ジェイド国
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「先ほどはお恥ずかしいところを、すみません」
「いえいえー、うちの使用人が顔怖いのがいけないんですー」
「んだと!?」
『そうよ、静かにしなさい。使用人』
「埋めるぞ小娘!」
先生と呼ばれた人は、快く私達を家へ招いてくださった。
暖かいコーヒーを入れてくれて、今はそのお家でほっと一息ついた時だった。コーヒーがじんわりと五臓六腑に染み渡る。
「自己紹介がまだでしたね。私はこの町の医師、カイル=ロンダートと申します」
「ありがとうございます、泊めて頂いて」
「気にしないでください。ここは、元は宿屋だったんですから」
「どういうことだ先生!こんな時に素性の知れない奴らを引き入れるなんて正気か!?」
一難去ってまた一難、とはこのことかも知れない。
勢い良く開いた扉の前には、品よく整われた髭を生やした男の人が、今にも噛みつかんとして立っていた。
「お、落ち着いてください、グロサムさん」
「これが落ち着いていられるか!町長!!まだ誰も見つかっておらんと言うのに!」
怒鳴り散らしながら、中へ入ってくるグロサムに、へこへこする気弱そうなご老人。一体この人は、この村とどういう関係があるのだろう。
すると、カイル先生は「だからこそです」と、私達の方を向いて話し始めた。
「この方達は、各地で伝説や伝承を調べてらっしゃるとか。今回の件、なにか手がかりになることをご存知かもしれません」
「どこの馬の骨とも分からん奴らが、なにを知っていると言うんだ!」
「この地で暮らす者では、分からないことを」
「これ以上何かあった後では遅いんだぞ!」
凄い剣幕でそう言い放ち、グロサムはこの家を後にした。
「と、兎に角、その人たちを夜外に出さんようにな、先生!」
グロサムの後を追う様に、町長と呼ばれたご老人も出て行った。
しかし、あのご老人、私達をなんだと思っているんだろう。怪しいのは分かるけれど、言い方が腹立つ!
「すみません、紹介もできないで。今のが、町長とグロサムさん。グロサムさんはこの町のほとんどの土地の所有者です」
「大変な時にお邪魔してしまったみたいですねぇ。隣町で聞きましたー、この『スピリット』の伝説のこととか」
「私も、あれは良くあるただの御伽噺だと思うんですが。まさか、本当に子供達がいなくなってしまうとは…。手を尽くして探しているんですが、一人も見つからなくて。もう20人になります」
「そんなに…」
『ご両親の方々も気が気じゃないわね』
「俺たちを見て警戒するわけだ」
20人も同じように行方不明になっては、いなくなった子供の両親も悲しいが、その光景を見ると明日は我が身、と思わざるを得ないだろう。
しかし、何故だろう。そんな家族を労わるのが当たり前で、そういう仕事をしていて、そんな表情は自然なはずなのに。
どうしてこの医者からはこんなにも不自然なモノが溢れ出ているのだろう。
「さっき、グロサムさんに言った様に、些細なことでもいいんです!
子供達を探す糸口があれば教えてください!」
ーーーーー
「とりあえず、宿は確保できたねぇ。ナイスフォローだったよー」
『本当。あんな大嘘よく思いついたわね、びっくりしちゃった』
「父さんと旅をしている時にもあったので」
しかし、この町にいる間、あの嘘を吐き続けなければいけないと思うと、なんだか心持ちが重くなってくる。ふと、窓の外を見ると、もう遅いのに町の人たちがランタンを持って歩き回っていた。きっとこの町の自警団か何かだろう。
「でも、なかなか深刻な事情だねぇ。実際伝説の通りに、金の髪の姫君が関係してるのかは、分からないけどねー」
『とにかく、今日はもう遅いし』
私がそう言うと、お姫様はタイミングを見計らったようにふらーっと倒れてしまった。
「わっ!」
「…もう寝た方がいいみたいだねぇ」
そんなお姫様を抱っこして、小狼とモコナは「おやすみなさい」と部屋の中に消えて、黒鋼は無言で指定された部屋へ入った。
残ったのは、私とファイだけ。
「あ、言い忘れてたけど、メイリンちゃんとオレ、同じ部屋らしいよー」
『……へ?』
「あのお医者さんが気をきさせてくれたんだろうねー、ハニー」
『えっ、ちょ、本当に!?』
ガチャリと開けられた部屋には、ダブルベッドが一つと、その上に寄り添うように枕がふたつあった。それを見た瞬間、なんだかどうでもよくなった。
「…これはまたなんとも言えないねぇ」
『まぁ、ここでは寝るだけだし。私達の仲が悪いと思われて、嘘がバレても怪しまれるだろうし』
「んーーー」
『とりあえず寒いから2人で寝るのは得策ね。この際暖が取れればファイでもいいわ』
「あははは、随分積極的だねー。オレ大丈夫かなー」
『?』
何がどう大丈夫なのかはわからないけれど、ファイの顔が赤いのは分かった。
こんな寒いのに、まさか暑いのかな?雪国出身ならありえるな。
私はそんなファイを放っておいて、さっさと寝る準備に入ろうと準備を始める。
(真夜中の内緒)