ジェイド国
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寒い、寒い、寒い、寒い。そんな感情が溢れてしまい、瞼を思いっきり開かせた。視界に映るのは借りていた暖かそうな寝室とは雲泥の差と言えるほどボロボロで不潔そうな埃だらけの部屋だった。知らない天井、もとい部屋に覚えがなさすぎる。
一体どうしてこんなところで寝てるの?
『……手錠に、それに足枷?』
パニックになってきた時は落ち着こうとする行動が大事だと昔何かで読んだ気がする。
深呼吸を数回繰り返すが肺に冷たい空気と埃が入って辞めた。
一先ず状況把握をしよう。わたしの手首には割と新しめの手錠、足にはその先に拳大ぐらいの鉄球が二つ。寒さも相まってあまり長くは保ちそうにないし、外に出ることも難しいだろう。労力を惜しまず幽閉した人物は、私に相当ここから出て欲しくないらしいという事がわかった。
『そういえば、サクラ…!』
部屋を見渡しても誰の気配もなかった。扉は蹴破ればなんとかなりそうなくらい古いけれど、鉄球があるから両足とも言うことの聞く範囲が非常に狭い。外から扉が開いたとしても脱出は難しいかもしれない。
すくっと立ち上がり、鎖の長さギリギリにある扉の上部についてる鉄格子を覗く。
外には今いる部屋と同じようなものが何部屋かあるようだ。きっと、その中のどこかにお姫様がいる。
すると、ぺたぺたと可愛らしくも恐怖心を煽る小さな足音が複数と、大きな衝撃音が左の方から聞こえた。
『サクラ!?』
「メイリンちゃん!?そこにいるの?」
『良かった…、あなたにもしものことがあれば小狼に顔向け出来なかったわ。
それで、あの足音は何?』
「行方不明だった子供達が一斉に何処かへ行ってるの!メイリンちゃんは、そこから出られそう?」
『私は…』
情けない。サクラでさえ出られたというのに、この私が拘束具にやられて出られないなんて…。
『私は、後で行く。サクラは先に子供達を追いかけて!』
「わかった」
こくりと頷き、強い足取りで子供達を追いかけた。私は安心と敗北感でその場にへたり込んだ。
『…あはは、情けない。魔法少女でもなんでもないあの子に負けたなんて』
わかってる。こんなの勝ち負けじゃない。私とサクラじゃ囚われ方が違ったかもしれないし、寧ろ怪我せずに出られたことを喜ばなきゃいけないのに。冷たく赤くなってきた手足をさすりながら、どうすることも出来ないこの状況を呪った。
『……クソっ!!!!!
こんなもの!!こんなもの!!』
両手にある鎖を引きちぎろうと外側に強く力を入れる。何度も、何度も。
足枷の鎖を殴りつけても千切れない。それ以前に、拳には血が滲む。けれども、私は殴りつけるのをやめなかった。部屋の中に、ガツンガツンと、虚しい音だけが何百何千回と響いた。
サクラが子供達を追いかけて、どれくらい経ったかはハッキリ分からないけれど、悠に数十分くらいは経った気がする。私の鎖は未だに千切れていなかった。
すると、誰かの早い足音が聞こえた。走っている…、しかも足音からして誰かに追われて焦っている足音だ。男性で、あまり運動が得意でないことくらいしかか分からない。あれは誰だろう…。扉の鉄格子からじゃ、遠すぎて顔が判別できなかった。
そのあと、少し間があいて今度は何人もの足音が聞こえた。
「地下って広いんだねぇ」
「なんだこの部屋は!?」
この声、聞き覚えがある。喉が渇いて顔も凍ってきたけれど、ここを逃してしまうと本当に死んでしまう。そう思えば不思議と大きな声が出た。
『ファイ!!!!黒鋼!!!』
「その声……、メイリンちゃん!!!」
やっぱりファイ達だ…。私1人じゃ開けられなかった部屋の扉は容易く蹴破られて、手錠と足枷は黒鋼が力づくで千切ってくれた。
ああ、助かった。と思ったのと同時にやっぱり自分が情けなくてじくじくと心が冷えていった。けれどファイはいつものヘラヘラ顔じゃなくて、分かりやすい心配と安堵の酷い顔をしながら私の元へ来て、血まみれの手をそっと包んで抱きしめた。
「恐かったね、もう大丈夫だから」
『……ばか。全然、怖くなかったわ』
閉じ込められていたのは、怖くはなかった。それは本当だ。けれど、私は守れなかった。
女の子1人すら守れないまま、ただ自分の無力さを嘆いて座り込んでいただけ。それが怖くてたまらなかった。
そんな事で涙ぐむなんて、お門違いだ。心配してくれる人がいて、助けてくれる仲間もいる。だったらまだ頑張らなきゃ。
「メイリンさん、姫は!?」
『…あっちよ。子供達を追っていったわ!あなた達の前に1人、ここの部屋を通った人がいるから、もしかしたら』
「それはカイル先生です。
全ての黒幕も」
行きましょうと、廊下を走る小狼と黒鋼とグロサムさんと自警団の人。私もそれに続こうとすると、ファイに体をふわりと持ち上げられ、そのまま走る。
『ちょ、降ろして!お姫様だっことかしなくて大丈夫だから…!自分で歩けるから!!』
「だーめ。裸足だし、赤く霜焼けもしてる。…それにオレ、メイリンちゃんのことすーっごく心配してたんだ。一緒にいればよかったって。
だからこれぐらいさせて」
口元だけにこりと笑うファイに、どうしてだか罪悪感が生まれた。余裕がないのはお互い様だっただろうけど、なんともこの格好は羞恥心にダイレクトアタックが過ぎる。
有無を言わさないファイは私の了承もなく、その後無言で私を丁寧に運んだ。
階段を駆け下りて、大きな広場に出る。そこには、サクラの足に繋がれた鎖を奴隷商人のように無残に引っ張り捉えるカイル先生の姿が。
「サクラ姫!!」
「おっと、近寄るな」
サクラの喉元にカイル先生がナイフを添える。皆に焦りが広がる。ふと、カイル先生は私に目線を上げた。
「どうやらもう1人も脱走出来たんだな。…まぁいい。この羽根さえ手に入れれば、こんな小さな町、いや国も全部意のままだ。何せ三百年前、金の髪の姫はこの羽根の力で城下町の子供達を救ったらしいからな」
「金の髪の姫は子供達を攫って城で殺したんじゃ…!」
「殺すためだけなら、こんな部屋必要ないだろう」
この広い大きな部屋には、至る所に子供達が喜びそうな遊具やおもちゃがたくさんある。
それに、私や、多分サクラの閉じ込められていた部屋にも何台ものベッドが置いてあった。
「城に集めた子供達の為のものか…」
「羽根を手にした後、王と后はすぐに死んだって!」
自警団の男の人は、にわかには信じられないと言いたげな顔だった。けれど、どんな御伽噺にも必ず知らない面が存在するように、言い伝えられたことが真実とは限らない。
突然、サクラが何もない方向をしっかりと見つめて、呟いた。
「…違う」
当事者でも町の人でもないサクラが否定したからか、この場にいる全員が驚いた。そして、少しの沈黙から、サクラはまた可笑しな事を言い出す。
「じゃあ、いなくなった時と同じ姿で戻ってこなかったっていうのは…」
「サクラちゃん、誰と話してるんだろー?」
『…あの子にしか、見えない
昔、大道寺さんに聞いたことがある。サクラと同じ魂の、木之本さんも"そう"だったと。
普通の人には見ることが出来ない、幽霊が見えるんだって。あの子にもきっと、今は亡きエメロード姫の幽霊が語りかけているのかも知れない。
しかしそんなことは知る由もない、否、知る必要のないカイル先生は喉元に突き付けていたナイフを、サクラ目掛けて振りかぶった。
(ゴーストはかく語りきを)