ジェイド国
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食堂というのは、次元を超えても違う世界であっても雰囲気は同じだ。
髭をこさえた男の人がお酒を酌み交わしたり、忙しそうなウェイトレスさんが縦横無尽に駆け巡ったり、熱々のお肉が目の前に置かれたり、それを無心でガッツく奴がいたり。
ガチャガチャと煩いこの店にも、それらが全てある。しかし、可笑しいことが一点だけ。
そう、この世界ではあり得ない服装をしている私たちが、さも当然のように食事をしていることだ。
それがとても不思議なのか、他の客達はジロジロと、隠す気もなさそうにこちらを伺ってる。
「あはははー。なんか、注目されてるねー」
『見るのはいいけど、もうちょっと隠せって感じよね。気分悪い』
「やっぱりこの格好がいけないんでしょうか」
「んー、全然違うもんねぇ。ここの国の人達と。特にメイリンちゃんと黒たんがー」
『ちょっと、黒鋼は分かるけど、なんで私まで』
「だってぇ、メイリンちゃん足丸出しだしー。寒くないの?」
『丸出しって言わないで!こっちの方が動きやすいのよ』
「って言いながら俺の外套を膝にかけんな!」
『いいじゃないケチ臭い!』
私はいつまでもやいやい言っている黒鋼を無視して、ズズズとココアらしき暖かいものを飲む。すると、小狼はぐいっと体を前に乗りだしてファイに問う。
「あの、大丈夫なんでしょうか、この食事」
「んん?」
「この国のお金ないんですけど!」
「あっ!てめっ」
『ちょっ、黒鋼うるさい。なによー、モコナいい子にしてるじゃない』
「大丈夫だよー。ねっ、サクラちゃん」
「え!?」
ここで話が振られるとは思っていなかったのか、お姫様は目を丸くさせていた。あ、このグラタン美味しい。ミルクが濃厚なのかしら。今度作ってみよう。
こういう民衆食堂には、ギャンブルをして遊ぶテーブルもあったりするのはご存知だろうか?この食堂もそんなテーブルがあるようで、ファイはそれに目をつけたらしい。そういえばお姫様は、運が人一倍強いんだっけ?なるほど、出来レースか。
そんな出来レースに興味がない私としては、ここのあったか甘いココアを飲んでいる方が、よほど有意義だ。この旅にはこんなゆっくり出来る時間もそうないしね。
飛び入り参加で入ったのはお姫様1人。けれどさっきから1人で5連勝くらいはしてる気がする。しかし、ここのおじさん達もギャンブラーなことで。遠目から見ていても、私たちの懐が潤っていくのが分かる。
「お嬢ちゃんのカードは?」
「えっと、こうなりました」
お姫様が手札を見せると、皆さんとてもいい反応を表してくれる。ゲームのルールは知らないけれど、きっとロイヤルストレートフラッシュ並みの強い手札だったのだろう。
「何度やっても負けないなんて!」
「どうなっているんだ!!」
「イカサマじゃないのか!?」
しかし、ファイは芸能人のマネージャーの如くその野次をひらりと躱し、賭け金をザクザクと袋に詰める。
「文句があるならあの黒い人が聞くけどー?」
『呼ばれてるわよ、黒い人』
「あぁ?」
「い、いや…」
「疑って、わ、悪かった!」
モコナに食べ物を取られたことに腹が立っていたナイスなタイミングで、黒鋼は睨みをきかせた。そこだけ切り取ると、本当に人相が悪い。ただのヤーさんじゃないか。そりゃおじさん達もビビるよ。
「はい、サクラちゃんお疲れさまー。これで軍資金ばっちりだよー。この国の服も買えるし、食い逃げしないでオッケー」
『じゃあ、遠慮なく飲み食い出来るわね。
ありがとうお姫様』
「あはは…」
「しかし、凄いなぁお嬢ちゃん」
「ルールとか分かってなかったんですけど、あれで良かったんでしょうか?」
「ははははは!!面白い冗談だな!」
この子が相変わらずぽんややしているのは、どこの世界でも同じようだ。
ひとまず、お金の問題は解決した所で、私は早速さっきのあったか甘い飲み物を再度頼んだ。これ、やっぱりおいしい。
「それ、おいしいの?メイリンちゃん」
『暖かくて甘いわよ』
「いいなー一口ちょうだい」
『嫌だ。寄るな』
お前はティーンか、と言いたくなる様な言い草だったが。なんだよ一口ずつ交換とかしたことないだろ。
体もぽかぽかになったところで、ここの店員さんが小狼に話をふった。
「変わった衣装だな。旅の人だろう?」
「はい、探し物があって旅をしています」
「行く先は決まっているのかい?」
「いえ、まだ」
「……だったら、悪いことは言わん。北へ行くのはやめた方がいい」
店員さんの言葉で、さっきの愉快な空気とは一変した。曰く、北の町には古い伝説があるらしい。
昔、北の町のはずれにある城に、金の髪の、それ美しいお姫様がいたらしい。ある日、姫のところに鳥が一羽飛んできた。輝く羽根を一枚渡してこう言ったそうだ。
「この羽根は〈力〉です。貴方に〈力〉をあげましょう」
姫は羽根を受け取った。そうしたら、王様とお后様ないきなり死んで、姫がその城の主となった。
そして、その羽根に惹かれるように、次々と城下町から子供が消えて、2度と帰ってこなかったそうだ。
「それは、おとぎ話とかいうヤツかな」
「いいや、実話だよ」
「実際に北の町に、その城があるんですね」
「もう三百年以上も前の話だから、ほとんど崩れちまってるがな」
『で?そのお話があるから、北の町へは行ってはいけないの?』
「夜眠れなくなるからとかー?」
この白いの、完璧にナメくさってる。けれど、普通ならイラつくところだろうが、この店員さんは親切に最後まで教えてくれた。
「いや。
伝説と同じように、また子供たちが消えはじめたんだよ」
ーーーーー
「〈力〉をくれる、輝く羽根。
なんだかサクラちゃんの羽根っぽいねぇ」
一行は調達したお金で、服と馬を購入した。けれど、馬の方は三頭しか購入できず、小狼とお姫様、(不本意だけれど)私とファイが同じ馬に乗っている。
「モコナ、まだ強い力は感じない」
『でも、羽根がないとは言い切れないわよね。モコナが感知できないくらい、特殊なものに覆われているのかもしれないし』
「そうだねー。そういう状況下に置かれているかもしれない。
それに、昔の伝説って言ってけど、春香ちゃんのところでも、そうだったしね」
「で、行くのか?」
「はい。ーー北の町へ」
(RPGでいう始まりの町)