ジェイド国
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
町へ帰ると、子供たちを探しに行った人たちが疲れ果てていた。今朝いなくなった子はまだ見つかっていないようだ。泣咽ぶ母親の腕には、消えた女の子のお気に入りだったのだろうぬいぐるみがそこにあった。
ふとある場所へ目をやると、カイル先生と親子がある家の玄関先にいた。
「お大事に」
「往診ですか?」
「ええ。今朝いなくなった子と仲が良かった子供達が随分ショックを受けているので…」
『あぁ、だから』
「どうしたのぉ?メイリンちゃん」
『あの子、今朝いなくなった子とお揃いのぬいぐるみを抱きしめているから…』
よほど仲が良かったんだろう、と心の中で労わると、カイル先生のどうやら小狼が持っていた本に向いたらしい。
「本は借りられたんですね」
「はい、町長さんに」
するとカイル先生は悲しみに満ちた顔でお姫様の元に寄る。
「貴方が見たという姫のことでもいいんです。何か分かったらどんな些細な事でも教えてください。子供達が、一日でも早く戻ってくるように」
夜、先生の家へ戻ると小狼とファイと黒鋼は、黒鋼と小狼の借り寝室へと篭った。
「今からこの本について小狼に説明してもらうんだけど、サクラちゃんとメイリンちゃんはどうするー?」
「わたしは、寝室にいます。今日も金の髪のお姫様が見えるかもしれないし」
『私も寝室に。なんだか朝から忙しかったから、先に休むことにするわ。
小狼には悪いけど、また明日話してもらってもいいかしら?』
「はい、大丈夫です」
『ありがとう。
じゃあ、おやすみなさい』
私はお姫様とも小狼達とも別れて、貸してもらっている寝室に向かう。
ドアをあけて、上に着ていたコートを脱ぎ捨ててベッドへと沈む。
ぼーっと天井を眺めて考えるのは、この世界のこと。
私はこの世界のことを一切覚えてない。前の、霧の国や高麗国のことはきっちり覚えていた。春香ちゃんのことも、秘術がどうのってことも、湖の小さな国のことも。
けれど、このジェイド国のことはさっぱり覚えていない。それは、私の記憶の所為なのか、それとも…。
『っくしゅっっっん!!』
考えていたら鳥肌が立ってしまった。カーテンを閉めてしまおうと窓のそばに立つと、雪の中を子供達がとぼとぼと歩く中、一人の女の子がそれを追いかけるように走る姿が見えた。目を凝らすと、その女の子の纏っているドレスはとても見覚えがある。
『…いやいやいやいや、なにやってんのよあのお姫様は!!?』
思わず窓を開き、寒さなんて押し殺してそばにあった樹をつたって下まで降りる。そして、自慢の足の早さでお姫様に追いついた。
『あなたなにやってるの!!』
「メイリン、ちゃん?!
あの、金の髪のお姫様が、子供達を…!」
『…っくそ!!』
どうしてその姫があなただけにしか見えないのか、どうしてあのとぼとぼと歩いている子供達に追いつかないのか、そのことについて今は触れない。余裕がない。
とりあえず、この意外と行動派なお姫様を1人にしないことを念頭に置かなければ。
『あの道は確か、お城…?』
もしかして本当に子供達は、お城に行くの?子供達だけで?あの川を渡るつもり?あの大男代表の黒鋼ですら渡るのが難しいのに?
頭の中を疑問符がぐるぐるとまわる。
やはり、このお姫様を追う前に小狼達に話した方が良かった?いやでも、お姫様1人にして手遅れになったらマズイ。
考えが堂々巡りしていると、目の前を走っていたお姫様が狼狽えだした。また、何かあったのだろうか?金の髪の姫が見えない私としては、見守るしかできない。後手にしか回れない。
すると、子供達の目の前にあった荒々しい川が、一瞬にしてピタリと止み、静けさを手に入れた。
あんなところ渡ろうとしたら、黒鋼ならいざ知れず、あんな子供なら流れが止まっていてもすぐに溺れてしまう。
けれど、そんな予想はすぐに崩されることになった。
ピタリと止まった川の上を音もなく渡る子供達が自分の瞳に映る。
『嘘、でしょ…?水の上を歩いてる?』
「………だめ」
『ちょ、お姫様!?』
「ごめ、…ん、なさ」
ばたりと電池が切れたように倒れるお姫様をなんとか抱き上げ、途方に暮れる。今ならば渡れるかも知れないが、この子を置いてはいけない。かと言って、この子を担いで渡れるほど、私には背丈も力もない。
鼻先が凍るほどの寒さなのに、背中に冷や汗が垂れる。
『…どうする、どうする、どうする』
「大丈夫ですよ」
『え、』
ガツンと、大きな音を立てて私の頭は鈍器で殴られた。表現的な意味ではなくて、物理的に。一気にブラックアウトする視界に最後に映るのは、雪の上で童話のお姫様のように横たわるお姫様の姿だった。
(白雪姫は暗い暗い、夢の中)