ジェイド国
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「その羽根を渡せ!!」
「やめろーーー!!!」
ナイフの剣先がサクラを襲う。しかし、そのあいだに小狼が飛び込んだ。
息を飲んだ次の瞬間、ナイフが抉ったのはサクラではなく小狼の肩口だった。
「小狼君!」
小狼がサクラを助けた直後、地震が私たちを襲った。私に触れているファイの腕に力が入るのを感じる。
「何の音かなぁ」
「地震か?」
『…いや、多分違う。こういう川が近くにあるお城で起こるイベントなんて』
限られてる、と言い終わる前に壁を破壊して水が侵略してきた。
皆一応に反応する中、小狼はその状況に紛れてサクラの鎖を蹴りで解くのが見えた。
「川の水を止めてた装置が壊れたんでしょう」
「あー、古かったもんねぇ。あんまり長い間止められないんだねー」
そういうものがあったのか。だから、あんなに荒れていた川も、途端に静かに…。と考えていたら、私達と小狼達の間に大きな瓦礫が降ってきて、私達との壁になった。
『小狼!!サクラ!』
「子供達を上へ!必ず城から出ます、先に行ってください!」
この状況に狼狽えるグロサムさん。しかし、黒鋼もファイも小狼の言う通り、上へ上がろうとする。私はまだ、あなた達のようにしっかりした心がないよ。
…それでも、小さいことかもしれないけど、出来ることがあると思いたいから。
「さ、行きましょー」
『…ファイ、私はもう降ろして大丈夫。それより子供達をお願い』
しっかりとそう伝えると、さっきあんなに言っても降ろしてくれなかったのに、すんなり頷いてくれた。
「…分かったよー」
「おい!まだ仲間が危ないのに!?」
「“やる”って言ったらやる感じの人だからねー、小狼君」
久しぶりの地面は、死ぬほど冷たくて動くのが精一杯だったけれど、そんな弱音も吐いてられない。気を引き締めるために、近くにいた子供の手を引いて上を目指した。
何時間かぶりの外は、凍えそうなほど寒かった。いや、もう痛い。寒い通り越して痛い。
カタカタと震えている肩をしっかりと抱きしめて、また荒れている川を見据える。
「おい!来ないぞ!!
川の流れがまた速くなった!」
「これ以上流れが速まると、渡れなくなるぞ!」
「本当にあの二人、大丈夫なのか!?」
少し前から思ってたけど、この自警団の男の人煩いなぁ。ちょっとは沈黙とか、黙るとか、口を塞ぐってのを覚えてほしい。
ザァァアと川の音が鼓膜を震わせる。少しの間それが続くと、突然黒鋼が力強く呟いた。それと同時に、俯いていたファイも顔を上げる。
「……来た」
荒々しく流れていた水が突然大きく波打った。黒鋼がその波の中に手を差し伸べ、出て来たのは気を失っているサクラを抱えた小狼の姿だった。
「ひゅーー。“やった”ねー、小狼君」
『…よかった、無事で』
無意識に目尻に溜まった雫をなかったことにして、小狼の元へ駆け寄った。それはあの自警団の人も一緒のようで、冷たい川から上がりたての小狼に「先生は!?」と問う。
小狼は、その質問に眉を潜める。
「わ…かり、ません」
『小狼、寒いでしょ。いいからこれ着て?』
「追って来ないってことは…」
その一言に、皆一斉にお城へ目を向けると、タイミングを計ったかのようにお城が崩れた。
そう。地下のあるようなお城で、しかも近くに川があると、崩壊イベントしか起きないのだ。
「城と運命を共にした…のかなぁ」
『……けれど、そういう人に限って、他の人に根強いなにかを残す』
心の中の声のつもりだったのだけれど、思わず声に出してしまった。
カイル先生はこの町にとって後世に語り継がれるくらい、いい教訓になるんじゃないだろうか。〈人は見た目によらない〉という、教訓くらいには。
そんなことを思いながら、私はサクラに羽根が戻る様をぼーっと眺めていた。
ーーーーーーー
お城での事が一通り終わり、私達は元カイル先生のお家へ戻った。
窓の外では涙なしでは見れない親子の再会が広がっていた。
「みんな嬉しそう!」
『また会えてよかったわね、あの子達も親も』
ベッドで横になりながら、窓の外の声を聞く。正直見えないから座りたいんだけど、それは横にいるファイが断じて許さなかった。
なぜだ……。
私には大げさだろうと笑い飛ばしたい程の包帯が、手と足にぐるぐると巻きついている。
「カイル先生は子どもたちを傷つけたりはしなかったみたいだしねぇ」
「羽根を掘り出すための労働力だからな。わざわざ怪我させたりはしねぇだろ」
黒鋼のその一言に、ふと私の頭にあることが横切った。
『あのさ、まだ私聞いてなかったんだけど、カイル先生はどうして子供達にその労働を強いることが出来たの?それも親に見つからないようになんて…』
「診察と称して催眠術を掛けてたんだってー。でも、サクラちゃんが見たっていうエメロード姫はなんだったんだろ?先生、サクラちゃんにも催眠術かけてた?」
「そんな様子はなかったと思います」
ファイは小狼の言葉によって、羽根の力の可能性を疑ったけれど、モコナがさらにそれを否定した。
「サクラ姫が視たのは、エメロード姫の霊のようなものかもしれません。サクラ姫は小さい頃から、死んだ筈の人や生き物を視たり、話すことが出来たそうです」
穏やかに、そして懐かしむようにそう言う小狼に同調して、私も少し懐かしむ。
木之本さんと同じ魂を持った女の子。その子が必死に、霊と話して危険に立ち向かって行く姿が、前の世界と酷似する。錯覚してしまう。この子が本当は木之本さんで、目の前の小狼は、私の従兄弟の小狼なんじゃないかって。
「玖楼国の人ってみんなそうなのー?」
「いいえ。おれが知る限り、今は神官様とサクラ姫だけです」
「小狼君はー?」
ファイがそう聞くと、小狼はふるふると首を横に振るだけだった。こんな素直な子が、いとこの小狼なわけないか。
「黒るーは?」
「んなもんねぇ」
「メイリンちゃんはー?」
『そんなのあったらエメロード姫の無実を即刻晴らして暴れ散らしてるわ』
「オレもそっちの力はないなぁ」
「幽霊だったらモコナ視えないし感じない」
ふむふむ、そーなんだーと顎に手を当てて考えるファイ。
「幽霊とか視えるのは、黒くて青いお耳飾りのモコナなの♡」
「なんかいたな、黒いまんじゅうみたいなの。白まんじゅうは役に立たねぇな」
「モコナ頑張ったもん!大活躍だったもん!!」
『え、そうだっの?』
そら知らなんだ、とぽかーんと口を開けてたら、黒鋼と遊んでいたモコナがこちらに飛んできて泣き真似をする。
「メイリンのばかー!」
『ごめんごめん。モコナの頑張り物語、しっかり黒鋼に語ってもらうからさ』
「なんで俺なんだよ!」
『ちょ、そこにあったからって枕投げないでよ大人気ない!』
ぼふん!と私と黒鋼の枕の応酬が始まり、モコナも(何故か木の棒で)参戦した。そこにファイも加わり、自体は悪化。借り物の枕から羽が飛び出してきたりしたけれど、珍しい笑顔で小狼は笑う。
そんな何処にでも、いつでもあるような楽しい時間は過ぎて、ふとモコナがベッドへ視線を当てる。
どうしたのだろうと観察していると、どうやらサクラが起きたのを察知したらしい。皆にそのことを伝えて、モコナはいち早くサクラの元へ寄った。けれど、サクラはモコナのことが見えていないのか、他のことに囚われているような表情だ。
「大丈夫ですか?」
「ずっと…誰かが視てる、って……どういうこと…?」
「姫?」
「もう一度エメロード姫に会わなきゃ!」
(不穏な種は未だ芽を出さず)