ジェイド国
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カイル先生の言葉により、空気はまた固まってしまう。
「史実ということでしょうか」
「この国、〈ジェイド国〉の歴史書に残っているんですよ。『三百年前にエメロードという姫が実在し、突然王と后が死亡し、その後次々と城下町の子供達が消えた』」
「子供達はその後、どうなったと書かれているんですか?」
こういうことに関して、小狼はとても好奇心旺盛のようだ。
そんな小狼に悪い顔をせず、カイル先生は答えてくれた。
「“いなくなった時と同じ姿では、誰一人帰ってこなかった”と」
「そりゃあ、生きて帰ってこなかった、ともとれるな」
『…黒鋼、お行儀悪い。フォークは咥えるものじゃないわよ、いくら独創的な食べ方するからって』
「うっせ」
事件の話はまだ続く。
「城は既に廃墟ですが、その時とあまりにも似ているので、町の人が伝説の再現だと思ってしまうのも無理はないのですが…」
「町で金の髪の姫を見たのは他には…」
「いません。サクラさん、とおっしゃいましたね、貴方が初めてです。その事でグロサムさんが何か言ってくるかもしれません」
「サクラちゃんは初めての目撃者かもしれないものねーー」
小狼はその話を踏まえて、少し考えた後、カイル先生にある事を聞いた。
「その〈ジェイド国〉の歴史書は読めるでしょうか」
カイル先生が教えてくれた場所へ、私達は歩いて向かった。
流石になんでも馬ってわけにもいかないし、歩いてもいける距離らしいので。
でも、歩く、と言うことは足を動かすということ。地を踏みしめるということだ。しかし、このドレスに慣れといない私はどうだ?地を踏みしめる、というより、ドレスの裾を踏みしめることになりそうじゃないか。いやいや、実際に今なっている。
『うわっとと』
「メイリンちゃん大丈夫ー?そんなに苦手なら、カイル先生のところにお留守番でもよかったんだよー?」
『……うるさいわね、これくらい平気よ』
「にしてはさっきから躓いてばっかりだけどーー?もう、しょうがないなぁ」
『え?』
ファイは突然私の手を取り、自らの腕に絡めて「こうすると、危なくなったらオレが引っ張ってあげれるでしょ」と言った。
寒くてもこいつはブレないなぁ。
「ねぇ、小狼君がこの国の歴史書が読みたいのは純粋な興味ー?」
「それもありますが、確かめたいことがあって」
『確かめたいこと?』
話していたら、いつの間にかカイル先生に教えてもらったお屋敷についていた。あの気弱そうな町長さんのお家だ。ファイはなんの躊躇もなく、私がいた世界では考えられない呼び鈴?ベル?を鳴らした。
「歴史書はグロサムさんのところにもあるらしいけど、あの人は貸してくれそうにないでしょー」
「…は、はい」
中から不審そうに出てきたのは、お手伝いさんらしき女性だった。
揚々とファイが町長さんがご在宅かを伺うと、奥にいた町長さん自らがお出迎えしてくださった。私達の訪問に驚いていたが、中へ入れてくれた。割といい人だ。誤解して申し訳ない。
『ねぇ、黒鋼。今の状況と全く関係ないけど、そのボコってしてるのなに?』
「…おい白まんじゅう!いい加減這いずり回るのやめろ!!」
黒鋼が怒鳴ると、さっきから
もぞとぞと動いていた黒鋼のコートのボコっと部分、もといモコナは動かなくなった。
『あはは、あなた達実は割と仲良いわよね』
「良かねぇよ!!」
町長さんに案内された場所は、客間だった。広々としていて、暖かかったから、思わず顔がほころぶ。
しかし、私とは反対に町長さんは一人がけのソファへ腰を降ろすと同時に重いため息を吐いた。
「これで二十一人目だ」
『手がかりになるようなものは、なにもないの?』
「残されていなかったよ、今回も」
町長さんは頭を抱えて言う。
「数年前から気候が安定しなくて、ずっと凶作が続いているんだ。そうで無くても皆気が立っているのに、どんどん子供が消える。その上三百年前の伝説まで…」
「子供が最初にいなくなったのは?」
「二ヶ月前だよ。早朝、木の実を拾いに行ってそのまま帰らなかった。それから、一人消えたり、三人一緒だったり。大人は何度も、夜外へは出てはいけない、知らぬ者について行ってはいけないと言い聞かせている。それなのにいつも暴れた様子もなく、ただその場から消えている」
町長さんは小狼に歴史書を渡すと、顔を顰めてこう続けた。
「この歴史書は、エメロード姫についても、伝わっている話よりは詳しく書き記されている。わしも何度も読んだが、今回の件の手がかりは見つけられなかった。読み終わったらすぐに町を出なさい。
取り返しのつかないことになる前に」
ソファに掛けていたファイとお姫様は立ち上がり、小狼は町長さんにお礼を言った。
けれど、その後には「でも」という言葉が続いたことに、私はクスリと笑う。
「やらなければいけないことがあるんです」
そうだ。私達はそのために旅をしているのだから。
あれから町長さんのお屋敷を出て、徒歩から馬に乗り換えた。私はまたファイと乗り、今回お姫様は黒鋼の馬に乗馬だ。理由は至極簡単で、小狼が馬に乗りながら読書をしていて危ないから、というものだった。
「ひゅーー、すごいねぇ前も見ずに」
『こうもすごい集中力なら、思わず拍手したくなるわね…』
義務教育でみっちり習った私ですらあんな英文まみれの本、一文一文ゆっくり読まなきゃ理解できないのに、小狼は馬を操りながらって…。と感心していると、久しく本に目を落としていた小狼が急に頭をあげて「この先です」と指を指した。
その方向へ首を動かすと悲しくも歴史と化してしまった城の後が大きくそびえ立っていた。
『あれが、北の城…』
「しかしこれ、どうやって城まで行くんだ?」
黒鋼の発言もそのはず、城と私達のいる場所の間には大きく激しい川が行く道を遮っていた。
「黒鋼渡れない?」
「無理だろう、特に子供を連れてじゃあな」
「この川、三百年前にもあったようですね」
『じゃあ昔はどうやって渡ってたのかしら?』
「ここに橋があったんでしょう」
「それ以外に城に行ける方法は見当たらないねぇ」
「じゃあやっぱり、子供たちを城へ連れ去るのは無理ってことか」
本をキュッと握りしめている小狼の顔は、まだ納得していないような様子だった。
『っくしゅん!』
「だいじょーぶー?」
「お前本当に寒さに弱ぇなぁ」
『うるさいわねぇ…。
さっきの川の風が冷たいのよ!』
「んー、なにもなかったしそろそろ帰ろうか」
城からの帰り道。雪によって馬の足音が消される中、ファイは最初に口を開いた。
「手がかりっぽいものもなかったねぇ。城には近づけなかったしー」
「モコナも強い力、感じなかった」
「サクラちゃんの羽根も不明かぁ」
『八方塞がりね…』
この先どうしよう、と考えていたら近くにいたお姫様が急にふわりと声をあげた。
「あ…」
『なに?どうしたの?』
「あーー、グロサムさんだー」
「んな所でなにしてんだ?」
「あっちなんにもないのにねぇ」
『あるとしたら、…お城くらいかしら?』
こんな所に一人でいるグロサムさんを怪しむべきなのだろうけれど、私にはどうしても、あの悲しそうな背中をそうは見れなかった。
(サイレント・サイレン)