのー?寂しくなっちゃったのー?」
『殴ったんだから痛がりなさい!…コホン、じゃなくて、私ここの字読めるから自分のは自分で書くわ』
「えーーー…」
「では、こちらの書類にお書きください」
よし。私だけでも阻止できたところで、書類を埋めよう。
横でファイがぶーぶーと文句を垂れてるけれど、無視だ。
『これでお願いします』
「オレもできましたー」
「ファイさん、それは…」
「はい、承りました。では、ご職業はどうなさいますか?」
『職業?』
「この国では旅人も働かなくちゃだめなのー?」
「構いませんが、働かないとなにも出来ませんよ?」
「そりゃそうだねー」
ファイのセリフを重複するようだけれど、そりゃそうだ。今までが都合よすぎたのだ。
下宿屋にタダで泊めてくれるおしどり夫婦だったり、匿ってくれる孤児だったり、不気味なお医者さんだったり。
振り返ると、いい人ばかりではないけれど、こんな旅に野宿がないのは単純に有難いし、すごいと思う。
「とりあえず、住む所をお決めになりますか?良い物件をご紹介しますよ?」
「あの、この国の通貨は?」
「園(エン)です」
『あ、なるほど』
「メイリンちゃんのところは園だったのー?でも、さすがに持ってないよねぇ」
『ええ』
どうしようかー、なんて話していると、すぐやる課の人が「何かお持ちの物があったら換金できますよ」と持ち掛けてくれた。なんだか、日本にも似ているけれど、どことなくRPG風なのは何故だろう?
「そうなのー?
黒わんわーん!袋持って来てー!」
「人を犬みてぇに呼ぶなー!!」
『いや、それが当たらずしも遠からずなのよね。大型わんわん』
「あはは…、メイリンさん」
ーーーーーーー
こうして私たちは、住む家を手に入れた。
新しい家(他人の家以外)でまず見るところは、お風呂よね。
ってことで、私はこそこそと探検中です。
小狼達は大広間的なところでゆっくりしているけれど、私はなんてったってお年頃の女の子。ジェイド国には湯船に浸かる、という風習がなく、私は今猛烈に風呂に入りたいのだ。
『どーこーかーなーー。…あ、発見!バスタブだわ!!』
折角だからお湯を張ろう。なんてったって下宿じゃないのは異世界旅初。しかも文化的に近い世界なんて滅多にないんだから、ゆっくり長風呂の予定で。バスボムとかあればよかったんだけど、そこまで贅沢も言ってられない。
キュッキュッと蛇口を捻って触って熱いくらいのお湯を早速張る。
『あ、黒鋼も日本人よね。なら、お風呂は浸かる派かしら』
と、日本国のお風呂を一人想像するけれど、どう考えてもヒノキ風呂とか露天の岩作りの温泉しか想像できない。が、目の前にあるのは、木製でもなければ、むしろ東洋のものでもない猫足のバスタブ。
ダメだ、黒鋼が可愛らしいバスタブに浸かるとか面白すぎる…!全体的にパンパンだ!!
想像が面白すぎてルンルンでお風呂にお湯が着々と溜まる様を眺めなていたら、小狼達がいる部屋から窓ガラスの割れる音がした。
お湯を止める暇もなく、反射的に慌てて向かうと、謎の生き物と相対している小狼達の姿が視界に飛び込んできた。
「わー、お家借りたらいきなりお客さんだー」
「招いてねぇがな」
『これなに!?』
「メイリン!あぶないよ!」
「メイリンちゃん!!」
ファイの叫ぶ姿に一瞬きょとんとしたけれど、次の瞬間、斬撃が飛んできたので、飛ぶように避けた。
すると、謎生物は標的を私から小狼にチェンジして、小狼を襲った。軽々と躱す小狼だが、一瞬反応が遅れてしまったのか、皮膚が勢い良く斬れる音が聞こえた。
しかし、そんなことには気を取られない小狼は、難なくその謎生物の脳天にかかと落としを食らわせた。
『お見事』
「お疲れ様ー」
「おつかれさまー」
「はい、メイリンさん大丈夫でしたか?」
『避けたの見てたでしょ。それに、怪我してるの小狼の方じゃない』
もう!と怒ると、小狼はわたわたとしてしまった。
…こっちの小狼とのコミュニケーションむずかしい。ぎこちない私たちを、複雑な表情で見ているファイがいるとは知らず。
「…可愛い女の子が出迎えてくれたり、綺麗な家しょうかいしてくれたり、親切な国だと思ってたけど、結構アブナイ系なのかなーー」
ふと倒れた謎生物に一斉に目を向けると、謎生物はなんの前触れもなくすーっと消えた。まるでファイのアブナイ系、という言葉を強調するかのように。
「やっぱり危なそうな国だねぇ」
一連の出来事が終わり、壊れた窓は黒鋼が丹精込めて布で穴を封じた後、誰かの「水の音がしない?」の一言で、出しっ放しのお湯の存在に気がついた。…手遅れだったけれど。
『あーーーー……』
「あはは、メイリンちゃんドジっ子だー」
「ドジっ子メイリンだー!」
『うるさいわよそこの白いの2人!!』
「「きゃーー!」」
(キケンなお出迎え)